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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第八章 Last Days
113/144

Last Code

 彼等はもう、目立った動きはありません


 逃げきれない布陣では無いだろうな。そう言うからには次を決めているのだろう?


 それが...残る記録はこれから大きく動く事は無いのです。次は夜になります


 あの少年は?


 瓶が割れているので物資も集めません。天球儀にカメラを起き、陣場九郎氏の滞在していたホテルに立てこもっています。動くのも十一番目の精霊だけですし、それも偵察止まりです


 そうか...では、あのコードを呼び出せ。復元するんだ。イレギュラーとはいえ、元々の開発データから出てきたのだろう?精霊としての機能はある筈だ


 畏まりました。それでは、再生します




 Replay Code.Ophiuchi


 現在時刻、14時。

 残り時間、17時間。

 残り参加者、6名。




 叫んだ【積もる微力】が上へと飛び上がり、直後に爆音。何かが襲来したのが分かる。


「なになに、何事!?」

『下がっていたのは正解だな、また崩れるぞ。』


【疾駆する紅弓】が契約者を引きずって奥へ走り、それに八千代も続く。


『キュー?』

「...あ、うん。分かってる。」


 上を、健吾を気にして立ち止まる仁美だが、己の精霊に覗き込まれてハッとする。ここは危険なのだ、すぐに逃げなければ。

 奥へ走る彼女達と二柱の後ろから、風が吹く。瓦礫に押し出された空気の壁は、すぐそこに迫る圧死の未来を肌に感じさせた。


「どこ、まで!走るのさぁ!」

「死にたくなるまでじゃない?」

「足を止めろって事ぉ!?」

「多分、苦しくはないわよ。痛いでしょうけど。」


 息を切らせながら叫ぶ四穂の横で、汗の滲む八千代が囁きながら走る。少し遅れて【疾駆する紅弓】が追従し、その後ろを仁美が必死に追いかける。

 崩れる通路の天井へ、その身を押し当てる【辿りそして逆らう】が、少しでも崩落を遅らせてくれるが、それもいつまでか。

 長く感じたほんの一分程の時間、その間続いた地鳴りが収まりへたりこんだ三人の前で見事に通路は消えていた。


「あー...もう進むしか無いね、これ。」

「私から言うなら戻るって所だけど。」

「大丈夫、なんでしょうか。」

「何がかしら。この道の向こう?それとも、片腕の彼?」


 うんざりしたのを隠さない声音で尋ねる八千代に、どちらもだと返した仁美。互いに距離を測り兼ねるような微妙な空気に、四穂が割って入る。


「まぁ、あのお兄さんなら心配いらないって!それに向こうだって、こんな大きな事があったなら山から移動するんじゃ無いかな?ね?」

「私なら全員では移動しないわよ。彼一人で撃退出来れば良いけど。」


 八千代の視線を感じ、埋まった通路を眺めていた狩人の精霊は、契約者達に振り返る。


『なんだ、そんな心配か。それなら問題ない、今から何方も解決してこよう。』

「え?どっちもって...どゆこと?」

『もう一人の契約者も救う、こちらの契約者も助ける、それだけだ。このまま進むといい、武装集団と会うことは無いだろう。あるとすれば、我があの山羊相手にしくじった時くらいだ。』

「つまり、無いってこと?」

『...ふん、そう思うならそうだろう。』


 大きな信頼を言葉にされ、照れているのか。顔を背けた【疾駆する紅弓】に、ニヤニヤと四穂が近づくが、すげなく追い返されてしまう。


「それで?具体的にどうするつもりなのかしら。」

『ルクバトにあの獅子どもを山に運ばせる。あの山羊の精霊は我が仕留めよう。』

「本気?彼女の精霊は手強いのよ?」

『見れば分かる。だが、やりようがない訳では無い。ルクバトが戻るまでに勝負が決するのなら、運のようなものだろうとも。』


 確信に満ちた声音。その自信は、生来の物か状況に裏付けられた物か。ほとんど出会ってこなかった八千代には判断がつかなかった。


『では山まで行くといい。間に合えば我も迎えに行こう。来ねば獲物の逃げ足が厄介だと言う事だ、先にそこを離れていろ。』

「私はもうリタイアするわよ?演技じゃない荒事なんて御免だわ。」

『貴様の事は知らん。』

「冷たいのね。」


 流し目を送る八千代は視界にさえ入れず、狩人の精霊は己の契約者の背を押し出した。抗議の声を上げようと振り向いた時には、既に精霊はいなかった。霊体化し、地上に向かったのだろう。


「もう、勝手に居なくなるし!」

「日も暮れます、から...魚座の精霊が、来るかも。」

「生きてるなら、あの精霊は来るでしょうね。」

「ここで襲われたら...埋められ、ます。」

「生き埋めは御免ね、すぐに移動しましょうか?」


 暗がりの中に慣れた目が、ぼんやりと先を示す八千代を写す。【疾駆する紅弓】の消えたこの道は、あまりに暗い。

 スマホを取り出して辺りを照らす四穂を先頭に、地下道を進む三人の足音だけが響く。光の届かない場所では、狂った時間感覚が長い沈黙を感じさせる。


『キュー?』

「ん、大丈夫だよ、【辿りそして逆らう(トレスonリベリオン)】。」

「重くないの?その子。」

「疲労回復効果あるみたいですよ...」

「便利ね...」

『キュ〜?』


 見つめられて首を傾げる小竜の精霊が、不意に仁美から離れる。三人が見つめる中、先に進んでいく精霊。


「なんか...行っちゃったけど。」

「何か見つけたのかしら?」


 急ぎ足で追いかければ、簡単に追いつく距離。フワフワと飛ぶ【辿りそして逆らう】は人の歩く速度より僅かに遅い、手を伸ばして仁美が捕まえると、小竜の精霊は腕に巻きついて引いていく。


「どうしたの?」

「急いでるみたいね。暗いのが怖くなったのかしら?」

「だったら先行かないでよ!なんでそんなに早く歩けるのさ!」


 ライトを持った四穂が、小走りに二人を追いかける。疲労を回復してもらっている仁美と、長身で体力もある八千代。長い道のりでこの二人と同じペースで歩くのは、流石に堪えてくる。

 息の上がっている四穂を見て、休憩を提案しようとする八千代だが、【辿りそして逆らう】が一行を急かしている。


「ねぇ、この道どこまで続くのぉ...」

「私、休みながらとはいえ目が覚めてからずっと歩いたのよ?まだある筈ね。」

「嘘ぉ...」

『シュー!』


 四穂の嘆きは、急かす精霊の声にかき消された。




 時々疲労を回復して貰いながら、三人で歩き続ける事、一時間程。暗がりの中にぼんやりと明かりが見え始め、終わりが見えた一行が活気づく。

 しかし、聞こえてきた銃声に、思わず足が止まった。


「何事!?」

「まだ残ってるみたいね。馬で辿り着くのは、そんなに遅れないと思うのだけど。」

「何か、あったのでしょうか...」

「そりゃ、何も無いなら銃声なんてしないでしょ?」


 ボロボロ階段へと足をかけ、臆すること無く進んでいく。登っていく八千代を見て、チラリと仁美と目を合わせた四穂も、すぐに後を追っていった。

 明かりを持った人が登り、暗くなった底に仁美が残される。危険の予感がする地上、そこに足を踏み出す事に躊躇する仁美に、精霊が顔を覗き込む。


『キュ〜?』

「...うん、そうだね。行かないと、始まらない。」


 すぐに二人を追いかける仁美だが、登りきる前にその足を止める。吹き飛んだ納屋の下で、二人が止まっていたからだ。


「不味いわ...こんなに集まってるとは思わなかった。」

「精霊もいないし...どうする?」

『キュ?』

「貴方には難しいんじゃないかしら?」


 そう言って八千代が退いた隙間、そこから見えるのは、何人もの武装した人間達。


「警察...?」

「の域を超えてるわね。」

「機関銃なんて初めて見たよ、ボク...あれ本物なのかな?」

「そうでしょうね、ゲームだけど。」


 暫く待ってみても、数は減ることは無い。どうやら、彼等は残存勢力として山の調査をしているようだ。


「さっきの銃声は、何か分かりました、か...?」

「さぁ?痕跡がある訳じゃ無いもの。でも、何かを警戒してるみたいなのよね...」


 再び地上を向いた瞬間、八千代の顔に赤い点がポツリ。咄嗟に四穂が引き倒せば、木造の床材が爆ぜる。


「あら、バレてたのね。」

「こんな時まで冷静装わなくていいですから!?」

「装ってないわ、理解が追いついてないの。助かったわ、ありがとね?」

「誰か居たぞ!!」


 発砲した者の声だろうか。一斉に集まってくる足音、そして集中するレーザーポインター。今更誤魔化すにしても、遅いと言う他ない。


「引き返すしか無さそうね...!」

「もー!【疾駆する紅弓(アルスナルケイロン)】の嘘つき〜!」

「防いで、【辿りそして逆らう(トレスonリベリオン)】...!」


 乱射された弾丸は、宙で回る小竜に弾かれ、正確に還る。銃口を通過し、ノズルの中で装填された弾丸を撃ち抜き、捻れ、ひん曲がる。


「壊れた...!?何されたんだよ!」

「こっちもだ!間違いない、その少女は異常発生者だ、殺せ!」


 真っ直ぐに向けられる強い殺意。怯む仁美へ一斉に銃口が集中する。この量、小さな精霊では防ぎきれるとも分からない。

 痛みを覚悟して目を閉じた仁美だが、聞こえてきた音は破裂音ではなく鈍い打撃音。目を開けた彼女が見たのは、紅く疾駆する軍馬。


「ルクバト...?なんで此処に...」

「助かったわね。注意が貴女に集まるのを待ってたのかしら?」


 おそらく、彼等が警戒していたのはルクバトだったのだろう。銃を持った武装隊を轢き飛ばした紅馬は、三人の前で膝を下げる。


「乗れ、って事?」

「だと思いますよ。多分、行先は天球儀、だよね。ボクのお願いを叶えてくれるんでしょ?」

『ブルルル!』


 御託はいいから早くしろ、そんな風にさえ聞こえる声を出し、尾を振り回すルクバト。肩を竦めて苦笑する四穂が跨り、手綱を固く握った。


「用事は同じですよね?ご一緒します?」

「そうね、お言葉に甘えようかしら。」


 差し出された手を取るでも無く、ヒラリとルクバトの尻に腰掛けると、四穂の背から伸ばした腕が手綱を奪う。

 引き上げようと差し出した四穂の手が、所在無さげにうろついてから仁美に向いた。


「護衛、お願いできないかな?ボクのルクバトなら、すぐにここから逃げられると思うよ?」

「三人も、乗れますか...?」

「あら、女の子の体重は軽いのよ。紳士なら何人でも運んでくれるわ、でしょう?」


 挑戦的に微笑んだ八千代に、ルクバトは鼻で笑う。自信に溢れた態度は、騎手にそっくりだ。


「その、よろしくお願い、します。」

「ボクの方こそ、天球儀までだけどよろしくね。」


 三人と一柱を背に、紅馬が行軍を開始した。

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