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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第一章 出会い
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少女の願い

 切れ長な目で長身の、端正な顔の男。少し冷たい印象さえ浮ける、そんな男性。


「ゲストハウスの...!」

「あぁ、訳あって彼処を使わせてもらっている。私は、双寺院(そうしいん)三成(みつなり)という。君達には、少しの協力を頼みたくてね。」


 黒いスーツと、少し気崩した白シャツ。それにコートを羽織り、何を持っているか分からない。

 警戒を続ける健吾の横に、ひょっこりと白い毛並みが現れる。


「のわっ!?」

『へい、兄弟。そうビビるなって。』


 笑うような声を上げながら、その精霊は三成の首に跳び移る。モフモフの細い身体と長い尾。


「カワウソ...?」

『何でだよ!?イタチだ!』

『おい、レオ。どうする?』

「いやお前、これは...どうすんだ?」


 困惑する彼等に、三成が一つ呟く。


「『悟りは何処』、覚えが無いかな?」

「...隠したのか?」

「隠した?いや、確かに裏ではあるが...気づかないだろうか?」

「獅子堂さん、この人が書いたみたい...。」

「...争いは望まない、か。」


 健吾の呟きに頷き、三成は後ろを指差した。


「もっとも、悟りは見つかったがね。」

「...あんた、参加者だよな?一体、何体の精霊と契約したんだ?」

「勘違いされている様だね。私は一人も、消していない。此方の美人は、彼女の精霊だ。」


 三成が後ろの巫女姿の精霊を示しながら、道の端に寄る。

 促された気配を感じてか、一人の女性が姿を表す。目立たない様な格好をしてはいるが、一目で綺麗だという印象を抱く。


「...早乙女(さおとめ)弥勒(みろく)です。」

『私は、契約精霊の【純潔と守護神(チャスタリアンドラゴ)】。』

「あれ?あんた、何処かで...。」


 ふと、健吾が考えを巡らせ、すぐに思い当たる。


「そうだ、あのビルの中に!」

「ふむ?ゲームの開始前に、会っていたのかい?」

「え、えぇ。最後に入ってきた人ですよね?」


 もやもやを確認できて、満足する健吾の横で、不安げに仁美が尋ねる。


「...協力関係、どうやって?」

「それを、君達が言うのかい?まぁ、ここは危なそうだし、あの龍は長く持たない。早々に撤退しよう。」


 三成の一声で、全員が背後の脅威を思い出す。


『...ちっ!気に入らねぇが、言うとおりだ。あれは手に負えねぇ。どうせ同じ拠点だ、帰ろーぜ、レオ。』

『キュッ!』

『まぁ、可愛い。でも...蛇?』


 精霊達にも促され、健吾は同意する。とにかく、目の前の二人、話は出来そうなのだ。今は離れることを優先する。

 少し緊張気味な仁美も、【辿りそして逆らう】に励まされ、三人に着いていく。隣に並んだ【純潔と守護神】が、首に乗る精霊を弄るので緊張はほどけないが。


『へい、兄弟。龍が還った。』

「もうか、想定より早かったな。少し急ごう。ポルクス、カストルには先に帰れと伝えてくれ。」

『あいあい、分かったとよ。』


 白い精霊が彼の肩をチョロチョロと走りながら、報告を繰り返す。それも今終わった様で、霊体化して見えなくなった。


「今のは?」

「ふむ、まだ君には教えられない。侮れない相手の様だからね。」

『あ?』


 後ろで歩く【積もる微力】を眺め、三成はそう告げる。


「所で、君達は何故あんな場所へ?私達は、君達を追跡していた訳だが。」

「え~と...」


 健吾が仁美を振り返り、彼女が少し身を固くする。それを見て、三成は諦めた。


「落ち着いてからにしようか。」




 四人が帰り、机に着いた頃には、既に4時。

 残りは5日と3時間である。

 比較的に小型な【辿りそして逆らう】は顕現しているが、他の精霊は途中で皆霊体化している。


「さて、此方は頼む立場だ。先に質問を受けよう。」

「質問って言われても...参加者なんだよな?」

「無論だ。しかし、職業柄というべきか、与えられたと感じる情報は嫌いでね。願いにはあまり興味が無い。」

「職業...?」


 仁美の呟きを拾い、三成は頷きながらそちらを振り向く。


「しがない探偵業の男だよ、お嬢さん。参加者の一人、彼女を探すのが、私の目的、というより現在の仕事かな。」

「私が依頼したのです。その彼女と言うのが...。」

「君達の出会った魔羯登代、その人だ。」


 少し良いよどむ弥勒に変わり、三成がその名を出す。


「獅子堂君、そしてお嬢さん。君達は彼女と、そして契約した精霊と対面経験がある。しかも、一時は圧倒していた様だしね。そこで、彼女の情報を探る協力を申し出たい。」

「私からも、よろしくお願いします...!」


 健吾が悩んでいると、仁美が声を発する。先程から、少しうつむき気味だった彼女だが、ようやく慣れてきたのだろう。


「私の、メリットは...?」

「勝利の補助...と行きたいが、君達の目的が分からないね?」

「俺は...妹の治療費だ。早急に必要なんだが、世話になってる親戚の家、あんまり貯金が無くて...対処療法でかつかつで。」

「成る程。真っ当で安心したよ。そうでない者も、居るだろうからね。」


 言い淀んだ仁美の変わりに、健吾が答える。それに頷いた三成と、顔を暗くした弥勒。俯く仁美の顔色は、【辿りそして逆らう】に隠れて伺えない。


「...貴女は?彼と対立するならば、私にはどちらも助ける、とは行かない。」

「そ、れは...。」


 健吾の顔色を伺う様に、仁美が交互に視線を行き来させる。三成は更に訊ねようとするが、その前に弥勒が話しかけた。


「その、先に話し合って来てはどうですか?状況が変わった様ですし、私達はここに居ますから。」

「早乙女君、それでは」

「少し、厳しいと思いますよ。この歳でこんな所に居るのは、それなりの理由があるからでしょう?双寺院さん、私はまだ焦る時では無いと思います。」

「...分かった、依頼人の意思を尊重しよう。今後の行動も変わってくる。可能ならば明日の朝には、答えが聞きたいかな。」


 ありがとう。おやすみ、三人とも。

 そう告げて、三成は奥の部屋に引っ込む。少し疲れていたのか、気が抜けた瞬間には、足取りも重そうだった。


「ごめんなさい、悪い人ではないの。怖かったかしら?」


 三人になり、弥勒が少し砕けた雰囲気で仁美に問いかける。すぐに否定しないで迷う彼女に、素直なのね、と笑いながら、健吾を向く。


「きっと、貴方達の目的は違うのね?どちらかが、諦めなくてはいけない...。」

「それは、分かっているつもりっすけど...。」

「...わた、しは。」


 唇を噛み締める仁美に、弥勒は頭に手を置いて言う。


「落ち着いて、話し合いなさい。真摯に向き合えば、きっと人は受け入れてくれるわ。願いを諦めるかは、別の話だけれどね。」


 それだけ言うと、弥勒も奥に行く。三成とは別の、私室の様だ。


「おやすみなさい、獅子堂君。協力の件、頼んだわ。」




 無言で部屋に戻った二人。集合したのは、健吾の部屋だ。

 二人の協定は、仁美の精霊入手まで。そして、既に仁美には【辿りそして逆らう】がいる。


「...私は、諦めたく無い、です。」


 口火を切ったのは、仁美からだった。健吾が何かをいう前に、仁美は言葉を絞り出していく。


「絶対に、諦めたく、ない。でも、獅子堂さんのお願いも、叶って欲しい...です。

 私は、きっと勝ち残れない...一人では。私のお願いも言わないで、怪しいのは分かり、ます。でも...きっと役に立つから、もう少し、協力していたい...です。」

「でも、勝者は一人だ。そうだろ?」

「...。」


 必死に案を考える仁美。そんな彼女に、健吾も頭を捻らせる。

 確かに、彼女とその精霊は、戦力として申し分無い。【混迷の爆音】との戦いでは、それは必要だ。

 だが、三成達の精霊でも補えるなら?あの二人は勝利は、このゲームの勝利では無い。三人で残っても、問題は無い。...三人ならば。

 他の参加者が、より良い協力者ならば?弥勒は分からないが、三成ならば手を切る選択は有りだろう。そうなれば、たちまち三対一だ。


「どうするかなぁ...。」


 正直、出来るならば全部叩きのめして、痛快に勝利!といきたい。それが性に合っているからだ。

 しかし、まず無理だろう。真樋も逃がし、那凪とその契約精霊とは打ち合いになり、九郎と名乗る老人もその力は未知数だ。

 そして、【混迷の爆音】。契約者の読心術、強力な星霊具。大降りな武器は小回りも加減も苦手だろうが、その威力と影響は計り知れない。


「...なぁ、仁美。せめてお願いは教えてくれないのか?互いに金額の問題なら、片方で良いんだし。」

「私は...その...。ごめんなさい。多分、誰にも叶えられない、から...。」

「いや、それを教えてくれないか?」

「......分かり、ました。私のお願いは。」


 深く息を吸い込み、真っ直ぐに健吾の目を見つめる。不覚にも、少し美しいと、感じてしまった。


「私のお願いは、外に出ること。コードと培養液に囲まれた私の身体を、あの人と同じ世界に、返して貰うこと。」

「.........分かった、少し考えさせてくれ。」


 たっぷりの間を置き、健吾は言葉を受け止め、咀嚼し、飲み込む。

 外とは?言葉通り、外だ。つまり外に出られない。

 こんな馬鹿げたスケールのゲーム、それが可能なのだ。人を一人、電子世界に閉じ込めるのは訳も無いだろう。


「...あの人、ってのは?」

「私の、先生。嬉しい事、とか。悲しい事。色々と、教えてくれた人...です。」

「お前はこのゲームみたいな所で、ずっといるって認識で合ってるか?」

「...ここまで、自由じゃないけど、そう。」


 仁美の肩で、【辿りそして逆らう】が頭を擦り付けて、じゃれている。咥えた尾が、労る様に頬を撫でる。

 ぼんやりとそれを眺めながら、健吾は頷いた。


「レイズ、いるか。」

『あぁ?今はお呼びじゃねぇだろうが。』

「このゲーム、勝利方法は?今更過ぎるけどな。」

『期日の日か、11のサインが返還されりゃ、器が出る。それを手に取るだけだ。』

「やっぱり知ってやがった...聞いとくべきだったな。」

『あん?知らなかったのかよ、むしろ。』


 凄く、感情的で。非効率な、不確実な、そんな手段だが。話し合いでは解決できず、彼女と殺し合いもしたくないなら。


「器を、二人で取る、とかか?期日ギリギリなら、間に合うかぁ?」

『どうなんだ、それ...?』

「俺が知るか。」


 なげやりな態度の健吾に、仁美が声を絞り出す。


「私と...居てくれるの?」

「勝ちを譲る気は無いからな。そこは、勘違いするなよ!」


 背中を向けて怒鳴る健吾だが、その子供のような態度も、仁美には新鮮で。そして、頼もしかった。


「ん。私も、譲らない...でも、器が出るまでは、協力。」

「おー。そーいう事だ。寝るぞ。」


 照れ隠しに、乱暴に布団に潜る健吾に、仁美は先程の不安を忘れ、くすりと微笑んだ。

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