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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第八章 Last Days
103/144

Episode.No11

 変動の記録はここまでか?順調だな。良いだろう、次のポイントは...Code.Pisces。



 現在時刻、7時。

 残り時間、24時間。

 残り参加者、6名。



 しっかりと差し込んだ朝日が、前髪の隙間から瞼を照らす。人間の本来の働きに従い、光を検知した真樋の脳も覚醒を促した。


「ん...ここは。」


 見渡した彼の視界に広がるのは、何時ぞやの海岸。もはや遠い昔に思える、海の家の残骸だ。


「はは、こんな景色を見ると、煩いのが恋しくなるね。」

『おい、頭がイカれたままだぞ。』

『Jesus、ネクタルで治らない事はどうしようもありません。』

「君たち、人の事を何だと思ってるんだい?」


 痛む頭を抱えたまま真樋が振り返れば、二柱の精霊が顔を見合わせ、同時に口を開いた。


『粘着質な夜道怪だが?』『敬愛するマスターです。』

「...もう、それでいいよ。補充は?」

『Answer、あと二戦ほどはあります。』


 瓶を揺らす【宝物の瓶】だが、その中身が外から見えることは無い。頷いて視線を逸らした真樋が、すぐに思考に没入したのを感じ、【浮沈の銀鱗】が声を荒らげた。


『待て。その前に情報を集める事だ。いち早く下山したのだ、残りのヤツらの生死ぐらい確認せねばなるまい。』

「そうだね。というより、瓶が無いんじゃ他に出来ることも無いし。」

『ならば天球儀へ急ぐぞ。段々と街が騒がしくなって来た。』


 この海岸沿いは民家が少ないが、それでも喧騒を感じる程だ。山の鎮火や調査、被害の確認。戻ってきた警察組織も慌ただしさの原因だろうか?


「ここで推測を重ねても仕方ない、か。この段階まで来たら、行動と確認を優先した方が良さそうだ。」

『当たり前だ。早くしろ、貴様は瓶にでもこもっておれ。』

「いや、ピトスが霊体化出来ない。僕が自転車で行くよ、君らが霊体化して着いてきてくれ。顔が割れてないんだ、その方が安全だよ。」

『一般人が雲隠れした街で、目立たんと良いがな。』

「服さえあれば誤魔化せるさ、向こうだって暇じゃない。」


 己の精霊に視線を向ければ、意図を察した彼が街中へ消えていく。それほど待つことも無いだろう。


『それで?奴を離した理由は?』

「契約の話だ。僕の負担が想像より大きい。」

『我を手放すか?それとも瓶を失った彼奴か?』

「ピトスは手放せない。コレに最終手段が入ってる。」


 懐から取り出した瓶を、大事に抱える真樋に、話が読めないと顔を顰める精霊が唸る。


「僕は生き残らないといけない。あれだけ泣き喚いて説得されたんだ、すんなり諦めちゃ彼女に申し訳が立たないしね。」

『泣き喚いていたのはどちらだろうな。』

「...とにかく、これは彼女が言い出しっぺでもある。だから」

『契約を切っても協力しろと、そうか?』


 先を続けた精霊に、真樋は頷いて肯定を示した。


『分かっているのか?我は恩恵を破棄され、そして契約者への手出しを禁じられる。』

「だから、これは命令でも提案でも無い。ただのお願いだ。」

『我の力よりも貴様の状態の方が優先される戦力だと?』

「だって君、僕の契約の恩恵はほとんど無いだろ?」


 そう言われてしまえば、返す言葉は無い。真樋は契約者として、優秀とは言い難いのだ。武器を所有する【宝物の瓶】が、接近戦を比較的に控えているのも、契約して納得する程に。

 彼の持つ霊感も、地上の振動を感知できる【浮沈の銀鱗】には必要とも言い難い。宙に浮き、姿を隠す精霊はいないのだから。


『我の離反を考えんのか。』

「ここまで能力のネタが明らかになってる、なんとかなるさ。それに...11の精霊のサインが還元されているのが勝利条件だろう?」

『...貴様、己の精霊を』

「これは、そういうゲームだ。そうだろう?」


 真樋の狙い。【宝物の瓶】が倒れ、器が出現したら、真っ先にかっ攫う。

 目の前でまだ戦う【浮沈の銀鱗】がいる以上、相手の意識は戦いの最中にある。真樋の方が早くなる。残り一人にする必要はあるが...最後の一戦への体力を温存しなくていい利点がある。


「まぁ、聞かれても問題は無いだろうけどね。ピトスは僕に近い、役目とあれば果たすだろうし。」

『傀儡の本性が変わることは、そうそう無いか。不平不満を垂れるだけか?』

「独り言るくらいは良いだろう?誰かに聞かせるほどの事も無い。」

『...こんな狂った祭事に来ておる事が、独り言るというのか?』

「これは反抗。成功しても失敗しても、あの家に帰る気無いし。」


 言い捨てた真樋が、左足に走った冷ややかな痛みに顔をハッとする。靴と靴下を取りされば、青い文様は消えていた。


『貴様から言ったのだ、文句は無かろう。する事も無いからな、護衛くらいはしてやる。しかと記録に残せよ、夜道怪め。』

「記録するのは君の役目だろう?」

『対象がつまらねば意味の無い記録だ。貴様の欲と願いに満ちた望み、我に見せつけてみよ。』


 吐き捨てた精霊が沈み、その姿を隠す。霊体化したのを第六感で感知し、これ以上は対話の意図が無いことを悟った。とはいえ、ワガママは通してくれるそうなので、真樋から言うべき事はもう無い。

 故にする事は思考。天球儀へと行き、生存者を確認する。最悪のケースは、誰も離脱していない事。しかし、一哉や三成の怪我で生き残る事は考えづらい。


(希望を言うならば、アイドル気取りの変な子と牡牛座の精霊は消えて欲しいけど...他の精霊なら、まだなんとかなるかな?)


 獅子は蓄積。ネタが割れてしまえば、当たらない事に全力を注げば良いのだ。近くにいなくてはならない契約者は人間。精霊とスタミナ勝負をして勝るはずも無いのだから。時間で勝てる。

 乙女は論外。時間内を逃げ切るだけだ。機動力に優れた風の精霊に、障害物が無効な【浮沈の銀鱗】は、相性がいい。

 蠍は毒が効く。向こうの武器はこちらの武器にもなる。【宝物の瓶】と性質が近く、【浮沈の銀鱗】がいるこちらが優位。

 山羊は厄介な能力ではあるものの、接近戦特化。直線の加速能力は高いものの、それは罠に嵌めやすくもある。契約者を見つけ出せば、有利に事を運べるだろう。人間相手なら、真樋が直接行ってもいいし、【浮沈の銀鱗】に頼む手もある。


(やっぱり、射手に牡牛が厄介だな...特に射手は、あの人魚と共に行動する。数の利点さえ持てない。)


 そうでなくとも、【疾駆する紅弓】はシンプルに強い。特異な力こそ無いものの、元のフィジカルが高過ぎるのだ。それぞれの性質は特化した精霊に敵わないものの、苦手とするものが無い。武器、騎馬と相まって相手取るにはキツい敵だ。

 牡牛は考えるまでも無い。あんなにタフな鉄塊を相手にしては居られない。一度開戦すれば、日が暮れても追い回される未来が易く想像出来る。


(潰しあってくれるのがベストだけど、悠長に待ってる時間もない、か。残りは一日と無いし、もっとも殲滅力に欠けた精霊の契約者は僕だ。)


 それは、もっとも動き始めるのが早くなくては行けないという事。奇襲を仕掛けるのも、戦闘時間が足りないという意味でも、猶予は少ない。

 集める情報も絞らなくてはならないし、準備も十全にとはいかないだろう。真樋の今までの生き方とは違う、手当り次第な行動。


(...そうか、これが欲しいって感情か。諦めたく無い、なんて。無茶な真似をする不合理な...でも、悪くない気分だ。)


 一人納得し、頷いていた真樋の肩に、手が置かれた。己の精霊の気配、振り向くことも無く手を差し出せば、小綺麗な軍服が手渡たされた。


「どこに?」

『Answer、プレハブから失敬しました。』

「仮の拠点って所かな...大分、大事になったらしい。昼はまるまる準備に当てるのが良さそうかな。」


 着替えながら呟く真樋が、必要なものを考えていき...該当精霊が残っているかを考え、思考を打ち切る。

 入念な準備と数々の想定は、真樋の命綱であり鎧だった。それが無いと、恐怖さえ感じたものだが...


「あれだけ身軽な様を見せつけられたら、ね...」


 たまには考えずに行動しても良い。珍しく、頭を動かす余地がある時間で思考を打ち止めた真樋に、精霊の声がかかった。


『Suggestion、マスター。外に出るなら、時間を置くことを薦めます。』

「何故?」

『Simple、事件の中でニヤケながら動く隊員は不自然です。』

「ニヤ...僕が?」


 頬に手を当てる真樋に、肩を竦めた精霊が霊体化する。随分と生意気な態度を取るようになったと、少し苛立つ気持ちを込めて、来ていた服を海へ投げ捨てた。


(いや...この場合変化したのは僕か?)


 精霊は契約者に影響される。自分が変わったから、契約した精霊も変わったのなら...


(いや、だからなんだという話だよな。それより、確認に行かないと。)


 ここから天球儀までは少し距離がある。急ぐ足を止めるものも無く、真樋は駆け出した。

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