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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第七章 去りゆく者 止まらぬ者
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夢と誇りと目的のプログラム

 あっという間に高空へと登った龍に地上はざわめく。星より来たれり龍は、それこそ星空の中へと戻るかのように悠然と空を泳ぐ。

 そんな目立つ、大きな標的。狙う物を今か今かと待ちわびる狩人には、これ以上無い知らせである。


『動くか。残る可能性は四つ...それも三つは潰えていような。』


 そして大きく弓を引き、感覚に任せて矢を離す。それは木の葉を、夜風を割いて飛び、鮮血を散らす。射抜かれたのは...


『まったく...!世話が焼ける者共め!』


 驚きに目を見開く巫女の精霊の前で、【母なる守護】が肩に刺さった矢を咥えて抜く。バキンと口の中で折れた矢を吐き出し、吠えた。

 その声に、異常を察知したトゥバンが後方へ視線を向ける。続けられた第二射の赤光が尾を引く様を視界に収め、即座に雷撃を落とした。


『撃ち落とされた...!?気づかれたか!』


 すぐに駆け出した【疾駆する紅弓】の後ろで、天より光の槍が落ちる。焼け焦げた木と土の臭いに、冷や汗が背を伝う。夜風に晒された汗が乾く間もなく、三度引く弓はまたしても【純潔と守護神】を狙う。


『我やイタチのような複数型の精霊は、核となる一体が存在する。召喚者などという分かりやすい的を、逃す筈も無いのだがな...!』


 契約者の防護へと意識を集中させた今なら、射抜けると思ったが。天邪鬼がいたらしい。

 狙った獲物を狩れない事実に歯噛みしつつ、その脚を止めずに弓を引く。幸い、広がる火の手が矢の光を惑わせてくれる。放った後の速度でなくては、上空からは見つけられないだろう。


『あの精霊なら、炎の中に踏み込むやもしれんが...負けるつもりは無い。離れたのなら召喚者を射抜くまで。さぁ、どう出る?』


 現状を言葉に直して再確認し、位置を確認して立ち止まる。ほんの数瞬で狙いを合わせ、木々の間を縫って【純潔と守護神】の頭を狙う。

 走り出した【疾駆する紅弓】のすぐ後ろで落雷。矢を放った後の結果は確認していられない。だが、龍が消えていないのならば、命中とはいかなかったらしい。


『ほとんど勘だけで当てるには、些か距離が離れすぎたか...やむを得ん。』


 見つかる可能性はあれど、契約者が逃げ延びる前に龍を落とす必要がある。直接狙うには高く、そして硬く速い。無謀な挑戦だろう。

 故に前に出るしか無い。牛は危険だが、手負いだ。可能性はあるのだから、この期を逃すの勿体ない。契約者の望み、存分にこの試合に打ち込むこと。それを果たすならば、そう易々と退けない。


『そこかぁ!』

『やはり突っ込んでくるか!』


 炎の中だとか、相手からの攻撃だとか、そんなものは考慮しない愚直な突進。それでも、ここまで残るタフな肉体に支えられた、侮れない一手。

 ギリギリまで矢を射掛けるが、止まらない。出血はある、傷もある、しかしその勢いに変化など無い。壊れた脚で、燃える山の中では速度こそ出ないものの、木々をへし折る威力は健在だ。


『えぇい、逃げるな!』

『逃げるとも、我をなんだと思っているのだ。』


 がら空きになった弾道に、矢を放つ。目に見える距離まで近づけば、【純潔と守護神】のどこを狙おうと外さない。

 契約者の変更は把握している、召喚中の本体が何も出来なくなった事は予想が着いた。妨害は無い、防衛も無い、吸い込まれる矢は、宙に紅い花を咲かせた。


『亡霊は散りゆくのみ。さて、これで貴様も亡霊の仲間入りだな。』

『おのれぇ...!』

『もう立つのもやっとだろう...互いにな。』


 最後の一矢を放った【疾駆する紅弓】が、その場に座り込んで弓を置く。

 首に矢を受けた【母なる守護】も、震えた脚を激励することはなく、身を横たえた。


『...毒か。』

『それ以外にあるとは思わんのか?』

『火の精霊の貴様が、火傷程度でくたばるものか。』


 鼻で嗤った牡牛が、急に老けたように力を抜いた。契約が切れたのだろう。

 どこまで行っていたかは知らないが、弓を警戒して高所を飛んでいたのだろう。人が耐えうるものでは無い筈だ。


『最後まで己を貫き通しおったわ...自分の事を後回しに、ウダウダと...』

『それが彼女の強みだったのだろう?我は知らんが、貴様は見てきたはずだ。』

『ふん、知ったような口を効くでないわ。それより貴様は良いのか?』

『ルクバトがまだ駆けている、消えはせんよ。』


 空を見上げる狩人の精霊は、大きく息を吐いた。白く空に登り、風に攫われる。


『叶える筈の望みも無い、亡霊...精霊のなり損ない。消えるべきだと、そうは思わんかね?』

『集団自殺の誘いなら、他所でやれ。』

『違うとも。ただ、介入は止めるべきだと思わんか?望みを真っ向からぶつけ、勝るを決する。そこには、本人達のみがあるべきだ。』

『貴様は契約者を気に入っていたかもしれんがな、我は暴れたらんぞ!消化不良も甚だしい!』


 そうは言っても、この山から出る事はもう叶いそうも無い。契約者のいない精霊は、霊体化も許されない。ただの獲物になるのみ。

 その前に、この炎を耐えきれる身体では無いのだが。


『貴様は逃げんのか。』

『一応は主のいる身だ、死にはせんが...あの獅子は、我を良くは思わんだろう。』

『ではどうする?』

『知れたこと。勝る物が願いを支えるだけの事。』

『...ふん、つくづく気に食わん奴だ。』


 横たわったままに目を閉じた精霊に、狩人は弓を引き絞る。


『最後に言い残すことはあるかね?』

『無い。早くやれ。』

『そうか。』


 正中を穿いた赤光が、光の粒子を散らして山へと消えた。一柱になった【疾駆する紅弓】は、胡座を解いて立ち上がる。

 毒は回っているが、他の損傷はほとんど回復しきっている。下山するには十分だろう。

 振り上げた手から炎が登り、愛馬を呼び寄せてまたがる。久方ぶりの会合に、ルクバトも満足げに唸った。


『彼等の場所まで頼む。起こさないように、な。』


 駆ける精霊を最後に、山は骸と炎だけが取り残され、夜の終わりと共に全てが灰になった。




 現在時刻、6時。

 残り時間、1日と1時間。

 残り参加者、6名。







 ―――――――――――――

 モニターに映るテクスチャは、依然として変わりのない画質を保っている。

 残りは3時間と34分。それで24時間きっかりだ。装置を起動出来たのは昼頃。既に朝日が登っている時間になったが、地下にあるこの施設には関係ない。

 交代で休憩に入り、重要な所を残さず確認していく。数人での確認だが、記録媒体は十二...いや、十三ある。全ては追い切れなかった。

 今は減り、残る記録媒体は六。派手にドンパチやっていた柏陽一哉と陣場九郎の退場により、随分と見やすくなった。それに、それぞれが負傷して散った以上、暫くは休めるはずだ。

 しかし、先の場面はキツかった。人の頭が踏み潰される所を見るとは...他にもショッキングな映像が多く、世に出回れば炎上しそうn

 ―――――――――――――




 うぉ!?脅かすな。子供じゃあるまいし。

 おい、勝手に覗くなよ。良いじゃねえか、このくらい。頭がこんがらがって、気が狂いそうなんだ。日記でもつけたくなるさ。まぁ、一日だけどな。いや、七日か?

 はぁ?ふざけんな!俺、休憩入ったばっかりなんだぞ?

 娘の誕生日って...知るかよ、そんなの。こんな所に来た時点で、まともな福利厚生あると思うな。

 所長の指示?マジでふざけんなよぉ...分かったよ、代わるよ、代われば良いんだろ!今度焼肉奢れよな。


 はぁ、マジかぁ...出来れば見たくないんだけど。というか、なんだってこんな回りくどい事をすんだろうな。

 代わったんだよ、アイツこのギリギリで休み取りやがった。

 善意じゃねぇよ、所長が...え?今日所長休み?あんの野郎!!

 うるせー、言ってろ。んで、なんか聞いてねぇの?

 だよなぁ。さっさと稼働しちまえば、俺達も楽なのに...副作用とかあったりすんのかな。

 いや、だってよ。開発責任者の話、聞いたろ?巳塚だぜ、あの。


 え?知らねぇのか?いいか、巳塚教授は脳科学を主体に色んな博士号を取得した医師だよ。あの人、嫁さんと娘を実験に使い、助手に撃ち殺されたって噂があんだよ。

 あぁ、そうだ。だけどな?今も彼の計画も実験も凍結されてねぇし、うちの実験もこうして稼働してるだろ?協力者は他にも何人もいるが、誰一人として欠けちゃいけねぇんだ。もちろん巳塚教授もな。

 いやいや、噂が嘘ってのは早計だ。続きがあんだよ。あの人、とっくに不死身だって噂。何人も研究室から廃人が出てんだが、その全てがうわ言のように繰り返すんだとよ。「俺は死なない」とか、「私は繰り返す」とかよ。そいつらも数ヶ月で行方不明か死亡。もちろん、公にゃなっちゃいないけどな。

 さぁ?うちも大概裏組織だからだろ?それによ、最近は自分の病院でも実験が行われてるとか言われてるぜ。適合者が入院してきたら、治療と共に実験を施して、未知の病として扱うとか。治すにも保険が効かねぇし治療法も未知ってんで、法外な値段がする。決心や準備にゃ、時間がいるだろ?その間に...

 あん?なんの実験かって?そりゃ、うちの


 すんません!ちゃんと見てます!ごめんなさい!


 痛って〜...!あんのクソ上司、先月カミさんに逃げられたからって、八つ当たりしやがった...!

 だな。あんまり喋らずにいようぜ。あー、おっかねぇ。




 ―――――――――――――

 SEIze,REcord,Ideal,program

 Code.Ophiuchi


 予想外の出現

 開発コードにハッキング履歴多数あり

 契約者 巳塚仁美

 巳塚仁美 検索

 本プログラムのメインサーバーが該当

 本体は依然としてサーバーを担う

 セルフテスト起動...異常コード検出

 誰かが意図的にファイアウォールに欠落を作った模様

 フィールドサーバー開発者検索

 Error

 再検索

 Error

 所長権限 キー使用

 Error

 既に居ないものとしてヒット

 代理責任者を検索

 該当 professor巳塚

 本事項の処罰を失効とする

 観察を続ける

 ―――――――――――――

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