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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第一章 出会い
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決着

 睨み会う精霊、深い穴。そして、背後には瓦礫を崩して開けた、雑な通路。


「ここから、どうします、か?」

「アイツの契約者...魔羯登代、だったか?そいつを捕まえて、逃げる時間を稼ぐ。今、何処にいる?」

「穴の向こう...」

「だろうな...。飛び降り...いや、あれは意表をつきたいから、取っておくか。」


 ジリジリと後退しながら、必死に策を練る。しかし、その隙を黙っている精霊はいない。【混迷の爆音】が膝を落とし、健吾達に向けて跳び出す。

 高い跳躍力を、全て前進に回す突進。真正面から受ければ、無事ではすまないのは明白だ。


『レオ!グダグダ考える暇があんなら走れ!とにかく回り込まねぇと、話にならねぇだろうが!』

「そうみたいだな、クソッ!」


 身を投げ出して回避し、奥の突き抜けてきた廊下に戻る。契約者から離れれば、力も弱まってくれるかもしれない。


『どうした!獅子の精霊!逃げ回る兎ならば、大人しく狩られてしまえ!』

『あぁ!?』

「レイズ、聞いてんじゃねぇぞ!」

『ちっ!腹立つなぁ、オイ!』


 腹立ち紛れに、振り返り通路を潰す。すぐに音波が塞ぐ瓦礫を飛ばす為に、あまり意味は成さなかった。

 階段を飛ばし気味に降り、廊下を突っ切る。別の棟に入り、そこの屋上に飛び込んだ。


『ここで潰れたいのかな?』

『おい、レオ。場所を間違えちゃいねぇか?』

「いや、ここで良い。契約者様もお出ましだしな。」


 逃げ場の無い、この場所に全員が揃った瞬間。全力で叩く選択の様だ。


「自信、不安...ねぇ、これは貴方の物かしら?」

「はぁ?訳の分からない事を。」

「...?」


 何か思い至る事でもあったのか、仁美が考え込む。

 しかし、それを気にする暇は無い。二柱の精霊は、既に臨戦態勢だ。


『しくんなよ、レオ。』

『お嬢、行くぞ。気を確かにな。』


 迸る闘気と、光の這う笛。互いの武器を掲げ、数瞬、睨み会う。


『ヴァアアアァァァァ!!!』

『ダアァララララァァ!!!』


 フルスイングする笛に、一瞬で十数発の拳を打ち込む。

 辺りに破壊的な衝撃を撒き散らす笛を、その拳で尽く受け止める。


「無茶苦茶...!【辿りそして逆らう(トレスonリベリオン)】、助けてあげて!」

『ルルゥ~。』


 尾を咬む蛇が、器用に巻き付けば、限界を訴える肩と拳が回復する。

 いつまでも、とはいかずとも、これならば打ち合い続けることも可能だ。


『最高だ、チビッ子!』

『シュ~。』


 不満気な声を漏らす【辿りそして逆らう】だが、離れはしない。

 嫌な顔をしつつ、【混迷の爆音】が笛を振り続ける。


『いつまで持つかな!獅子の精霊!』

『図に乗んなよ!山羊野郎!』

『ヴァアアァ!』『ダァララアァ!』


 あまりにも非現実的な肉弾戦の横で、健吾は密かに動いていた。

 精霊達から離れて、契約者本人に接近する。


「気づいてるわ、無駄よ。」

「っ!」

「寝起きと大勢がダメなだけよ、出し抜くのは...あら?困惑?知ってて来たんじゃ...」

「くそ、突っ込む!」


 振り向いた登代に、健吾は掴みかかる。それを大きめに避けて、彼女は足を払う。意識していなかった足下を取られ、前転で受け身をとる。

 再び距離が離れてしまい、健吾は振り向きながら、隙を伺う。


「何を狙ってるの?人質作戦かしら?」

「会話する気は無い。」

「良いわよ、貴方が聞くだけで分かるもの。」


 ハッタリなのか、それとも本当に分かるのか?人間を越えている、何らかの力か?

 畏怖さえ覚えた健吾に、悲しそうな、嫌悪するような目を向けて、登代はメスを向ける。


「ごめんなさいね。私、人を殺すなんて、初めてでも無いのよ。」

「は...?」


 彼女のメスは、当惑した健吾に迫る。手の甲で払い事なきを得たが、本当に躊躇が無い。


「あら?こんなゲームなのに...貴方は優しい人なのね。殺意が無いわ。」

「な、何だってんだ。」


 些細な違和感。今は、言葉も行動も一貫している。それなのに、まるで、一言事に違う人物と会話している様な...。

 健吾の勘が警鐘を鳴らしているが、それは今は関係ない。頭から閉め出して、目の前に集中する。


「何か気にしてる...何かしら?右?左?」

「喋ってる暇なんざ、無くしてやるよ!」


 直感に従い、健吾は長引かせずに終わらせる事を選んだ。

 振り払われるメスは、そのまま左腕で受けながら払い、姿勢を低くして足払いをかける。

 知っていたかの様に、踏ん張って対抗する登代。しかし、健吾は足はかけたまま、その腰に手を持っていき強引に横倒しにする。


「このまま...!」

「【混迷の爆音(アイギバーン)】!」

『無論、させぬよ。』


 防御主体の【積もる微力】からなら、抜け出すのは容易だった。振るわれる笛に鳥肌が立ち、反射的に飛び退く。


『振る前に...やはり、勘の良い坊やだ。』

『てめぇは逃げてんじゃねぇぞ!』

『逃げる?対局を見極め退くのを、逃げるとは言わないよ。』


 一転、攻撃に移る【積もる微力】の猛攻を、武器で受けきると一薙ぎで巻き返す。

 たった一撃。その一撃で意識を刈り取り、再起不能となる。そんな一振を前に、動体視力と直感を頼りに、再生を得て互角。


『レオ!とっととしやがれ!』

「分かってる!」


 すぐ旁で巻き起こる衝突に、怯むこと無く健吾は立ち上がる。アドレナリンが脳を刺激し、いつになく思考はクリアだ。

 意識を飛ばそうとする音波を、距離を開けて気合いで無視をする。ケンカの経験も無い女性だ、刃物を持っていても、制圧は出来る。


「高揚感!堪らないわ!」

「奇遇だな、俺もだよ!」


 突き出されたメスを逸らし、伸ばされた腕を掴む。反転しつつ腰を押し付け、片足で登代の足を持ち上げて一回転。


「ダアァラァァ!」

「っか!」


 背中からコンクリートに打ち付けられ、登代の肺から空気が絞り出される。【混迷の爆音】とは僅かに距離があり、間に【積もる微力】。

 必然的に邪魔は入らない。とあれば、する事は一つである。


「レイズ、開放だ!」

『あいよぉ!』


 叫ぶ健吾が取り出したるは、宝物庫にでも眠っていそうな、シンプルながら豪華な瓶。

 開けた瓶からは、ボイラーの一部。端を尖らせたアーチ状のパイプ。


『待て!』

「いいや、待たない。」

『レオ、決めるぞ!』

『「【積もる微力(レイジングダスト)】!!』」


 パイプを叩きつけた健吾と、防ぎ続ける【積もる微力】の叫び。

 それと同時にパイプから、激しく闘気が迸る。急加速したパイプは、健吾の全体重も合わさって突き立てられた...屋上の床に。


「レイズ、離脱する!押し込んどけ!」

『頼まれたぜ!ダァラアァ!』


 僅かな動揺と躊躇に身を固めた【混迷の爆音】に、【積もる微力】の蹴りが刺さる。

 登代に駆け寄り、パイプに一撃を加えて深く刺せば、そのままの勢いで柵へ向けて走る。


「仁美、着地任せるぞ!」

「ふぇ?ひゃぁ!」


 突然抱えあげられ、悲鳴がもれる相方に構わず、健吾は走り続ける。追い越す【積もる微力】が、柵を蹴り倒す。

 やっと【混迷の爆音】が事態を把握して跳ぶが、もう遅い。入り口に近い彼の精霊は、柵までは遠すぎる。


「あばよ、一生吠えてろバーカ!」

『はっはぁ!間抜けたツラ見せやがる!』


 笑いながら二人は、この屋上から飛び降りる。三十メートルに届きそうなこの屋上から、だ。


「いきなり、過ぎる...!お願い、【辿りそして逆らう(トレスonリベリオン)】!」

『シューー!』


 尾を咬む蛇は、器用に【積もる微力】から離れ、二人を巻き取る。そして、タイミングを見計らい、その体を一気に地面に叩き下ろした。

 瞬間、驚異的な加速。斜め上に跳ね上げられた二人は、そのまま病院の外壁を越えて、道路へと落ちる。かなり横に傾いたベクトルは、人体の破壊を防ぐ。


「だぁ!二度とやらねえ。」

「こ、腰が抜けそう...。」

『ルルゥ~...。』


 軽く健吾の頭を小突き、【辿りそして逆らう】は仁美の肩に収まる。元々、浮ける精霊だ。重みはあまり無い。


『俺を置いてくなよ、俺を。』


 一度、霊体化してから戻ってきた【積もる微力】がぼやくが、それは皆が無視をする。

 何故なら、道の先に一人の男が着地したからだ。


「嘘だろ、あの状態で契約者を放置すんのかよ...。」

『私なら一跳びで戻れる。問題は無いのだよ、獅子の契約者。』

「獅子堂さん...。」

『レオ、やるぞ!契約者は遠い!押しきる!』

「っ!言われなくても!」


 振りかぶられた笛を、【積もる微力】が拳で止める。即座に【辿りそして逆らう】が絡み付き、笛の一撃を完全に止めた。


『ふむ、止めるか。ならば押しとおるまで!』

『やってみやがれ!』


 息を吹き込み、笛の振動が辺りを揺らす。痺れる様な空気の波を荒々しく弾き、一瞬の隙に【積もる微力】は懐まで潜る。


『くたばりやがれ!ダアァララララァァァァ!!』

『ぐぅっ!この力...!』


 堪えた【混迷の爆音】が、強引に笛を振り上げる。避けた【積もる微力】を潰す様に、地面に叩き下ろされた笛。

 凄まじい音波が、周囲の窓を割り。雷鳴もかくやの暴音を振り撒く。無論、その場にいる全員を弾き跳ばす。


『ふぅ、少し焦ったが...流石に限界か、獅子の精霊。』

『こんの...底無しめ...。』

『誇張で無く、二回の攻めで沈められそうだったのが、本当に恐ろしいよ。故に安心だ、ここで消えてくれ。』


 高く振り上げられた、光の這う笛。それを、今、正に、振り下ろさんとした時。


 空を裂く、光の槍。先程の暴音にさえ負けない、轟音。

 天を泳ぐは、大きな影。細長い身体、靡かせる髭、纏うは雲。象牙色の角が視認できれば、それは間違えようが無い。


『龍...だと...?』


 雷を落とされ、膝をついた【混迷の爆音】が呟く。

 空を泳ぐそれは、廃病院に向かう。


『っ!不味い!』


 止める者はいない。ほんの数回の跳躍で屋上に戻る【混迷の爆音】を横目に、健吾は揺れる意識で踏ん張り、立つ。


「レイズ、大丈夫か...?」

『霊体化すりゃ、問題ねぇが...お前が無防備なるぜ、アイツから。』

「だよな...。」


 歩いてくるのは、巫女の装いに身を包む、美しい女性。しかし、手に持つ大きな法杖が、彼女を精霊だと告げる。


『構えないで下さい、皆さん。』

「安心してくれ、獅子堂健吾君?」


 切れ長な目で長身の、端正な顔の男が姿を表しながら、そう告げた。

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