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19.主婦、実技試験を受ける その一

「実技試験は、私に代わってこちらが担当いたします」


 扉から入って来たのは、パーシヴァルよりも更に大仰な鎧を身に纏った男だ。

 頭も鎧で覆われている為、顔は見えない。

 クレイオスよりは小柄だが、充分立派な背格好をしている。

 ただ、どこかで見た感じがするんだよね、まさかね。


「我が輩はアーサー。我が王国第三の騎士である」


 この声、今朝聞いたなあ。


「このじちゅ……ぎ試験では、我が輩が『勇者』の素養を確かめてやろう。各人全力で以って我が輩に挑むが良い」


 噛んでるし。でも持ち直したのは流石だ。

 しかしてっきり謁見の間でニコルたち市民の声を聞いているんだとばかり思ってたのに、何でこんな所にいるんだ、ルード。


 私の冷たい視線をものともせずルード、いやアーサーは部屋の真ん中に進む。


「そちらに武具を用意している。その中から自分が好きなものを選ぶのだ。選んだら我が輩と闘ってもらう。全員一度にかかって来ても良いが、それでは流石の我が輩も各人を詳しく見る事ができない。よって一人ずつとする」


 様々な武器や防具が並べられた。

 中にはこの場にあって良いのか疑問に思うものもある。

 檜の良い匂いがする棍棒はともかく、包丁とかお玉も置いてある。

 気にしたら負けだろう。


 真っ先に動いたのはパーシヴァルだ。

 小さな丸い盾と、細身の剣を手に取る。


「どれも見事な業物である。しかし我はこれにて闘うぞ」


 包丁とかお玉も業物なの?


 続いてクレイオスが、身体に見合った大きな斧を持ち上げる。


「どれ、俺はこいつにしよう」


 ジョルジュは、何故か手に嵌めるやつ、ナックルって言うんだっけ、を付けた。

 セトは、というと興味無さそうにそっぽを向いている。


 さて、私は何にしようかな。

 重たいのは無理だ、自分が振り回されるのが簡単に想像できる。

 軽くて使い勝手の良いものが無いだろうか。


 お玉の横の塩コショウのビンを見ないようにしていた私の目が、ふとその更に隣に見覚えのあるものを捉える。

 メトロさんが持っていたのと同じ『破魔の剣』だ。

 手に取って中身を確認すると、やはり黒い煙が渦巻くビー玉が入っていた。


 使いこなせるかどうかは賭けだが、他の武具にしたって私には賭けにしかならない。

 どうせなら少しでも勝率が上がりそうな方が良いじゃないか。

 私はそれを手の中に握り込んだ。


「選び終わったようだな」


 五人を見回したアーサーは、セトに目を止める。


「おや、馴染みの顔がいるな。お前は今回も武具無しか?」

「僕に武具なんて必要ありませんよ」

「ではお前から、説明代わりに相手するとしよう」


 説明代わりって言い方は可哀想な気もするけど、八回目だからね、仕方ないね。

 セトは敬語にこそなったが、相変わらず不遜な態度でアーサーに対峙する。

 メガネをずり上げるのも忘れない。


「僕の名前はセト。よろしくお願いします」

「うむ、では始める」


 アーサーは腰から大きな剣を抜き、構えた。

 セトは目を閉じて何かブツブツ唱えている。

 アーサーが剣を振りかぶって距離を詰め、勢い良くセトに叩き付けた。

 セトは案の定吹っ飛ぶ。

 メガネも吹っ飛んだけど大丈夫?


「ほう、前回よりはマシになっているではないか」

「フフフ、伊達に毎回試験を受けてはいませんよ」


 頭を上げたセトは、床に指で何やら書いている。

 それは光となり、立ち上がったセトを包み込んだ。


(いかずち)よ、今こそ我が力となれ!」


 アーサーを差したセトの指から、雷光に似た光が迸る。

 光はアーサーを捉え、爆発した。


 しかし爆発の衝撃が収まると同時に、アーサーの剣はセトの首筋を捉えていた。


「……参りました。やはりアーサーさんにはまだまだ勝てないか」

「いや、お前は良くやったぞ。鎧が少し焦げたではないか」

「あはは、ホントだ」

「ハハハハハ」


 旧知の仲のように二人は笑い合う。

 旧知ではあるんだろうけど。


 それよりも、あれが魔法か。

 完全にセトを侮っていた。

 アーサーには全然効いてなかったけど、床は多分大理石だろうに広範囲が炭になってボロボロだ。


 今までニコルの優しい魔法しか拝んだ事の無かった私には、衝撃だった。


 吹っ飛ばされたメガネをアルから受け取り、セトは私たちの所へ戻る。


「いやあ、八回目ともなると少しは歯が立つかと思ったけど、全然だったよ」


 負けても飄々としているのは、目的が『勇者』ではなく仲間になる事だからなんだろう。

 吹っ飛ばされたメガネは更に残念な形に進化していたが、私はセトを見直した。


 他の皆もそうなんだろう。

 クレイオスがセトの肩を叩く。


「お前さん、凄え魔法が使えるんだな」

「ああ、以前電気ネズミを捕まえてね。力を召喚出来るようになったんだよ」

「おお、それで雷の力を手に入れたのか」


 電気ネズミの見た目が気になる所だ。

 それはそうと、魔物を捕まえて何かをしたら魔法が使えるようになるのか。

 それって私にも出来るのかな。


「さて、次は誰が相手だ?」


 アーサーの声に、クレイオスが待ったをかける。


「アーサー殿、そのまま残り四人を相手にするつもりか? それでは疲れて後に闘ったもんが有利になると思うんだが」

「ほう、我が輩を心配してくれるか」


 心配してるのはアーサーじゃない。

 闘う順番によって自分が不利にならないかどうかだ。


「問題は無いぞ。回復薬を持っているからな」


 アーサーは鎧の隙間から小瓶を取り出した。

 中には液体が入っているようだ。

 それを見て、クレイオスは破顔する。


「それなら大丈夫だな。次は俺が相手だ」


 斧を担いでアーサーの前に出、クレイオスは声を上げた。


「我が名はクレイオス! お相手、お願いいたす!」


 アーサーとクレイオス、大男同士の闘いの火蓋が切って落とされた。

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