17.主婦、王様に失礼な口をきく
ホントは私もちょっとだけそうなんじゃないかな、とか思ったりしたんだよ。
連れてってもらう方角はお城の辺りっぽいし、食事をいただいた部屋には冠かぶった人の絵がズラリと並んでるし、ルードは自分の事「余」って言ってるし。
どうやらニコルの時と同じく、私は可能性を頭から排除していたようだ。
だって王様が通行許可証なくて自分の都に入れないとか、あり得ないでしょ。
検問官はちゃんと仕事してただけだから偉いとは思うけど。
そもそも王様がお伴一人だけでどこに何しに出かけてたのか。
どこぞの将軍やご隠居かよ。
朝食をいただきながら、少し冷静になった頭で考える。
「あ、形式として、一旦通用口から出て正面から入って来てね」
ルードの態度は昨日までと変わらない。
ニコルに対しても紳士のままだ。
最悪奴隷の扱い、良くても一緒に食事はないと思ったのに、私の隣で同じ食事が振る舞われている。
正直彼が何を考えているのか分からない。
というより、何で私たち王様と朝ご飯食べてんの?
いや昨日もだけど、さらに泊まらせてもらったけど。
「今日がちょうど試験の日なんだよね。あ、もしかして試験日に合わせて来たの?」
試験?
そういえばメトロさんがちらっと言ってたような気がする。
一体何をするんだろう。
ちゃんと聞いとけば良かった。
「ねえアル、さっきから余がずっと一人で喋ってる気がするんだけど」
「仕方がございません。一国の王と知って気軽に話が出来る神経の持ち主は、あまりいないかと存じます」
アルは、ずっとルードの横で微動だにせず控えていた。
執事ってそういうお仕事なんだね、お疲れ様です。
「つまんないなあ。『勇者』になるつもりなら、王様と普通に話せるだけの精神力くらい持ってなきゃ」
確かにニコルは完全に固まって食事にも一切手をつけていない。
私はしっかりいただいてるけど。お腹空いてたし。
身体が大きくなってから燃費が悪くなったらしく、やたらお腹が空くんだよね。
って、ニコルじゃなくて私の事言ってますね。
アルの言う通り、庶民に王様と普通に喋れる精神力は無いですよ。
「ねえ、チカ。君の事言ってるんだけど」
名指しされた。
こうなったら何でも良いから喋るしかない。
とりあえず当たり障りない感じで。
「ええと、美味しいね、これ」
「アル、この子喋ったと思ったら王様に向かってタメ口なんだけど」
喋ったのに文句言われた。
いや、私がタメ口だったのがいけないのか。
こんな調子だから、息子の幼稚園でママ友グループに入れずボッチを満喫してたんだよな。
ニコルが私の服の袖を引っ張る。
「王様にそれはマズイですよ」
「そうかな?」
「そうですよ。下手したら不敬罪で打ち首です。良くても国外追放ですよ」
「え、そんなにダメ?」
それは困った。
でもルードが王様って知る前からタメ口だしなあ。
今更タメ口止めろって言われても、じゃあ初めに言ってくださいって話だ。
「ルード、こんな事で打ち首とかするの?」
「うーん、昔はしてたかな」
大して怒った様子もなく、ルードは答える。
昔っていつ頃の事だろう。
「昔はしてたの?」
「うん。若い頃はそんな小さい事が許せなかったんだよね。今考えるとバカみたいだけど」
若い頃って、まだ充分若く見えるんだけど。
「思い出したら、歳を取ると丸くなるって実感するなあ」
「若者がお爺ちゃんみたいな事言わないで」
思わず突っ込んでしまった。
ルードが若かった頃、多分元の世界の私は今の彼より年上だったと思ってつい。
ニコルが泣きそうな顔でまた袖を引っ張る。
しかし、ルードは破顔するだけだった。
「チカが『勇者』になったら楽しいよ、きっと。試験、頑張ってね」
楽しいって何だと、また突っ込みそうになるのを飲み込んで、ありがとうと返す。
「ルード様、そろそろお時間です」
「そうか。じゃあチカ、健闘を祈るよ。ニコル、また謁見の間でね」
ルードはアルを伴って部屋を出た。
私たちも席を立つ。
言われた通り、通用口から一旦出て表に回った。
流石にお城、そこまでの道程が長い。
城壁沿いに歩けば良いから迷いはしないが、正面入り口に辿り着くまでで一仕事した気分だ。
改めて見ると大きくて立派だ。
建築の知識も美意識も無いけれど、それは分かる。
入り口は大きく開かれていた。
入るとホールがあり、正面に大きな扉、右手に階段、左手に正面より小さな扉がある。
正面の扉の前には、二人の人間がいた。
「ようこそ。王様への謁見はこちらです」
「本日開催の『勇者』認定試験会場はあちらの扉をお入りください」
私とニコルはここで別れるようだ。
「それじゃあ、また後で」
「はい。試験頑張ってくださいね、チカさん」
ニコルは正面へ、私は左へ向かう。
扉を開けると、そこはだだっ広い部屋だった。
本来兵士でも待機させておく場所なんだろうか。
中には既に四人いる。
私が中に入ると程なく、扉からアルが入って来た。
全員そちらに注目する。
「本日はお越しいただきありがとうございます。私はアルフリート。ユマン王国が国王・ルドルフ18世の筆頭執事でございます」
この人と王様の本名、初めて聞いた。
そしてずっと王国とだけ聞いていたこの国の名前も初めて聞いた。
知った所で何かに役立つかどうかは分からないけど。
「それでは早速ですが『勇者』認定試験を始めます」
主人公が暴走気味です。