表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/49

刺客②

 帝国陸軍魔導研究所で私が受けた教育は、つまるところ軍事訓練だった。


 私とともに軍事訓練を受けた者たちは大人、子供、男女およそ数十人、誰もが本来なら魔導の教育など受けられないような一癖ありそうな連中だった。


 こんな連中にまで軍事訓練を施さねばならないなどとは帝国の魔術師不足は深刻な状況だったのであろう。


 加えてそこまでして戦闘に耐えうる魔術師を確保しなければいけないという事実が、あの男が言った『皇国との間にきな臭い臭いがする』という言葉を裏付けているようであった。


 帝国陸軍魔導研究所での生活は苛酷なものだった。

 厳しい訓練。横柄な態度の教官。日常茶飯事として行われる体罰という名の理不尽な暴力。


 そんな環境に耐え兼ねて脱走を企てる者もいたが、その全てが未遂に終わった。

 帝国陸軍魔導研究所で軍事訓練を受けている者が脱走しようとする度に他の訓練生たちが教官に密告するからである。


 脱走未遂者がでれば連帯責任として更に激しい暴力と訓練を課せられるので密告する者がでるのは当然のことであったのであろう。


 そんな訓練を続けるうちに我々の顔からは表情が消えていった。表情で表せるほどの感情が磨耗していたのだろう。


 その時の我々は帝国に飼われている従順な家畜のようであった。


 そんな訓練に日々を費やしていくなかで私の魔術の才能が芽生え始め訓練を進めていくにつれ、その才能は大きく開花していった。


 二年間の軍事訓練を修了するころには、同期の者たちはもちろん、魔導の教官ですらもしのぐほどの魔力を私は身につけていた。


 軍事訓練を終えた私はある魔術師たちからなる小隊に配備された。すでに教官をもしのぐほどの魔力を身につけていた私が軍に配備されることに抵抗しなかったのは、帝国陸軍魔導研究所で毎日復唱させられた『帝国臣民の名誉』や『帝国臣民の誇り』や『帝国臣民の義務』などとは関係ない。ただ、軍にいれば以前のような生活に戻ることはないだろうという打算的な考えからだった。


 そこでも私は一目置かれる存在だった。何しろ私の魔力はその小隊の中でも圧倒的に大きいものだったからだ。

 数年前まで夜の路上をうろついてことを思えば随分と出世したものだ。


 時折、私の立場に嫉妬して陰湿な嫌がらせをしてくる者たちもいたが、そんな魔導学校出のお坊ちゃんたちには直々に夜の路上の流儀を叩き込んでやった。

 何しろ魔力は私の方が強いのは歴然としているのだから負けるはずがない。また、それがわかっているから奴らも陰湿な嫌がらせくらいしかできなかったのだろう。


 やがて、あの戦争が起こった。


 私たちの部隊は前線にまわされることとなった。

 この軍上層部の決定を不運として嘆く同僚もいたが、私にとってはどうでも良いことだった。

 それよりも私は今まで磨いてきた魔術の腕をふるえることを喜んだ。


 戦場で私は殺した、殺した、殺した。大勢を殺した。


 いつしか私は戦場で敵兵を殺すことに快感を覚えるようになった。

 私は生まれてから誰か他人に力で押さえつけられながら生きてきた。だが、戦場では違う。今度は私が誰かを力で押さえつけ押し潰す番だ。私は戦場で戦いながら自由を謳歌しているような気持ちになった。


 私はできうる限り先陣を務め、更なる危地へと自らを追いやり、戦場の中で魔術の研鑽に励んだ。戦争の中で私の魔力は強大さを増していった。


 一人、二人、十人、数十人、数百人の敵兵を殺した私は自分が帝国随一の魔術師ではないかと自惚れた。賢者と呼ばれる帝国内で有数といわれる魔術の使い手は結局は学者肌で、前線から遠い後方から指示を出すだけにすぎない。だが、私は違う。常に前線で戦い、おのが魔力を高めている。実戦において私はいかなる魔術師にも負けないという自信を深めていった。


 私のように強大な魔力を持ち、自らの魔術を更なる高みへと押し上げようとする者にとって、戦場は正に天国のような場所だった。何しろ敵兵をどのような形で殺しても良いのだから。軍上層部は私に敵兵を殺せと命じるだけだ。ならばどのように殺そうと私の勝手というものだろう。


 終戦が近づいたある日。私の所属する小隊が配備されている大隊が魔術師の一団からなる小隊を包囲した。

 大隊兵力およそ1100名。対する小隊兵力およそ50名。

 これでは話にならない。

 いくら相手が魔術師の一団の部隊といえど、これでは戦争にならない。数が違いすぎる。おそらく数で押し潰して終わりだろう。

 私は趣味として虐殺を嗜むがこれだけの戦力差があるとなると私が出るまでもないだろうと思っていた。


 しかし、そんな私の考えは大きく裏切られた。

 私たちが相手どっていたのは皇国陸軍第四一特殊魔導小隊だったからである。


 後からしったのだが、皇国陸軍第四一特殊魔導小隊は皇国内でも選りすぐりの魔導のエキスパートを揃えた精鋭部隊だったそうだ。


 特にその隊長ギルバート・ローズは皇国の悪魔というあだ名で帝国軍では有名だった。


 驚いたことに、そのギルバート・ローズ率いる第四一特殊魔導小隊が突撃を敢行してきたのだ。


 普通、突撃といえば歩兵や、騎兵の役割なのに魔術師の一団が十倍以上の戦力差のある相手に突撃してきたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ