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元第六三特殊魔導小隊所属人間魔導兵器24号4

 師匠と24号の身体の中に、凄まじいばかりの強大な魔力が生じているのを、僕は“魔力感知”で感じていた。


 睨み合うと言うにはあまりにも、静かな対峙。もっとも、24号は全盲だというから、敵を睨むという概念がないのだろう。


 先に仕掛けたのは、昨日と同じように24号だった。24号は全速力で師匠に向かって駆け出して、そのまま振りかぶっていた大剣を振り下ろした。


 師匠も昨日と同じように“闇の盾”を発動させた。しかし、師匠は昨日と違い“闇の盾”でそのまま24号の斬擊を、受け止めることはせず、体さばきを使って24号の攻撃を避けながら受け流した。


 師匠の反応によろめいた24号は、一瞬で体勢を立て直すとその勢いを利用して、切り返しの二擊目を横なぎに師匠に放った。


 その瞬間、24号の大剣が師匠の身体をなぎ払ったように見えた。


 だが、師匠は無傷の状態でその場から身をかわすように後ろへ飛んで、立っていた。


 24号の表情に絶望の色が広がっていく。


 師匠の身体を両断したと思われた24号の大剣は、師匠が放った“闇の刃”によって柄の根元から切り裂かれていた。


 切り裂かれた大剣の刃は24号の斬擊の勢いそのままに、地面に飛ばされていが、師匠はその刃を無数に発動させた“闇の刃”、“闇の槍”、“闇の矢”を使い完全に修復不可能なまでに破壊した。


 24号は虚脱したように膝を地面についた。


「勝負あったわね」

 僕の横にいたノワールさんが言った。


「昨日、お主は言ったな『自分は剣と剣身一体。剣がなければ自分はなく、自分がなければ剣もない。剣だけがあれば自分は生けていける』と、それでこれからどうするつもりじゃ?」


「私の敗けだ。殺せ」24号は力の感じられない声でそれだけ言った。


「殺しはせんよ。昨日も言った通り、お主を殺しても儂には何の得もない」


「私を殺さなければ、あなたは何か得をするのか?」

 24号が、師匠に尋ねた。


「得ならあるぞ。お主が戦い以外に生きる道を見つけてくれれば、儂は嬉しい」


 24号は何も答えず項垂れたままだ。


「相手の心の拠り所としているものを、完全に破壊して新しい価値観を相手に埋め込む。洗脳なんかだとよく使われる手口だけど、グレゴリーなら悪いようにはしないでしょう」

 ノワールさんは僕とジゼルに説明するように言った。


 僕はそんな声を聞きながら、師匠のあまりの強さに言葉を呑んだ。


 前に同行したクエストで、師匠が強いのはわかってはいたが、今回の相手はゴブリンやオークなどではない。24号は間違いなく超一流の魔法戦士だった。それがあんなにも実力差があるほど強いなんて、それもただ強いだけではない、自分の命を本気で奪おうとした相手に対して、返り討ちにするだけではなく、その未来の可能性まで示そうとしている。


 師匠は強い。でもそれはただ単に魔法の実力があるというだけではない。24号に対しても情けをかけようとしている。


 師匠は、前に行ったクエストの時のように、容赦なく相手を殺すという戦場で培ってしまうと思われる虚無的な感情がある。それでもほとんどの場合、必ず未来への明るい可能性に賭けている。


 これが本当に強いということなのかもしれない。

 それが、師匠が言っていた『人の心の闇に光を灯す』ということなのかもしれない。


 どうしてですか? 僕は心の中で師匠に問いかけた。

 師匠は街で、嫌われたり、悪口を言われたり、怖がれたりしたりしているのに、師匠もその事を自覚しているはずなのに、どうしてそんなに心の中に光を灯すことができるのですか?


 師匠は、魔法が使えなくても充分強いです。僕もいつかは師匠のように強くなれますか?


「私は今まで剣だけを頼りに戦いの中で生きてきた。その私が剣を取り上げられてしまっては生きていけない」

 24号はしばらく時間をかけて、ようやく答えた。


「本当にそう思うのか?」


「私は光属性の攻撃型の魔法戦士。だから、攻撃手段に用いる剣を破壊されてしまえば、何もできない」


「そんなことない!」僕は思わず24号に向かって叫んだ。

 24号は僕の声に反応したように、身体を微かに震わせた。


「闇魔法使いの弟子、アルバート・シルヴィアが元第六三特殊魔導小隊所属人間魔導兵器24号に挑戦する! 僕と戦え!」


「私にはもう何もできない。あの魔剣がなくなった以上、戦うことができない」


「24号は戦いの中で死ぬのが願いだったんだろう? だったら最後まで戦うべきなんだ!」

 僕の言葉を聞いて、24号は立ち上がり僕の方を向いた。


 ジゼルは心配そうな顔をしているが、ノワールさんは興味深そうな顔で僕たちを見ている。師匠は何も言わずに事の推移を見守ることにしたようだ。


 僕は自分の魔力を全力で解放した。24号の中にも再び魔力がみなぎってくるのを感じる。


 僕と24号が向かい合うと、24号は僕に向かって駆け出してきた。

 徒手空拳で僕に対して繰り出される24号の体術は魔法という要素が介在しなければ一瞬で僕をねじ伏せていただろう。


 でも、僕は闇魔法使いの弟子だ。師匠には及ばないまでも“闇の盾”を使って24号の攻撃を防いだ。


 24号の連擊は激しくて僕に攻撃魔法を使う隙を与えさせない。


 僕は必死に24号の隙をついて、闇を棒状にした“闇の棍棒”で24号に攻撃を加えた。“闇の刃”や“闇の槍”、“闇の矢”を使わなかったのには他意はない。僕の技量では闇を単純な形でしか具現化できなかったのだ。


 “闇の棍棒”は、時々24号の身体を打った。24号はその度に光魔法“光の治癒”を使って、僕に襲いかかってくる。


 僕は24号に渾身の攻撃魔法を加えようとした瞬間、僕は勝利を確信した。それほどまでに完全なタイミングだった。


 24号は僕の攻撃魔法に合わせて、その拳を僕の腹部に突き刺した。


 24号は僕の攻撃魔法を食らって膝まづいたが、僕は24号によって腹部の痛みと息苦しさによって、その場に倒れこんで悶絶した。


「どうして、とどめをささないんだ?」

 数分後、ようやく少し苦しさが和らいだ僕は息も絶え絶えの状態で24号に聞いた。


「知りたかったからだ」


「何を?」


「あなたの師匠も私にとどめを刺さなかった。だから、私も同じ事をしてどんな気持ちになるのか知りたかった」


「それで、今はどんな気分なんだ?」


「わからない。でも今までに感じたことのない気持ちだ」


「そうか、でも24号は剣がなくても、やっぱり強いよ」


「違う。私は勝負には勝ったが、本当に強いのはあなた。私はいつも相手を殺すつもりで戦っていたが、あなたは私を生かすために私に挑んできた。それは本当に強い人にしかできないことだと倒れているあなたを見ながら私は思った」


「そんなことないよ。僕はまだまだ修行中の身で実力不足だっただけだ」


「あなたが自分で自分のことをそう思うなら、それでいい。だけど私はあなたのことを強者だと認識した」


「24号ほどの人にそう思ってもらえるだけで嬉しいよ。でも24号は剣がなくても、戦えたじゃないか。他にも24号は色々な可能性を秘めていると思うよ。特に“光の治癒”みたいな回復系の魔法も使えるし、可能性は戦う以外のものがあると思う。戦う以外にもまだまだ色んなことができると思うよ」


「戦う以外のこと。そんなこと私にできると思うか?」


「できるよ。例えば回復系の魔法で他人を癒すこととか」


「今まで他者を傷つけることしかできなかった私が人を癒すか、そんなことができるだろうか。この問題に答えを出すには時間が必要だ」


「それなら、その答えが出るまで儂らの屋敷で暮らすがよかろう」師匠がそう言って僕たちの話に加わってきた。


「その言葉に甘えることにする。もちろん滞在費は払う」

 24号は相変わらず無表情だ。


「金などいらんよ。その代わりお主には滞在費分、身体で支払ってもらう」


「“身体で支払う”って言葉はなんか嫌らしいわね」

 ノワールさんが口を挟んできた。


「何を言うかノワール! 儂はただこの娘に屋敷の家事を手伝ってもらおうと思っただけじゃ。嫌らしい下心などは決してない!」


「必死になるところが、ますます怪しいわね」


「お主が茶々を入れると、話が拗れるからしばらく黙っておれ」


「はーい」と言ったノワールさんだが、その表情はどこか嬉しそうだ。


「それで、どうする? 24号よ。お主はお主を縛っていた魔剣から解き放たれたのじゃ。これからのお主がどうするかは、お主の自由じゃ。好きな生き方を選ぶが良い」


 24号はしばらく沈黙して考えていたようだが、口を開くと「分かった。私はこれからこの屋敷に住み、自分が持つ可能性について考えてみることにする」


 24号のその言葉を聞くとジゼルは嬉しそうに歓声を挙げた。

 師匠も「クェッ、クェッ、クェッ」と笑っている。

 ノワールさんも微笑んで僕たちを見ている。


 僕も24号から加えられたダメージに耐えながら、心の中から沸き上がってくる衝動に耐えきれずに必死に笑った。


 24号も微かに笑っているように見える。


 こうして元第六三特殊魔導小隊所属人間魔導兵器24号は僕たちと暮らすことになった。

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