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殺人事件3

 師匠が解放されたと、冒険者ギルドの使い人から伝えられたのは、師匠が拘束されてから4日後のことだった。


 僕たちはその知らせに喜び、慌てて言われるままに、ギルドの人が乗ってきた馬車に乗り込み街へと向かった。

 ノワールさんは、異空間を通って直接街に行こうとしたが、いきなりここから消えて街に現れたら不審に思われるという理由で僕たちに同行することになった。


 馬車は街中に入っても止まらずに、冒険者ギルドの前についてから止まった。


「ブラッグス様はギルド長室でお待ちです」

 使いの人がそう言った。


 そこからまた、この前と同じようにギルド長室に通された。

 前に来たときと同じようにギルド長が座っていたが、違うのは師匠がその側に座っていたことだ。


「師匠。ご無事で何よりです」

「先生。元気でしたか?」

 僕とジゼルは、それぞれ師匠に声をかけた。


「うむ。お主らにも心配かけたのう。だが、この通り儂は息災じゃ」

 本当に元気そうだ。といっても僕たちはノワールさんが毎日、師匠の様子を見に行っていることを知っていて、その報告を受けていたから、あまり心配もしていなかったのだが。


「それより、アルバート。野菜の世話はちゃんとしておいてくれたかの?」


「はい。やっておきました」

 やっぱり師匠は、野菜の心配をしていたんだな。


「うむ、よろしい。アルバートに任せておいたから大丈夫だとは思ったのだが、やはり心配になっての」

 師匠は安心したように軽く唇を歪めて微笑んだ。


「それにしても、どうして解放されたんですか? やっぱりギルド長さんが掛け合ってくれたからですか?」


「うむ。それもあるが、色々面倒なことになりそうなのじゃ」

 と師匠がそこまで言うと、ギルド長が一度師匠の話を遮って僕たちをここにつれてきてくれた使いの人に僕たちが座る椅子を持ってこさせた。


 僕たち皆が椅子に座ったのを見届けると、ギルド長は師匠に話の続きをするように促した。


「実はのう。2日前の晩にまた同じ犯人の犯行とおぼしき事件が起きたのじゃ。それで、その時に牢の中に入れられておった儂はアリバイが証明されて解放されたのじゃ」


「2日前の晩? だったら師匠は昨日にも解放されてもおかしくないじゃないですか」


「それが、複数犯の可能性もあるとして今までの事件で共犯として犯行を行ったのではないかと、今日まで足止めを食っておった。そこでこのギルド長ウィリアムズ氏が、自ら儂の身元を保証すると掛け合ってくれたお陰でこうして自由の身になることができたというわけじゃ」


 ここで軽く師匠はギルド長に目礼をし、ギルド長もそれに返礼するようにうなずいた。


「それなら、もう問題がないじゃないですか、早く帰りましょうよ」


「それがな、儂はギルド長から頼み事をされたのじゃ」


「といいますと?」


「今、話に登った、その殺人犯とやらを捕まえてほしいといわれたのじゃ」


「えー! 師匠そんなことができるのですか?」


「やってみなくては、わからん。なしろこれは、魔物退治とは違うからのう」


「それで、やるんですか?」


「やる」

 師匠は毅然として言った。それは、僕が予想した通りの返答だった。師匠なら、きっとこんな事件の犯人を放ってはおかないと思っていた。


「いや、こちらもお引き受けいただいて助かります。何しろ街議会の方からも何とかならないかと相談を受けていたんですよ」

 ギルド長は柔和な笑顔を崩さずに言った。


 なるほど、それでわかったギルド長は師匠の解放を掛け合うに当たって街議会のツテを使ったというわけか、いくら冒険者ギルドの長が身元を保証すると言ってもそれだけで簡単に殺人事件の容疑者を解放するはずがない。

 ここで、師匠にこの連続殺人事件の犯人を捕らえさせれば、街議会に所属している誰かに貸しでも作れると踏んだのだろう。

 通りで、冒険者ギルドが専門外の殺人事件にただで手を貸すはずがないと思った。

 僕でもここまで気がついたのだから、師匠が気がつかないわけがない。でも、師匠が黙っているということは、僕も口に出さない方が良さそうだ。


「それにしても、不愉快じゃ」


「何がですか?」

 ジゼルが師匠に聞いた。


「この事件の全てがじゃよ。こともあろうに儂らが暮らす家の近くでこのような忌まわしい事件が起きようとは。その上、犯人は被害者を殺害するのに魔法を使っているとは、全く腹立たしい。お陰で儂のような善良な魔法使いまでが疑いの目で見られる」

 師匠は心底忌々しそうに言った。でも、今の師匠の恐ろしい表情は知らない人が見たらみんな師匠のことを十中八、九邪悪な魔術師だと勘違いするだろう。


「それで、捕まえる方法はあるんですか?」

 いくら、師匠がけた外れの魔法の力を持っていても今回ばかりは一筋縄ではいかないような気がする。


「それについては、一応考えておる。すまんがギルド長。もう一度この事件のあらましを、ざっとでいいから話してくれんかの」


「いいですよ」

 ギルド長はうなずきながら言った。


「この事件のそもそものはじまりは3ヶ月前。一人の女性の死体が発見されたことがきっかけです。女性の死体の腹部には明らかに他殺と思われる切り傷があり、その傷からは若干の魔力が感知されたために、この女性が攻撃魔法によって殺害されたことが明らかとなりました。それから今日にいたるまでの3ヶ月間、実に9名の人間が何者かの攻撃魔法によって殺害されています」


「その殺害された9名の大体の内訳を教えてくれんか」


「えーと、冒険者の男性が3名、一般男性が1名、女性が5名です」


「あまり、共通点は無さそうじゃのう」


「そうですね。共通するところがあるとすれば、皆夜1人で出歩いていたということぐらいですかね」


「それにしても、冒険者も3人も殺されているとは、なかなか腕が立つ犯人なのじゃろうか」


「そうかもしれませんね。ですが、不思議なことに被害者たちは皆人気のないところに誘い出されているようです。それに抵抗した様子もあまりありません」


「それでは、事件の起きる周期の方はどうじゃ。何日おきくらいで、被害者が出ているのかの」


「大体、7日から15日の間です」


「なるほど。それにしても、これだけ派手に事件を起こしているのに、衛兵に尻尾を捕まれないとは、どういうわけじゃろうのう」


「さあ、衛兵も警らを強化しているようですが、殺人犯を捕らえることができないそうです」


「ふむ。今のところわかっているのはこんなところか」


「よろしければ、もっと詳細な事件の記録を用意させましょうか? 殺された順番とか、殺害現場の詳細な様子とか、事件の起きた周期の正確な日時とか、何か手がかりになるかもしれません」


「いや、良い。それよりも衛兵の警らの計画表を手に入れて欲しい。それも内密にな」


「わかりました手配しましょう」


「師匠。それではこれからどうなさるおつもりですか?」

 僕は師匠がどのような行動をとるのか気になって尋ねてみた。


「殺人犯の裏をかく。殺人犯が衛兵の警らに引っかからないのなら、こちらはあえて警らの手薄なところに網を張って、張り込むのじゃ。目立たぬように儂1人で見張りをする」


「それで、うまくいきますかね」


「そこで、ノワールの出番じゃ」


「え? 私?」

 今まで黙ってつまらなさそうに話を聞いていたノワールさんは、驚いたような声を出した。


「そうじゃ、人気のないところを狙ってノワールを配置しておけば、殺人犯の絶好の囮となるじゃろう」


「嫌よそんな面倒くさそうなこと、1人で張り込みでも何でもしていれば良いじゃない」

 ノワールさんが、いつものように反対した。


「頼む。ノワール。儂はこれ以上、この件で被害者が出るのは見てはおられんのじゃ」

 今回の師匠は珍しく素直に、ノワールさんに頭を下げてお願いをした。


「わかったわよ。たしかにこれ以上、被害者が出てその度にあなたが逮捕されるのも面倒だしね」

 ノワールさんは、師匠の素直な態度に答えるかのように了承した。


「ちょっと待ってください。今の話だとノワール様が囮役をやるということですが」

 ギルド長が口を挟んできた。


「その通りじゃが、何かあるのかの?」


「そんなことは見過ごすことはできません。だってノワール様は、まだ若い女性じゃないですか、万が一何かがあったら、責任をとれませんよ」


 若い女性かー。確かにノワールさんの正体を知らなければそう思っても無理はない。というか、ノワールさんって本当は何歳なのだろう。いつ聞いても「女性に年齢を尋ねるものじゃないわ」みたいなことを言われてはぐらかされてしまうけど。


「いや、心配は無用じゃ。ノワールはこう見えてお主も知っている通り優秀な闇魔法使いじゃ。問題ない」


 “優秀な闇魔法使い”か、ノワールさんの街での設定はそうなっているのか。


「だから、案ずるには及ばん。お主も安心しておれ」


「そうですか……」

 自信がありげな、師匠とは対照的な様子でギルド長は、渋々といった態度で了承した。


 まあ、この2人の本当の実力を知っていれば身の安全の心配などするには及ばないことは明白なのだが、残念ながらノワールさんの正体を誰かに言うことは禁じられている。

 まあ、言っても誰にも信じてもらえないだろうけど。


「そういうわけで、アルバート、ジゼル」

 師匠が僕たちの方を向いた。


「儂らはしばらく、屋敷に帰らずに街に泊まり込むから留守をよろしく頼むぞ」


「「はい」」

 僕とジゼルは同時に師匠の言葉に答えた。


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