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初めてのクエスト2

 ギルドで借りた地図を頼りにして、僕と師匠は3時間くらい歩いて目的地の洞窟が見える場所へと着いた。その途中でジゼルが作ってくれた弁当も食べた。ジゼルは張り切って作ってくれたのだろう、中身が少し豪華だった。


 洞窟の入り口の高さはオーガが棲めるくらいだから、かなり高く、幅は大人5人が優に並んで歩けるくらいだ。


「それでは“魔力探知”と“魔力感知”を発動させよ、何か怪しい動きを感じたら儂に報告せよ」


 僕は「はい」と答えて、師匠の言う通りにした。


 師匠は「それでは、用心のため装備を確認しておこう」そう言うと着ているローブを確認したので、僕も一応真似をして身体中を見回してみた。


「次に道具、消耗品の確認じゃ。背嚢(はいのう)の中を確認してみよ、ポーション5個、傷薬1個、毒消し1個が入っているはずじゃが、どうじゃ? ちゃんと入っておるか」


 僕は言われた通り地面に下ろした背嚢の中を確認して、師匠が言った通りの物が入っているのを確認した。

「はい。入ってます」


「よろしい。では次に魔法が確実に発動するか確認せよ」


「それは、どうすれば良いのですか?」


「こうするのじゃ」

 師匠の前に小さな“闇の刃”、“闇の槍”、“闇の矢”、“闇の盾”が発現した。


「ほれ、お主もやってみよ」と師匠から言われたので、僕も同じように小さく魔法を発動させた。


「よろしい。これらの一連の動作は不可欠なものだから、喫緊の場合以外は必ず行い、できるだけ癖にしておくようにしておくのじゃ」


「はい」


「これらの行動の中で一つでも不安な要素があれば、基本的に引き返すのじゃ」


「はい」


「それでは行くぞ、アルバート」


「はい」

 こうして僕は背嚢を背負い直すと師匠と一緒に洞窟へと向かった。


 緊張と高揚が僕の中でない交ぜになって、心臓の音が他人に聞こえないかと心配になるほど高鳴っている。

『今日は魔法の調子が良かったみたいだから、ゴブリンの一匹くらい倒せるかもしれない』


 師匠は松明に火をつけて掲げ、僕はマッピングするためのペンと紙を用意して洞窟内に入った。


 洞窟の中は入り口から遠ざかるにつれ暗くなり、すぐに松明で照らされている箇所以外は闇に紛れて何も見えなくなった。


「アルバート。できるだけ静かに歩け、大きな声は出すなよ、“魔力探知”と“魔力感知”は発動し続けよ。先手を取れるか取れないかで戦況は大きく変わる」


「はい」僕は言われた通り小声で答えた。


 20分ほど洞窟の中の一本道を歩いていると、僕の“魔力探知”に何かが引っ掛かった、すると前を歩いていた師匠が不意に立ち止まった。


「どうじゃ、アルバートこのくらい近付けば、お主でも気づいたのではないか?」

 僕には、師匠が何をいっているのかわかった。


「はい。約30メートル先に“魔力探知”に反応する生き物がいます。数は2匹。子供のような大きさからゴブリンだと思います」


「よろしい、良くできたぞ。恐らく見張りじゃろう。動きはどうじゃ?」


「今のところ動きはありません」


「ふむ。気づかれていないのか、それとも警戒しているのか、どちらにしろ動かないのであれば好都合じゃ。先手を取るぞ」


「はい」

 僕のその言葉が終わるか終わらないかのうちに、師匠が魔法を発動させた。僕の“魔力感知”に反応があった師匠の魔法は、闇を具現化する攻撃魔法“闇の刃”、“闇の槍”、“闇の矢”を30メートル先のゴブリンに対して何十個も同時に放つというものだった。それにしても30メートルも先の対象物に向かって複数の攻撃魔法を命中させるとは、やはり師匠の実力は凄い。


「アルバート、ゴブリンたちの反応を探れ」


 僕はその言葉に従って“魔力探知”でゴブリンたちの反応を探った。


「ゴブリン2匹が倒れました、動きはありません」


「よろしい、絶命したか行動不能に陥ったか。どちらにしろ油断はせぬように後、用心のために一応“闇の盾”を発動させておくように」


「はい」と僕は答えたが、あれだけの数の師匠の攻撃魔法を受けて、絶命しないはずがないと思うのだが、そういう考えが油断を産むのだろうと、僕は気持ちを引き締め直して“闇の盾”を発現させた。


 僕たちがさっきゴブリンを探知した場所に行くと、そこにはやっとのことで原型を保っているゴブリンの死体が2体横たわっていた。


 師匠も横でゴブリンたちの死体を見下ろしている。


「確実に仕留めたかどうかは、状況が許す限り抜かりなく確認しておくのじゃぞ」


「はい」


「本来なら、臭いで魔物にこちらの存在を気取られないように、自分の体に魔物や動物の死体の血を塗ったり、糞尿を塗ったりするのじゃが、今回はそこまでせんでも良いじゃろう。何しろ洗濯が大変じゃ」

 師匠がそんなことを話している横で僕は、火に照らされて微かに光っている赤やピンク色が入り交じっているゴブリンの血にまみれた内臓を見て、視界の端が明滅していることに気がついた。


「アルバート、大丈夫か?」

 師匠が心配して僕に声をかけてきた。


「大丈夫です」

 鮮血の臭いが鼻をつく。


「アルバート顔色が悪いぞ」


「大丈夫です」

 目の端にあったはずの明滅が段々面積を広げて視界を奪っていく。


「アルバート。おい、アルバート」


「はい」

 足元が急に柔らかくなったような気がして、立っているのが辛い。


「アルバート」


「はい」

 師匠の声が遠くから聞こえてくるような気がする。


「アルバート」


「はい」

 視界が完全に黒い色に閉ざされた。



 どれくらい時間が過ぎたのだろう。気がつくと僕はまだ洞窟の中で横たわっていた。

 目の前には心配そうに僕の顔を覗きこんでいる師匠の顔がある。


 目を開けた僕を見て師匠は安心したように「おお、起きたか」と言った。


「師匠、僕は?」


「ゴブリンの死体を見て気を失ったのじゃ。話は後じゃ、とりあえずここから離れるぞ」

 師匠はそう言うと僕に肩を貸して、出口に向かって歩き始めた。

 僕は覚束ない足取りだったけど師匠の力を借りてなんとか洞窟の外に出た。


 師匠はそのまま、近くの木立の陰に僕を横たえた。


「すみません。師匠」


「良い良い。始めは誰でもこんなものじゃ。しかし、体調が悪いときは無理をせずに正直に言うのじゃぞ」


「はい」

 僕は消え入りそうな声で答えた。

 多分、師匠はこんな事態を予測して気付け薬になるポーションを余分に買っておいたのだろう。


 突然、さっき見たゴブリンの死体を見た記憶が、頭をよぎった。

 僕は猛烈な吐き気に襲われて、立ち上がると木陰から走って距離を取り、胃の中の物を吐き出した。

 僕は嘔吐しながら、弁当を作ってくれて「がんばれ」と言って送り出してくれたジゼルのことを思い出した。


「それではお主の体調が回復するまで、ここで休んでおこう。動けるようになったら、お主はここで待っておれ。儂が一人で洞窟の中を片付けてくる」

 僕が木陰に戻ってきて再び横たわると、水の入った水筒を渡してきて師匠がそう言った。


「いえ。僕も最後までお伴します」

 僕はこれ以上、師匠を失望させてしまうことが何よりも怖かった。


「しかしのう」


「お願いします」


「うーむ」


「今度は大丈夫です。連れていってください」


「わかった。しかし、無理はするでないぞ。お主に何かがあれば儂がノワールとジゼルに叱られる」


「はい。ありがとうございます」

 そう言いながら僕はノワールさんと、ジゼルの顔を思い出していた。

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