7話~初めての討伐ぐらいは華麗に~
「よし!それじゃ、ジャイアント・スライムワーム討伐、行ってみるかぁ!」
「やっと大型モンスターと戦えるのね……!」
「おー!なのじゃ!」
しばらく移動し、ジャイアント・スライムワームが現れる場所へ到着した。
「のう、ヴィオレ。これを装備してみるのじゃ」
さっき購入したらしい猫耳カチューシャをヴィオレに渡すクミ。
「なにかしら? ……猫の耳? 少し恥ずかしいのだけど」
「それを装備するとなにかしらの能力が上昇するらしいぞ」
あ、何も言わず即装着しやがった。
強さに貪欲すぎる……
「どうじゃ? 何か変わったかの?」
「体が軽くなったように感じるニャ」
ハッとして口を押えるヴィオレ。
「ニャ?」
「ええ、何でもないニャ。大丈夫ニャ」
「ヴィオレ、お前そんなキャラだったか?」
「ち、違うニャ! そうニャ!このカチューシャを付けてからおかしいのニャ!」
カチューシャに手を掛けるヴィオレ。
そのまま力を込めたが、カチューシャは外れる様子はない。
「ぐぐぐ……!取れないニャ!」
「おい、どういうことだよクミ。まるで呪いの装備みたいに外せなくなっちまってるじゃねーか」
「どうやら呪いの装備そのもののようじゃな。ククク」
お前分かっててやったろ絶対。
「恥ずかしいニャ……このままじゃ町を歩けないニャ」
「似合ってるぞヴィオレ。コミケに行けば撮影の行列待ったなしだぞ」
「コミケって何よ~~っ!!」
恥ずかしさのあまり駆けだすヴィオレ。
「あっ、おい待てよ!おいクミ、追いかけるぞ!」
「ワシはあそこの高い丘でモンスターが現れないか見張っておくでな。また後でじゃ!」
ニヤニヤしながら走り去るクミ。
「なんかあったら絶対知らせろよ!おーいヴィオレ!待てって!」
「やだー!恥ずかしいニャ!」
くっそ、めっちゃ早え!
普段ゲームばっかしてるから体力が全然ねぇ。
どんどん距離が開いてゆく。
すると突然俺の近くで地面が盛り上がる。
「なんだ……?うおおっ!?」
なんと盛り上がった土からスライム・ワームが飛び出してきたのだ!
「うおお……な、なんだ?」
思わず身構えていたがスライム・ワームは俺に興味がないのか、去っていった。
ワームが去っていった方向へ視線をやる。
一瞬何が起こっているのかわからなかった。
状況を何とか把握し、ヴィオレに大声で呼び掛ける。
「ヴィオレェ!!後ろ後ろ―!!」
「ニャによ!私は日が落ちるまで帰…ら……」
気づいたか。
声が途中で途切れていき、どんどん顔が青くなってゆく。
「ギニャァアアアアアアア!!!キモイキモイキモいいいいい!!」
そう、なぜだか知らないがヴィオレは大量のワームに追跡されているのだ。
凄まじい光景だ。見てる分には……ちょっと待て。
「げぇーっ!おい!こっちくるな!」
「助けてショウタぁアアアア!!」
「おい、自慢の拳はどうしたんだよ!!」
「数が多すぎるニャ!しかもなんかヌルヌルテカテカなのニャ!」
「前衛なんだから我慢しろーっ!」
くそっ、ちょっとずつでも減らしていくしか……!
頼れる(笑)前衛がこんな状態だし、覚悟を決めるしかない!
「はぁ、はぁ、ふーっ……!!」
手先に感覚を集中させる。
よし、練習したイメージ通りの手斧を創り出せた!
走りながらの創造はやった事がなかったが人間、やる気になれば意外とやれるもんだ。
「うおおお!!ぶっ殺してやるぜえええ!!」
振り返って群れに突っ込み、全力で斧を振り回す。
無我夢中で、気づいたら周りは静かになっていた。
「ウニャアアアアアア!!」
相変わらずあいつは追いかけられていたが。
皆が皆ヴィオレにターゲットを向けているらしい。
しかもいつの間にか追いかけるスライム・ワーム達の中にその数十倍はあろうかというワームが加わっていた。
もしかしてアレ今回の討伐対象じゃないのか?
小さいワームは簡単に倒せるしとりあえずこちらで露払いしておくか。
ーーーーーー
「おーいヴィオレー!後ろの雑魚は殲滅しておいたぞー!」
「い、いつの間に! ってまだ大きいの残ってるニャ!」
「俺も手伝うからこいつを倒すぞ! お前の拳は飾りじゃねーだろ?」
「当然ニャ。 ここでしばいて思い知らせてやるニャ!」
「プッ」
語尾のニャで思わず吹き出すと赤い顔で睨まれた。
「ゴホン、今はこいつ一匹だ。 動きも複雑じゃないし俺達駆け出しでも倒せるだろう。 でも気を抜くなよ? 何が起こるか分からないからな!」
「一撃で仕留めるニャ!」
「あっ、おい!」
止める間もなく駆けだすヴィオレ。
その速さは町で見た時よりも数段速くなっていた。
「はああああああ!!私の魔力全てをこの拳強化に込めるニャ!ニャあああありゃああああ!!」
ジャイアント・スライムワームの長い体にヴィオレ全力全開の拳が稲妻の如く突き刺さる!
が、貫くことは無かった。
「……とても触り心地の良い体ニャ。」
「おい、離れ……あっ」
「いやあああああ!!助けてショウタああああ!クミいいいい!!」
ヴィオレの肢体に触手が伸びる。
触手に捕まったヴィオレはジャイアント・スライムワームの透き通った体内に取り込まれてしまった。
体内のヴィオレがめっちゃこっち見てる……
「どどどど、どうしよ はっ、クミ―!おーいクミ―!助けてえええ!」
「うわー、近寄りたくないのじゃ。乙女に触手持ってるモンスターの相手させようなんていい趣味じゃのう?」
「バ!?ばっかお前!別にそんなつもりじゃねーし!それよりキュウビ族自慢の呪術で何とかしてくださいよォーっ!!」
「攻撃出来るような呪術は無いのじゃ。 足止め程度ならできるからショウタ自身でとどめを刺すのじゃぞ!」
そう言うなりクミが聴き慣れない言語で何かを唱えている。
「むぅん!」
クミが手を振り下ろすと、ジャイアント・スライムワームに黒いオーラが纏わりつき、動きが極端に鈍くなった。
「今じゃショウタ!」
「わ、わかった!」
追加でもう一本手斧を作り出す。
「うおおおおっ!」
ーー――――
夢中で斧を叩きつけ続けた事でジャイアント・スライムワームの体のあちこちから体液が流れ出している。
それにしてもこいつ、臓器とか見当たらないのにどうやって動いているんだろう?
「ハァハァハァッ、これでっ……どうだっ!」
最後の一撃。
倒れたジャイアント・スライムワームからずるりとヴィオレが出てきた。
ついでにカチューシャも取れていた。
「ぶはーっ!げっほげほ……助かったわ」
「帰ったらまずは風呂からだなぁ、こりゃ」
…………。
ジャイアント・スライムワームの体液にまみれて服がぴったりと張り付き、体のラインがはっきり浮き出ている。
これは……なかなかけしからんな。
「ちょっと?どこを見ているのかしら」
拳を握るヴィオレ。
「ま、待て!俺はこう、えっと、そう!怪我してる所とかないかチェックしてたんだぞ! いやいやどこもケガしてないようでよかったよかった!HAHAHAHA!!」
笑って誤魔化す。我ながらわざと過ぎて誤魔化せてるか怪しいが。
「本当かしら。でも助かったわ」
「ふう、二人ともご苦労じゃったの! 早く帰って食事にするのじゃ!」
「おめーはそれほど働いてないだろ」
「何を言うか、ワシがおらんかったら一体どうなっていたことやら……ん?」
「どうした?」
「何か……近づいてきておる!」
次の瞬間、地面から今さっき倒したジャイアント・スライムワームよりも一回り大きいサイズのスライムワームが現れたのだ!
「な、なぁもう限界なんだが」
「ワシはそろそろご飯が食べたいなーって」
「帰りましょう帰りましょう帰りましょう帰りましょう」
三人で顔を見合わせる。
「はい撤収!」
俺たちはジャイアント・スライムワームに追われながら全速力で町の方向へ駆けだした。
最初の依頼くらい、華麗にこなしたかったなぁ。