5話~キュウビ族の少女~
唖然とするが、放っておくわけにもいかないので、とりあえずコミュニケーションを試みる。
「あ、あの、どちら様ですか……?」
聞きたいことは他にもある(全裸なところとか狐耳とか)が、ひとまず素性を訪ねる。
「なんじゃショウタ。ワシのことが分からんのか?」
はて?異世界に来る前からロリババアな知り合いなんていないはずだが。
そんな知り合いがいたら死ぬほど甘え倒していただろう。
「わからんです」
「ワシらは同じ飯を共に分かち合う程の仲というのに…」
分かち合う。そこで思い当たる節があったので小屋の中を見回す。
キツネがいない。
ん?
目前の少女を見る。
狐耳。そして銀色の毛髪。
そんなまさか。
「ひょっとして!」
「気付いたかの。この姿を見せるのは初めてじゃな。それでは自己紹介っと」
少女は目の前で手を組むと一瞬力んだ。
するとボフンと煙が上がり、その場には見慣れたキツネが姿を現した。
うお、すっげぇ。
次に狐は肉球を天に掲げ、ビシッとポーズを決めた。
どっかで見たことあるポーズだと思ったらサタデーナイトフィーバーだ!
それ動物の姿でやるのわりと辛そうなんだけど。
すると周囲から光が集まりだし、小屋内は眩い光に満たされた。
光が収まると、先ほどの少女の姿があった。
「ふふ、どうじゃ?驚いたじゃろ? 変幻自じゃい……」
あ、噛んだ。かわいいな。
「んんっ! ……のキュウビ族、クミじゃ!」
「よろしくな、クミ。そして早速で悪いが服を着てくれないか?」
「いかんのか?」
「良いわけないだろ。風邪ひくしこっちが落ち着かないんだよ」
「ショウタなら……見てもよいぞ。食事を分け合ったのじゃから、ワシらはもう夫婦のようなものじゃ」
「めおっ!? 何言ってんだ!?」
照れながら言う。
クミ曰く。キュウビ族はそれぞれで狩りをして自分の分は自分で賄うらしく、自らの食事を他の者に分け与えるのはプロポーズのような意味合いを持つとのこと。
俺と同じ飯を食ってくれ!的な感じなんだろうか。
「あ、いや、それはだな、知らなかったからノーカンで」
「おー! ウマそうじゃショウタ!香ばしいのう!」
聞いちゃいなかった。
そういや驚いてて飯のこと忘れていたな。夜遅くなる前に食べちゃおう。
最後に一言。
服を着ろ。
――――――
何をするにも先立つものは金。
とりあえずクミの力を借りて依頼をこなしていくのだが、採取系の依頼だとクミはもう本当に最強だ。
普段は5時間掛かってもおかしくない依頼を2時間で片づけることができるのだ。
おかげで一日で結構稼ぐことができた。
ちなみにクミにはこの稼ぎで服を買った。
意外なことに、たまたま入った店に和服があったのだ。
なんでも数年前に突如として現れた男がこの町に寄った際に、今まで誰も思いつかなかった料理や服飾を伝えたという。
しかし、そのすべてが現代日本で誰でも見たことのあるようなもので、俺にとって目新しさはない。
どうやら俺以外にも異世界に来た人がいるようだ。
っと、服だったな。
現在クミはキツネモードで頭の上だ。
俺は妹共のせいで見慣れているが、公の場で裸はヤバい。
何がヤバいかって、俺がロリコンとして逮捕されるのがヤバい。
そんなこんなで服を着てほしくて希望を聞いてみたが、
「ショウタが選ぶものなら何でもよい」
何でもよい。何でもよいとな?
それじゃ、可愛くて萌えポイント高い服にすべきだな!
「すいませーん、この服くださーい!それで、ここをこうして……」
代金の支払いが終わり、出来上がりは明日になるらしいのでクミにはもう少しキツネモードでいてもらおう。
暇だし、一旦小屋に戻って創造の力を使って色々試してみるか。
―――――
創造の力でいろいろ作ってみた。
市場で見かけた手斧や、剣を創造してみたところ、上手くいった。
だが、虹色に光っていた。
そう、虹色に。
すこし中二チックな武器が好きな俺としては淡い黄色や赤色に光らせたかった。
だがどうあがいても虹色。
オーラ的な感じで光っているのではなく、そのものが虹色に光っていてダサく感じる。
今度オラクル様に会えたら色をどうにかしてもらおう。
……チート能力を手に入れてもまだまだ注文つける辺り我ながら強欲だとは思うけどね。
ひとまずここまでにしておこう。
外はもう暗くなってきていたのでもう寝ることにした。
―――――
翌日。
昨日注文したクミの服が出来上がったので、早速来てもらった。
「ほう、なかなか良いではないか」
「よしよし、似合ってるぞ。わざわざ和服を選んだ甲斐があったってもんだ」
下の部分をミニスカートのように短くし、フリフリを付けるよう注文しておいたのだが、正解だったようだ。
うーん、目の保養になるなぁ。
一つだけ気になることがあるんだよな。
「なぁクミ、ヒトの姿でいられるのに時間制限とかあるのか?」
「ないな。どちらもワシ本来の姿じゃからな」
なるほど。
キュウビ族って凄い。
それなら冒険者として登録出来ればモンスターの駆除依頼も受けられるようになるかもしれない。
早速ギルドで登録だ。
ギルド付近では、何か人だかりが出来ていた。
何でも少女をチームに勧誘した領主の息子が誘いを断られた結果少女を挑発し、喧嘩に発展したとか。
やじ馬根性が騒ぐな! もうちょっと見えるところに移動しよう。
「おい、降参するなら今のうちだぞ」
「ビビってるのかしら?さっさとかかってきなさい」
少年と少女のやり取りが聞こえる。
あれー。少女の声、聞き覚えがあるなー。
……ヴィオレさんでした。
モンスターだけに積極的にちょっかい出すのかと思ってたら喧嘩までしてるしほんとバーサーカーみたいなやつだな。
どれ?少しヴィオレさんの強さを見せて貰いましょうかね。
ヴィオレは何というか、それはそれは圧倒的だった。
最初の突進から相手をかく乱する動き、戦いなれてるような感じだった。
世紀末な時代ならユクゾッとか言ってそうな動きをしていた。
あんなの相手に喧嘩売るなんて少年も災難だ。
相手が悪すぎたな。あんな意味わからん動き捉えられる人なんかいるのか?
隙をさらした少年に足払いが決まり、尻もちをついたところに太ももへの追撃が決まる。
うわ。あんな所に追撃入れるとか容赦ねぇ。
少年は上級魔法を使うと聞いていて、ついに魔法がみられるのかと期待したが発動せずに決着はついた。
まぁ、発動するために何かを唱えていたがあんなスピードで接近されちゃ唱える暇ないだろうしな。
走り去る少年に踵を返しギルドに入っていったヴィオレは、依頼掲示板から採取系の依頼を剝ぎ取ってさっさと出発してしまった。
あいつチーム組めてないのか……
「あの女、なかなかのやり手じゃのう」
「ほんとだよ。とても人間とは思えない速さだったけどなんだったんだ?」
「む、ショウタ。お主はあの女が魔法を使っているのに気づいておらんのか?」
「魔法?」
そんな場面はあっただろうか。
「あの女は移動するときは足へ強化、殴り掛かるときは腕と状況で強化魔法を必要な部分にだけ使用、強化し最小限の魔力で戦っておったな。じつに器用じゃ。」
「見えないところでそんなことしてたのか。なるほど」
俺じゃとても太刀打ちできないな。
「っとと、お前の冒険者登録をしに行くんだった。ほら、いくぞ」
クミを引き連れて登録カウンターへ向かう。
「こんにちは!冒険者登録ですか?」
「ええ、俺はもう登録してあるのでこの子の登録をお願いします」
「分かりました。では冒険者カードをお作り致します!」
待つこと数秒。
受付のお姉さんがクミのカードを持って戻ってきた。
「はいどうぞ!よい冒険者ライフを!」
カードを受け取るクミ。
あいつどんなジョブなんだろう。今まで戦うところを見ていないから気になる。
俺がシューターのジョブ、つまり後衛に当たる訳だがここでクミが前衛職ならバランスが良い。
期待を込めてクミのジョブを訪ねる。
「なぁクミ。お前のジョブって何?」
「フッ、愚問じゃな。キュウビ族が冒険者になると言えばあのジョブしかないじゃろ?」
いやいや。
そう言われても俺はこの世界のことはほとんど何にもわからないんだって。
しょうがない。こうなったら、
「教えてくれたらまたわしゃわしゃしてあげるのになー」
「なっ、それは本当……! ま、まぁこの世界のことをまだ知らないショウタじゃし、特別にワシのジョブについて教えてやろう。特別に!」
……割とちょろいのかもしれませんね、この子。
「ワシのジョブは何を隠そう、スペルアリア―なのじゃ!」
「スペルアリア―!?」
聞いたことがないジョブだ。
今まで多少はRPGゲームとかやっていたけど、初めて聞く。
なんかもう響きがかっこよくてズルい。
こちらはシューターで、如何にも初期ジョブって感じだがこっちはもう二、三段階ぐらい先を行ってそうな雰囲気が出ている。
「それでスペルアリア―ってのはどんなジョブなんだ?」
「呪術がメインのジョブじゃな。その他にも解呪もできるらしいのじゃ。ちなみにキュウビ族しかなれないジョブじゃから、お主ら人間が知らないこともできるかもしれんの!」
ホホホと笑うクミ。
なんだよ最後の。めっちゃ気になるんですけど?
要するに呪術師みたいなものなのか。
だとすれば後衛が二人で前衛なし。
このまま依頼に出発したらモンスターと追いかけっこしながら(当然逃げるのは俺たちだ。)戦うことになりそうだ。
無駄に体力を消費するのは得策じゃないよな。
どこかに頼れる前衛、いないかなぁ。
頼れる前衛……あっ。
ふと先ほどの光景がフラッシュバックする。
世紀末の病人かと勘違いするほどの速さで動き回るヴィオレが。
そういえば忘れてたけどあいつに助けてもらってたんだよな、俺。
受けた恩を忘れていた自分の鳥頭っぷりに腹が立つ。
よし決めた。ヴィオレを誘おう。
今日はいったん出直し、明日ギルドでヴィオレに声を掛けよう。