4話~目覚め~
さて、新しい町に来て最初にやることといえばまずは探索!
異世界に来たんだから元の世界との違いを堪能しなきゃ損だろ。
がむしゃらに走ったせいで何処にどの建物があるか把握できずにこんなところまで来てしまったが、のんびり行こう。
適当に歩き回っていると、どうやら市場らしき所に出た。
いい匂いだ。
匂いにつられてフラフラと歩く。
どうやらあの屋台が匂いの元のようだ。
タレを塗っているのか、肉の表面はテラテラと光っている。
ウマそうな匂いだ。
これをおかずに白飯をかっこんだら最高だろうなぁ。
思わず店主に声を掛ける。
「おっちゃん!その肉なんていうの?」
「おお、これはなぁ珍しく仕入れたタイラント・ベアの肉だ!良く焼けてるぞ!」
マジか。あの熊食えるのかよ。
いや、元の世界でも熊肉は食ってるとこあるって聞いたことあるな。
食べたことないけど。
「おっちゃん!ひとつ…はっ!」
重大なことに気づいた。
無一文なのだ。
しまった…!俺はこの世界の金を持っていない。
がっかりだ。
仕方ないが今回は諦めるしかない。
俺のしぐさから手持ちがないことに気づいた店主。
「しょうがねぇ、めったに食えねぇタイラント・ベアの肉だ。一つやる!」
「えっいいのか!?」
「一つだけだ。気に入ったら次買いに来な!」
ニヒルに笑い、熊肉が刺さった串を差し出した。
「ありがとう…!絶対また来るぜ!」
おっちゃんの優しさが心に沁みる。
この借りは必ず返すから!
一匹と一人で仲良く分け合い、平らげた。
余韻に浸っていると、突然真横から声が聞こえた。
「おい、少年」
Q.高校生は少年に入りますか?
A.調整中です。
それじゃ俺のことじゃないな…
「おい!無視するな!」
思わず辺りを見回し、え?俺?とジェスチャーを送る。
「お前だよお前!」
マジか。
見れば金髪の幼女ちゃんがぷりぷりと怒っていた。
ほーん、なかなか俺好みの…じゃなくて、かわいい女の子だ。
「え…俺に何か用事?」
「全く!神を無視するとか即死する天罰下すぞ?」
「は?神?またまた~!」
その年で中二病か。
最近の子供は育つのが早いなぁ。
かわいいし少しだけ付き合ってあげようか。
「あまり幼女扱いするなよ?お前の考えてることぐらいまるっとお見通しなんだからな」
ほう。
じゃぁ本当にお見通しなのかちょっと試してみようじゃねーか。
「む?何をする気だ?」
目の前の幼女をがん見して記憶に刻み付ける。
そして想像する。
夕方、俺は学校の居残りや生徒会の活動でクタクタになって家路につく。
ドアを開けるとお出迎えしてくれる自称神様の幼女。
そしてこう言うのだ。
「お風呂にする?夕飯にする?それとも、わ・た・し?」
赤面しながらエプロンをたくし上げていき、白いニーソから覗くハリのある太ももが見え……
「うわぁぁぁぁぁあああっ!!やめろ何考えてんだお前えええっ!」
「あぁ!あと少しで見えたのに!」
「させるかバカ!」
どうやら考えてることが分かるってのは本当のようだ。
「ったく……あんな神託授けたのがこんな変態なんて信じられん!」
「なんだって?」
「何でもない!本題に入るぞ!」
そういうと自称神様はこちらに向き直る。
「まずは自己紹介からするか。私は授ける神、オラクルだ」
神を名乗ってて、考えてることが本当にわかるらしいってのは分かるが、いまいち信じられない。
「ふむ。お前、最近虹色に光る力使えるようになっただろ?あれは私が神水を通して授けたものだ」
マジでか。
しかし、神水なんてのは飲んだ記憶が……
あっ、まさか!あの時の川か!
「まさか出現させてノータイムで飲みに行くのは予想外だったがな。手間は省けたが」
あの後、川がきれいさっぱりなくなってたのもこいつの仕業か。
「まぁそうだな」
そうか…あの時、俺は周りに誰もいないことを確認していた。隠れられるような場所もなかったはずだ。
じゃぁちょっとだけ信じてみてもいいかもしれないな。
というか、ナチュラルに思考へ返事するのやめてくれませんかね。
ふとした拍子に恥ずかしい事聞かれそうで怖い。
「フフン、そこらへんは空気を読んで流しておいてやろう。で、だ」
こちらに向き直る神様。
「今回はお前に授けた異能、[破壊と創造]についてレクチャーしてやろう」
は?破壊と創造?
―――――
「―――というわけだ。わかったか?」
呆然とする。
まとめると、次のようになるらしい。
〇破壊
・対象に触れてエネルギーを一定の量送り込むと、対象が破壊される。複数の物に同時に触れている場合には送り込むのに時間がかかり、集中しないと成功しないらしい。
・対象の破壊され方は、俺の破壊するイメージで様々に変わるらしい。
・破壊の能力を使うには精神力を消費する。
〇創造
・エネルギーで物体を形成、そして定着させる能力。
・破壊の能力で破壊したものであれば少ない消費で再現できる。
・創造の能力を使うには体力を消費する。
……控えめに言ってもチートなんじゃないですか?これ。
なるほど。
他にも効果はあると思っていたが、予想通りだ。
しかし想像以上だ。
これは俺の異世界最強伝説始まったな……
「それでお前、今まで見てたが創造の方は一回も使ってないな?」
「え、だって知らなかったし…」
「仕方ないから最後にコツを教えてやる」
「オラクル様ありがとう!ステキ!サイコー!」
「雑な世辞だなー」
まんざらでもないようで、少し照れている。
少し赤面した顔、ええなぁ。
こちらの考えていることに気づいたオラクル様はさらに顔を赤くした。
「何見てんだよ!ほら始めるぞ!」
――――――――
こうして、俺はまだまだ未熟だが創造の力を扱えるようになった。
バレーボール程の大きさの球体を作り出した所で息切れして限界だったが、何回も使い込むとその内効率良くエネルギー使えるようになるらしい。
後は体力付けて行けばいいかな。
「あ、そうだ。ギルドの近くに神パワーでなんやかんやしてお前の為に小屋を用意しておいたぞ。しばらくはそこで寝泊りするといい」
「能力の説明や挙句の果てには寝床まで用意してもらって……ほんと足向けて寝られないな」
「お前には成し遂げて貰わんと困るからな」
「は?なんのこと?」
「いずれ分かる。知りたくばこの世界を旅してみるといい。それじゃ、私は帰るから。じゃ~ね~」
「あっ、おい!」
消えた……
とりあえずギルドに向かってみるか。
道行く人々に尋ね、何とかギルドにたどり着くことができた。
ギルドの中を見て回り、把握する。
とりあえず冒険者登録してみるか。
カード作成。
カードの裏には俺のステータス、ジョブ等が記されるらしい。
俺のステータスか。なんかドキドキするな。
通知表を開く前の心境に近い。
………。
あぁ、分かってたさ。
異世界に来たからって飛び抜けたステータスや隠れた能力が目覚めるなんて事はないってさ。
まぁ、実際にはもうチート能力授かってるし。
全然別にこれっぽっちも悔しくないし。
職業はどうしようか。
ステが一般人過ぎてどのジョブにしたものか悩んだ。
悩んだ結果、シューターに落ち着いた。
シューターとは、遠距離から弓や投擲アイテムなどで味方を援護できる遊撃手の役割を持っている。
モンスター相手に殴り合いとかまた吐血しちゃうからな。
創造の力を使えば弾作り放題だし、なんなら射出する方の道具も創造してもいいかもしれない。
さて、ジョブが決まったところで採集の依頼でも受けてみるか。
掲示板をざっと見渡し、森の茸採集依頼を受ける。
数時間後、無事依頼を終えることができた。
俺が創造の力で意味不明な虹色オブジェを作っていると、いつの間にかキツネが納品分の茸を加えて戻ってきたので、ラクラククリアだった。
撫でて欲しそうなのを察し、思いっきりわしゃわしゃとしてやる。
こいつ有能過ぎない?
かしこかわいいからキツーネチカって呼んじゃおうか。
流石に無理矢理すぎて呼びにくいな。
そのうち名前つけよう。
そんなこんなで夕日が沈んだころ、ギルドに戻った。
ギルドと銭湯が繋がっていて、依頼終わりに入っていけるのだ。
流石に皆が使うお湯にキツネを入れるのは抵抗がある。
なのでオラクル様が用意してくれたという小屋を探してから一旦キツネを置いて風呂に入りに行くことにした。
幸いすぐに見つけることができた。
中には布団が一つ敷いてあり、それ以外には何もなかった。
異世界にきて布団ってなんか違和感がすごいな。
それでもお馴染みの寝具を用意してくれたオラクル様には感謝だ。
とりあえず、キツネに声を掛ける。
言葉理解できるって便利。
「それじゃ、俺は風呂に入ってくるから、しばらく待っててくれよ。いい子にしてたらお土産あげるからな~」
そして小屋を後にする。
うーん、元居た世界では俺の家、湯船ついてなかったからなぁ。
久々の、それも異世界の湯、堪能させてもらうとしよう。
―――――
あぁ~、もう最高だった。
創造の力で疲れた体に染みわたってゆくお湯の温度。
あのじわじわとくる快感、やみつきになりそうだ。
帰りにあの親切なおっちゃんへお礼のため、おっちゃんの屋台で採取依頼で得た有り金をすべて串焼きにつぎ込み、帰宅。
「ふぃ~、ただいま~ってなー」
「遅かったの、ショウタ」
は?
俺は衝撃のあまり手に持っていた串焼きの包みを落とした。
「何をしておる、はよう入ってこぬか。待ちわびたぞ」
だって、風呂から戻ったら狐耳の銀髪幼女が自分の小屋で全裸待機してるなんて誰も思わないでしょ?
これからは5日毎に更新しますので、よろしくお願いします。