3.5話~ヴィオレの災難~
まさか全力疾走で逃げられるとは思っていなかった。
魔法で脚力を強化して捕まえることもできたが、あまりに必死に逃げているので追いかけないことにした。
あの後私は仕方なく一人でギルドに向かった。
ギルドとは冒険者を支える施設で、食事や依頼を受けたりスキルポイント?とやらを振り分けることができるらしい。
一通りギルド内を見て回り、冒険者登録をした。
私は魔法の適性が結構高く、ジョブを決めるにあたってウィザードやプリーストがおすすめされたが、後衛で援護するのは私の性に合っていない。
なので私は前衛で戦う格闘家のジョブに決めた。
受付のお姉さんにカードを渡し、今の情報で登録してもらう。
「えー、お名前はヴィオレ・エヴィエニス、ジョブは格闘家で……格闘家!?」
受付のお姉さんは驚き、カードと私を交互に見た。
「格闘家でよろしいんですか…?ウィザードやプリーストが」
「かまないわ。格闘家にして頂戴」
「え、えぇ…わかりました。…はい、それでは登録完了です!よい冒険者ライフを!」
お姉さんからカードを受け取る。
なんでもないような表情で食事スペースの端まで行き、席に着く。
ここなら薄暗いし、ニヤニヤしてても目立たないだろう。
やった。遂に私も冒険者デビュー!
屋敷にあった本のように心躍るような冒険をし、時には困難に陥るもこれを何とか乗り越えたり。
ダンジョンに潜って一攫千金とか。
これからの輝かしい冒険者生活にニヤニヤが止まらない。
今日はひとまず、この町周辺にいるモンスターの駆除依頼を受け、宿の分だけは稼いでおこう。
クエストカウンターに向かい、依頼を受ける。
すると、受付のお姉さんは
「申し訳ございません。モンスターの駆除など、万が一のことがある討伐依頼はチームでないとおうけすることができません」
とのことだった。
誤算だった。
こうなるとショウタに逃げられたのが響いてくる。
あんにゃろう今度会ったら覚えてろよ…
採集依頼は報酬が討伐依頼より少なく、出来るなら討伐で稼いでおきたいところだった。
仕方ないのでとりあえず今日は採集依頼をこなして、今日の宿代だけでも稼いでおかないと。
今は人がいないので明日からチーム募集しようっと。
――――二日後――――
未だにチームに入ることはできていない。
チーム募集の掲示板を眺めていると、声をかけられた。
「そこの女の子、もしかしてチームをお探しかい?」
小太りの男はそう言って、値踏みするような視線でこちらを観察している。
表ではどう取り繕っていても、こんなのに関わっていい事なんかないだろう。
「どうだろう、僕のチームに入りなよ!駆け出し君でも歓迎するよ!」
「……」
「ちょっと、聞いてる?」
めんどくさい。いったん出直してこよう。
無視してギルドから出ようとした。
「おい!僕が誘ってやってるんだぞ!無視するな!」
肩をつかんできたので振り払いながら言い放つ。
「残念だけれどあなたのチームに入るつもりはないわ」
「なんだと!駆け出しの分際で!どうせ弱いから誰も誘ってくれないんだろ!」
あ゛?
つい睨みつけてしまった。
少したじろいだ少年だが、余裕そうな表情を浮かべる。
「ふん、僕は上級魔法だって使えるんだぞ!お前なんか相手にならないさ」
へぇ~。それじゃ見せて貰おうかしら。
「上級魔法ですって?初級魔法の間違いでしょう」
「上級だ!お前その貧相な体に直接体験させてやろうか?」
「言ってくれるじゃない。表へ出なさい」
「この僕にたてついた事を後悔させてやるぞ!」
外へ先に出て、小太りの少年が出てくるのを待つ。
出てきた少年は手に杖を持っていた。
杖の先には大きな水晶が取り付けられている。
本で読んだが、水晶の大きさによって魔法の強化され方が変わるらしい。
あの大きさだとかなり強化されそうだ。
「おい、降参するなら今のうちだぞ」
「ビビってるのかしら?さっさとかかってきなさい」
指抜きグローブを装着しながら軽く挑発する。
舌打ちした少年は呪文を唱え始める。
少年の元まで脚力を魔法で強化して、4,5秒ってところかしら。
それまでに上級魔法の詠唱を終える事ができるかしらね!
地面を蹴る。
一直線に少年へ接近、足の強化を解き、拳に魔力を集中させる。
圧倒的速さと魔力を乗せた一撃、まともに当たれば一発で昏倒するだろう。
驚いた少年は間一髪で詠唱を中断、横に跳んだ。
「くそっ、詠唱中に攻撃するなんて卑怯だぞっ」
「はん、接近を許すほうが悪いのよ!」
接近さえしてしまえばこっちのものだ。
魔法に頼っていて格闘のできない少年は詠唱の要らない初級の魔法のみで応戦する。
再び脚力を強化。
全力で周囲を移動し、攪乱する。
少年は戦いなれていないようで、ヴィオレを捉えることができない。
「どうしたのかしら?やっぱり初級魔法しか使えないのかしらねー!?」
「このっ、ちょこまかと!」
「そんなんじゃ何時までたっても当てられないわよ!」
「うるさいっ!」
「ほら、足元がお留守よ!」
「うわぁ!」
素早く足払い。
受け身をとれずに尻もちをつく少年のふとももに追撃のキックが突き刺さる。
悶絶し地面を転げまわる少年。
「うぎゃああああ!!くっそー!父ちゃんに言いつけてやるからなぁ!」
立ち上がった少年は捨て台詞を残し走り去っていった。
はー、あそこに蹴り入れられて走れるなんて大したものね。
でもあっけないわ。屋敷で手合わせしていた従者達のほうがよっぽど骨がある。
気が付けばやじ馬で人だかりが出来ていた。
人をかき分け、ギルドに戻る。
やれやれ。さっさと採集依頼受けてこよう。
翌日。
ギルドにいる人からの視線が突き刺さる。
不思議に思いながらも掲示板に目を通す。
なかなか良さそうなチーム募集の張り紙を見つけたので、募集をかけているチームに声を掛けた。
「あー、すまんなぁ。他を当たってくれ」
「今メンバーが揃ったところなんだ!ごめんな!」
また、声を掛けたら何も言わず足早に去っていく者もいた。
なんだろう、これ避けられてるよね……
私、何かしたかしら……?
近くを通りがかったウェイトレスに尋ねた。
「今日は皆の様子がおかしいけど何かあったのかしら?」
「え?今日ですか?とくには何も…あっ」
何かを思い出したようだ。
「そういえば今日、領主がギルドに怒鳴り込んできたんですよ~。なんでも、ヴィオレとかいう小娘と組んだチームはギルドに手をまわして報酬を半分にしてやる!って!すっごく怒ってましたね~」
聴いたところによると領主は決めたことは何が何でもやり通す上に、息子にべったりでとても甘やかしているらしい。
大方、昨日ちょっとわからせてやったあの少年の親が領主だったのだろう。
面倒なことになったものだ。
「あ、ありがとう。大体把握できたわ…」
「そうですか!それではごゆっくり~」
頭痛くなってきた。
これだから親バカは厄介なのだ。
この町で組めないなら別の所で組むしかない。
しかし町を出るならそれなりに金が必要になるだろう。
冒険者になった以上、家の力には頼りたくない。
今までの稼ぎから次の町へ行くまでの費用を計算する。
ギルドがある町まで馬車を使って一週間。
それで馬車の費用が今の稼ぎおおよそひと月分。
ひと月ずっと採取なんて耐えられない!
これどうしよう……
良い案が全く浮かばず、一人俯く。
すると、聞き覚えのある声が。
「あー、えっと、大丈夫…か?」
「あなたは……ショウタ!全力で逃げた癖に今更どのツラ下げて私のとこに来たの?」
「いや、それは謝るぜ。ちょっとお前に用事があったんだよ」
「なによ」
ぶっきらぼうに言う。
半額女の私とチームでも組んでくれるのかしら?
「俺たちのチームに入らないか?」