1話~ここはどこ?~
はて?ここはどこだろう。
俺こと鈴木ショウタは気づいたら大の字で横たわっていた。
昨日は確か気の済むまでポ〇拳で対戦し、明日に備えて寝たところではっきり覚えているが……
何か大事な事を忘れているような。
しかし、ここがどんな所で今がどんな状況にあるのか詳しく知る必要がある。
ところが俺はサバイバル知識が少ないし、どう対処していいかもわからない。
後ろには森の入り口がある。
なんだか不気味な感じだった。
とても入る気にはならないな……。
しょうがない、なにかに行き当たるまでまっすぐ行こう。
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歩くこと数時間。小さな川に行き当たった。水は透き通っていてとても綺麗だ。心なしか光を放っている気がするほどだ。
…飲めるかな?しばらく悩むが、この先水がある保証もなしでどこまで歩く羽目になるか分からない。
ここは飲んでおいたほうがいいだろう。おなか壊したら気合でなんとかするってことで。
川の水をすくってまずは一口。
ウマいっ!この数時間歩き続けて火照った体に数時間ぶりの冷たい水!しみ込んできやがる……体にっ!
ひとしきり飲み終わったころには心なしか体の疲労が取れているように感じた。
ふう…… 落ち着いたところで先に進むか。
少し歩いたところで。
ついつい周りの人が居ないのを確認し、そこらの棒切れを拾い上げて憧れのキャラクターの振り方を真似する。
ほら、小学生の時によくやった傘を剣に見立ててごっこ遊びするやつ。あれだよ。
伝説の紅いレプリロイドのように拾った棒をヒッフッハと振る。
ん?なんか違和感。
今度は振り方を変えて違和感を探す。
棒切れを振ると違和感の正体に気づくと同時に驚いた。
何故かわからないが、虹色に光っているようだ。
へ?なにこれ?
なんじゃこりゃ……よくわからんけど試しに近くにあった木へ殴りかかってみる。
フンッ!
ゴスッと棒切れが打ち付けられた次の瞬間、そこがはじけ飛び木の幹が抉れた。
自重を支えられなくなった木がめきめきとこちらへと倒れてくる。
「うわわわわ!!」
すんでのところで倒木を避け、呆然とする。
なんだこれえええ!?すげええええ!!
目覚めたの?俺の不思議なパワーがエクスプロージョンでレインボーなの?
もしかしてさっきの水を飲んだからか?
振り返ったが、川は見当たらなかった。
あれ?おかしいな。
辺りは視界を遮るものはなく、そこまで移動してないはずなのに。
少し鳥肌が立つ。
ま、まぁいいさ 異能に目覚めるってのは漫画やアニメの登場人物みたいで悪い気分ではない。
ひょっとしたら対象を爆裂させる以外にも使い道はあるのかもしれないな。
虹色だったし効果も多種多様だったら嬉しい。爆裂させるだけでも普通に嬉しいがね。
落ち着き次第研究してみたい。
その為にもどこか人がいる場所にたどり着かなければな。
しばらく進むと、また森が見えてきた。
ふーむ、森か。
さっきは能力があるとわからず、自衛はできないと森に入るのは考えていなかったがあれほど強力そうな力があるなら森に入っても大丈夫じゃないか?
なんたって爆発させられるんだし怖いものなしだ。
そして、俺は大自然の厳しさを痛感させられるのであった。
森には見たことのない生物がたくさん生息していた。
このことにより不安が広がってゆく。
ひょっとしたらここは日本ではないのではないか?
俺の知る動物図鑑や昆虫図鑑には載ってない生き物ばかりだ。
この時点で後悔し始めていた。なんたって、異国かもしれない可能性と、ひょっとしたら俺が想像もつかないような生物が襲い掛かってくるかもしれない……なんてことを考え始めていた。
そんな中であった。
どこかから、助けを求めるような弱々しい鳴き声が聞こえてきた。
無意識に声の主を探す。
しばらく探すと、小型のトラバサミに引っかかった銀色のキツネを発見した。
ほかの生物のような初見感はなかった。
お馴染みの動物を発見して嬉しいやら安心やらの感情がごちゃ混ぜになった俺は、思わずキツネに近寄る。
こちらに気づいたキツネは、威嚇するも無駄と悟っているのか一つ吠えるとこちらをじっと見つめてきた。
なんだろう。キツネの視線に覚えのある感覚。
家路についてる途中、偶然ルートが同じだっただけであれ?ひょっとしてこの人ストーカー?とか謂れもない疑いの眼差しを向けられた時のような感覚。
ふざけんな偶然お前が先に歩いてただけじゃねーか小走りすんな疑われちゃうでしょおおおお!?
じゃなかった。嫌な記憶は忘れよう。
誤魔化すため、キツネに向かって呟く。
「ウヘへへへ 今日の晩飯はキツネ鍋だぜ……なーんてな」
キツネは当然何も言わないが、視線は変わらずこちらに向いている。
よく見たら罠にかかっている足を怪我しているようだ。
さて、早く助けてやらないと。
直すことはできないが、外すことはできるはずだ。
ゲームでは無理矢理開いてたけどいけるかな?
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まぁ、結論から言えば外せた。
小型だからか、思い切り力を入れるとすぐに外すことができた。
外せたが予想外のことが起きた。
俺かキツネの血の匂いをかぎつけたのか、巨大な熊が現れたのだ。
ゆうに3メートルはあるだろう。
さらに全身の毛が赤く、鋭利な爪が木漏れ日を受けてキラリと光っている。
オイオイオイ、死ぬわ俺。
なんて以前は思っただろうが、今の俺は爆裂剣(仮)の使い手なのだ。
勝てない道理はない!……はず。
野生動物相手にするなんて馬鹿げてるだって?
馬鹿言え。3メートルは越えてるような巨大生物から走って逃げられるわけがない。ましてや森の中だ。
逃げられないならワンチャンに賭けて足掻く。
にらみ合いの中、先に動く。
先制攻撃だぜ!
「うらああああっ!!」
巨大熊の腕に、棒切れが叩きつけられる。
やった!当たった!爆殺してジ・エンドだ!
しかし虹色の光は爆発を起こすことなく、棒の先から熊の毛皮へと散ってしまった。
なんで!?マズい。やられる。死ぬ。
一瞬呆然としたが、嫌な予感が全身を突き抜け、とっさに後ろへ飛退く。
鼻先を爪が掠めると同時に凄まじい風が起こる。
これはダメかもしれんな。
まったく…知らないとこにいたと思ったら巨大熊と戦闘とか悪い夢としか思えない。
くそっ、どうすりゃいいんだよ!
棒切れじゃ受けることもできない。何か打てる手はないのか!
考えている間にも巨大熊は迫ってくる。
咄嗟に熊の爪攻撃を虹色に光らせた棒切れで受ける。
おっ、振らなくても光るのか。まぁどうでもいいか。
この熊は何故か爆破できないし、棒切れの耐久じゃプリンのように砕かれるだろう。
次の瞬間棒切れはバターのように切断された。だが、それと同時に爪を爆砕したのだ。
何とか助かったものの、衝撃で弾き飛ばされる。
なんでだ?しかし助かった。まだ片方は健在だが、少しでも危険は少ないほうがいい。
なぜかしらないが、爆発するようになったならまだチャンスはあるはず!
たたらを踏んでいる熊に、足元に落ちていた棒切れを拾って殴りかかる。
虹色に光った棒切れは熊の鼻先を捉え、再び爆発が起こり熊がのけぞった。
やっぱり爆発するようになっている!これはいけるぞ!
調子に乗り、すかさず爪がないほうに回り込みわき腹に渾身の一撃を叩き込む。
これで終わりだ!
クリーンヒットだ。クリーンヒットではあるのだが。
嫌な予感がした。
叩きつけられた棒切れは、またしても毛皮に虹色の光を散らしていた。
爆破しなければ棒切れの一撃はただの打撃であり、ましてただの打撃が大自然の毛皮を貫けるわけもなく。
呆然としていると巨大熊が暴れ、裏拳のような凶暴な一撃を腹に受けた。
「おごぉっ!!」
俺は岩盤に叩きつけられる王子のごとく吹き飛び、後方の樹木に背中を打ち付ける。
肺から押し出される空気と一緒に血を吐き出す。
ワンパンでこれか……
視界は霞み、体から力が抜けていく。
ブラックアウトしていく意識の中で突然二人組が俺の前に躍り出たのを感じた。
「お嬢様、行きますよ!援護します!」
「ええ、任せなさい。きついのぶち込んであげるわ!」
ふとキツネが傍でじっと俺の顔をのぞき込んでいたことに気づく。
ふん、せっかく助かったんだからせいぜい永く生きろよな。
せめて最期にもふもふしたかったな……
そこで俺の意識は途切れた。
初投稿です。
更新頻度は不定期になります。