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FROM 未来  作者: 日高遊苑
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ver.2:エピソード

俺の母親は亡くなっている。

……ずいぶんと前の出来事らしい。

俺は母親の顔を知らない。

……本人が生きているうちに、生まれてこれなかったから。


母親は、俺を産むために死んだ。





俺が生まれたのは、街中がひどく機械化した時代だった。

ある街でテロ事件が発生し、大混乱を起こした後の時代。

たくさんの国民が亡くなったし、爆発物を受けた被害者は酷い病を(わずら)ってしまった。

それは治す術の見つからない加害国原産のものっだったため、更に多くの人が死んでいった。

俺の母親はその街の住民で、もちろん例外ではなく、その病にかかってしまった。

そんな時だったから、国は警戒し、国の活性化をよく促していた。

でも環境汚染はますます悪化していく一方だし、いつ世界が終焉(おわり)を迎えるか分からない状態。

国民の間では公害が流行していた。


俺が物心つき始めた頃には、体中に生傷が増え続けていた。

母親が死んでしまって、それからのストレスが溜まりに溜まった父親の虐待だった。

俺は「虐待」なんて行為を理解していなかったし、そんな日常が当たり前とすら思っていた。

まだ園児にもなっていなかった俺は、居場所は近場の公園くらいしかなく、

ただ暴力と罵声と最低限度の生活だけを与えてくる父親と喋ることなんて一切なかった。

父親と「喋る」というのも、俺の常識の中には皆無だった。

周りの子供よりも言語の発達が遅れていたのはその所為(せい)なんだと思う。


俺といることを好まなかった父親は、俺を幼稚園ではなく保育園に通わせた。

保育士たちはそんな諸事情に気づいていたのか、よく話しかけてきてくれた。

家庭教育がなっていない俺のためにと、過保護しないようにしたり、

やってはいけないことをした時はきつく叱り、友達に親切に出来た時なんかは恥ずかしくなるくらい褒めてくれた。

友達とはそこそこ上手く付き合っていたし、そこそこ楽しくやっていた。

俺は子供ながらみんなの優しさに気づいていたし、それに応えたくて頑張っていた。


やがて小学校に入学する時期がきた。

俺は周りにいる親子たちを眺めながら違和感を感じていた。

同学年の子たちの隣には必ず両親がいるのに、自分の隣にはどちらもいない。

母親は亡くなっていると解っていたから納得できた。

でも、なんで父親はいないんだろう、家で酒を飲んでいるんだろう。

案の定教室に入るなり隣の席の女の子に「なんでお父さんもお母さんもいないの?」と尋ねられた。

 そんなの、俺が聞きたかった。

学年が上がるにつれ、そんな噂は方々に広がった。

俺は色んな友達の親から「可哀想に」「不憫な子」と言われた。

正面切って言われたこともあった。

俺は‘洒々落々な性格なキャラ’で通していたから、笑って受け流していた。

 惨めな気持ちだった。

俺は可哀想なんかじゃない。不憫な子なんかじゃない。

普通に育って普通に生活している子供。

そうやって考えて生きてきた、だから、勝手な偏見で哀れみの視線を浴びせられるのが辛かった。

泣きたくもなった。でもそんな場所はなかった。


中学校に入学して、すぐに思春期に入った。

物事に打ち込むのが苦手だったのもあって部活はやらなかった。

周りの男子たちに影響されて野球好きになった。

可愛い女子をからかったりもした。

勉強はしなくても割といい成績をとれたし、苦になるような出来事もなかった。

体育なんかは得意だった。

友達はたくさんいた。

大事な親友も出来た。

学校にいる間は無邪気に遊んでいられた。


中2のとき、街中を騒がせるニュースが流れた。

“あの病を治す薬が開発された”と。

俺は驚き、呆れて、その呆れを通り越して笑った。

『どれだけ待たせたと思ってんだよ。』

もう遅い。遅すぎた。

俺の母親はもう死んでいる。

もう助かりようなんてない。


父親もそのニュースを見た。

泣いていた。

大人げなく、泣き喚いていた。

声を上げて泣いていた。


父親が情けなく泣き喚くその姿を一部始終見ていた俺は、俺の中では、

もう何かが終わっていた。


高校に上がった頃には、もうどうでも良くなっていた。

母親がいないことも、父親が自分を疎ましく思っていることも。

別にもう俺は最初から放置されていたいたわけだし、何かが変わるわけでもなかった。


適度に仲間と遊びに行って、適度に悪ふざけして、警察の事情聴取を受けたこともあった。

あるときはカラオケボックスで、あるときはファミレスで、

あるときはコンビニで、あるときはファーストフード店でバイトをして金を貯めた。

バイトをしていれば、没頭していれば、今までの辛さなんて忘れられると思った。

実際、あっけなく忘れられた。

貯めた金は使い道が思いつかず、そのまま貯金をした。

 たまに、ほんの気まぐれで、母親の墓前に花を生けた。

そんな、他愛ない日々を送っていた。


そして高2になった俺に、今までの生活全てを狂わす出来事が起きた。




“過去にタイムスリップできる装置が出来たんだって”


噂によると、もうしばらくで普及できる装置らしく、

俺は貯めた金で、数ヶ月後にはそれを手にすることになった。

『これを使えば、母さんを救えるのかもしれない』

その一心だった。


それが手に入る日まで、街の炎上(テロ)が起きたあの日のことを詳しく調べることにした。

街の住民表を盗んだ。

深夜までネットカフェで隅々まで調べ上げた。

間違っているなんて承知の上での行動だった。


しばらくして、生き残った人物を把握でき始めた。

人口約650万人中、およそ120名しか生き残らなかったらしい。

改めてその数字を見ると恐ろしい。

プリントアウトした表を眺めていると、その中に、生年月日が俺と同じ子がいた。

表全体を見てもその子以外同じ誕生日の同学年がいなかった。

だから、なんだか親近感を感じていた。

『藍崎…陽友?……珍しい名前』





数ヶ月後、俺はタイムスリップすることとなる。

その先に何があるなんて知る由もないし、構いもしなかった。

ただ自分が、自分の所為(せい)で失った人、死ぬべきではない人が救えたなら。

そんな希望だけを持って、前を見つめられたのなら。


そんな偽善心ともとれる気持ちで、俺は“カコ”に戻った。

よく分からない表現がありましたらご報告をよろしくお願いします。

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