ver.0:to past
『こんにちは。
君は未来を信じますか?
信じないなら、削除してくださって構いません。
信じるなら、このままこのアドレスへ返信してください。』
見ていたくなかった。
今まで見てきた純粋で楽しかった世界が、終わっていく。
色鮮やかに輝いていた街も、川も、みんな暗い闇へと変貌した。
なんでこんなことになったんだろう。
私がなにをしてしまったんだろう。
大事にしてきたものが全部、全部、全部消えていく。
「……なんで、こんな………」
街が朱色の光に飲み込まれていく。
次々とビルやら家々が炎上していく。
見渡す限りの炎が視界を遮ろうとしている。
「や…………っ」
身が覚めると煙がそこら中に広がっていて、喉がピリピリする。
みんな灰色だ。灰色の世界だ。
ここは、どこなんだろう。
「……そっか…。みんな、燃えちゃったんだね……」
ここは私の街なんだ。あの、ずっと大事にしてきた、私の大好きな街。
周りにはか細くすすり泣く声や、誰かを必死で捜す呼び声。
お互い助かって手を握り合う恋人や、見えない両親の姿を求める子供たち。
どんな状況であれ運が良いとは言えない。
人肉を焼いたような刺激臭が漂ってくる。
『きっとたくさんの人たちが亡くなったんだろうな。』
家族や友達を捜さなきゃならない時なんだろうけど、そんな気すら起きない。
なんだか、とてつもない絶望感で体が構成されている、そんな気分になっていた。
「お母さん、お父さん……お姉ちゃん…おばあちゃん…」
小さな男の子が泣きじゃくりながら通り過ぎていく。
周りには彼を気遣えるような立場の人はいない。
私も例外じゃなく、ただただ、その悲惨な光景を目の当たりにしていた。
男の子はやがて泣き疲れたのか、その場で膝を抱いて座り込んだ。
『みんな、窮地に追い込まれたらそれどころじゃないもんね……』
自分でも怖いほど私はひどく落ち着いていた。
無造作にポケットに押し込まれているケータイを手にとる。
本体は無事でも、ネット会社が繋がらないのだから使うことなんて出来ない。
それでも開き、待ち受け画面を見つめた。
「はは、ばかみたい」
これ以上ないほど酷い顔で撮った友達との写真を見て、そんなノリじゃないのに笑えてくる。
こんなことになるなんて微塵にも思ってなかったもんな。
ノストラダムスの大予言が数年外れて当たったとでも言うのだろうか。
バカで脳天気だった私たちには、もう何の関係もない話だけれど。
今頃みんなはどうなっているんだろう。
死んでしまってる?それとも生き延びて、誰かを捜して彷徨っている?
お母さんは。お父さんは。お兄ちゃんに妹たちは。
学校のみんなはどうなったんだろう。ペットたちはみんな逃げれたのかな。
みんな無事なのかな。
でも、結局のところ、そんなの全部知ったことじゃないんだ。
だって、今誰も側にいないんだから。
声も届かないんだから。
こんなに不安でいっぱいなのに。
もう、いっそ、自殺でもしてしまおうか。
ふとそんな考えが脳裏をよぎった。
こんな状況下なら止める人もいない。方法だってきっとたくさんある。
格子戸の欠片でも拾って……
なんて愚かで浅はかな考えだろうとも思う。
それでも、だった。
『一緒にいてくれる人もいないのに、なんで生き続けなくちゃいけないの………?』
私は混乱に陥りそうになるのを堪えて、立ち上がる。
まさにその、立ち上がった瞬間だった。
“ブ〜ッ ブ〜ッ”
ケータイのバイブ音が聞こえた。
「なによ……こんな時に」
ケータイを開き、画面を見つめる。
“メール受信中”
「メール受信中……って…」
まだ繋がるんだ。
心なしか少し安心感が沸いて、周りを見渡す。
「あ…れ、………え…?」
おかしい。
街の建物は、あらかた崩壊してしまっている。
もちろん会社のビルが生きているなんてあり得ない有様だ。
繋がるはずなんてない。
「じゃあ、なんで繋がってるの……!?」
“メール受信しました 受信数:1件”
おそるおそる確定キーを押す。
受信ボックスに入ったメールの件名を見て、思わず眉間にシワを寄せてしまう。
「なにこれ、“ダウンロード選択”って」
こんな時にこんな怪奇現象が起きて、挙げ句の果てに迷惑メールなんて。
メールを開く。
“発信源:原則として秘めさせていただきます。
このメールは「ミライ」から「カコ」へ宛てられたものです。
こんにちは。
君は未来を信じますか?
信じないなら、削除してくださって構いません。
信じるなら、こののままこのアドレスへ返信してください。
今から出逢いに行くから。
早まらないで待ってて。
梶浦晴也”
それが始まりだった。
読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
独自の発想(妄想?)で書いてるのですが、
これからもできるだけ多くの方に読み、楽しんで頂けたら嬉しいなと思っています。