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白蛇と祖母

作者:草月光
よろしくお願いします。
視界には美しい青空が広がっている。
そこを白い雲がまるで水面を渡る船のように流れていく。
真上からはこれまた白い太陽が光線をジリジリと浴びせてくる。
そこら中の山々ではアブラゼミの大合唱がこれでもかと響き渡っている。
今日みたいな日を真夏日と呼ぶのだろう。

確かにじっとりと汗をかくほどに暑かったが、不思議と嫌ではなかった。
そんないい場所ではあるのだけれども、俺は田舎出身者特有の問題に直面していた。
実家に帰省したはいいけど、何もすることがないのだ。

「はぁ、暇すぎる......」

俺は自分が生まれ育った古民家の縁側でアイスクリームを食べながらつぶやいた。
その声を聞いてくれる相手はいないけど。

今年、大学3年になった俺は就活が始まる前に帰省しておこうと思い立った。
それでなんの気もなしに3連休を利用して実家に帰ってきていたのだ。
といっても連休最終日の明日には一人暮らしのアパートに戻らないといけないのだけど。

俺の実家はものすごい田舎にあって電車も通っていないところにある。
俺は、自然に囲まれたこの地域が好きだったが、俺の友人たちはよく不便だと愚痴をこぼしていた。
加えて妙な時期に帰省したこともあって、案の定俺の友人たちはまったく帰省していなかった。
家族も俺が目を覚ましたときには既に仕事に行ってしまったようだった。

「みんな忙しいんだな」

俺の家族は両親、姉、祖父そして俺の5人家族だ。
両親は俺を大学に通わせるために共働きだし、姉は都会暮らし、祖父も日雇いの仕事をしている。
つまりこの家には、現在俺独りというわけだ。
しかもこの家は集落から少し離れた山の麓にあるため、出かけるには少し億劫な場所にある。

こんなことなら溜まっている大学の課題でも持って来れば良かったと後悔し始めた。
そう思ったのとアイスクリームを完食したのはほぼ同時だった。
ついにアイスクリームを食べるという動作すらもすることがなくなった俺は、ぼーっと庭を眺める。
そうして俺は物思いにふけっていた......。


実は俺には普通の人よりも幼い頃のことを覚えているという能力があったりする。
そんな俺の記憶の中でも最も古いであろう不思議な体験の記憶がある。

それは、俺が3歳の夏の昼下がり、俺は祖母と2人で実家の庭にいたときのこと。
そう、あの日はちょうど今日みたいな真夏日だった。
当時から俺の両親は共働きで、祖父もその頃はまだ現役で働いていた。
姉は友達のところへ遊びにいっていたのか、その日家には俺と祖母の2人きりだった。
祖母は鎌で庭の草刈り、俺は小石を積み上げるだとか、蟻の巣を観察するだとかしていた。
言葉の発達が遅かった俺はそんな遊びが好きな子供で、いつも1人で遊んでいた。

そんないつも通りの時間の流れの中、そのときは何の前触れもなくやってきた。
我が家自慢の縁側の下にそれはいた。
第一印象は白、つづいて赤。
真っ白な体で真っ赤な目の蛇が突然俺の前に現れたのだ。
大きさは標準的な蛇のそれではあったけれど、後にも先にも見たことがないほど立派な蛇だった。
真夏の日差しがその真っ白な体に反射してより一層、神々しさとか神秘的な印象を俺に抱かせた。
その白蛇は逃げるわけでもなく、襲ってくるわけでもなくその赤い目でじっと俺を見つめていた。
その異様な光景に俺は言葉を失っていた。
「ぁ、あ......」
声を絞り出して俺が白蛇に語りかけようとした、まさにその瞬間だった。


ズサッ!


草刈り鎌が俺の目の前で白蛇の脳天をカチ割っていた。
そう、祖母が白蛇を殺してしまったのだ!
祖母はそのまま何も言わずに白蛇の亡骸を用水路に捨てると無言のまま草刈りを再開していた。

俺はこわかった。
得体の知れない白蛇が、その未知の存在を無言で殺してしまうような祖母が。
よくよく考えてみると俺には祖母と会話したという記憶がない。
俺は祖母が放つ雰囲気から彼女を恐れ、無意識に避けていたのかもしれない。


その数日後、異変はすぐに起こった。
黒かったはずの祖母の髪がたった数日で真っ白になった。
あの白蛇のように真っ白に。
日に日に祖母が弱っていくのがわかった。
俺は確信していた。
あの白蛇が怒っているに違いない、と。
だけど、幼かった俺に何かができるはずもなかった。
次は自分の番なのではないかと毎日震えて過ごしていた。

ただ、不思議なことに記憶の中で俺の家族は祖母を気にかける様子がなかった。
祖母が弱っているというのは誰の目から見ても明らかなはずだったのに。
その違和感の正体が明らかになるのはそれから数年後になる。

時間が経つにつれて、疑問が増していった。
なぜ白蛇はあのとき俺の前に現れたのか。なぜ祖母は白蛇を殺したのか。
俺がそう思ったとき、既に祖母に直接聞くことは叶わなかった。

なぜなら、彼女はもういなかったからだ。

彼女が白蛇を殺してから数年後、俺がようやく人並みに言葉を話せるようになった頃。
彼女は完全に消えてしまっていた。
そう、消えてしまったんだ。
さすがにまだ幼なかった俺でもおかしいと思った。
普通の人間だったら日を追うごとに姿が薄くなったりしないのだから。

そのときこそ、それまで俺が祖母に感じていた違和感、その正体が明らかになった瞬間だった。
消えた老婆のことを祖父に尋ねたことによって驚愕の事実が判明した。
そんな女性はこの家には住んでいなかったという事実が。
俺の本当の祖母は俺が生まれるずっと前に亡くなっていたそうだ。
話を聞く限り祖母の容姿や性格もあの老婆とは全く違っていた。
俺はその話を聞いた瞬間思わず寒気がした。

俺は、俺にしか見えていなかった老婆をずっと祖母だと思っていたのか!?

言葉も話せないような幼い子供だったのだから無理もないけど、もっと早く気づきたかった。
ならば、あの老婆は一体何者だったのだろう?
俺は直感だけど、彼女はこの家に取り憑いていたのだと、そう感じた。
その目的は未だに謎に包まれているけど、おそらくこの家に災厄をもたらす存在だろう。
俺が無意識に感じ取っていた雰囲気から察するに決して善い存在ではなかっただろうし。

これはもっと後から知った話だけど俺の地元には白蛇は家の守り神だという伝説があるらしい。
その白蛇様を殺した時点で老婆がこの家に対して悪意のある存在であることは明らかだった。

他にも思い当たる節はいくつも出てきた。
なんでもっと早く気付けなかったのだろう。
あの老婆が、いつも庭で刈っていたのは雑草なんかじゃなかった。
母が趣味のガーデニングで植えていた花だったということに!
あのまま放っておけば、俺と家族はその命までもが危険だったのかもしれない......。

今でもあの老婆の姿は鮮明に思い出せる。
どこか不穏な雰囲気を醸し出した黒い服を着た老婆の姿。
ただ......何度思い出そうとしてもその顔だけは絶対に思い出すことができない。
まるで顔にぽっかりと真っ黒い穴が空いているように......。

なぜ俺はこんな恐ろしい存在に違和感を感じるだけだったのだろう!
今になって考えれば俺はあの老婆に何か不思議な力で惑わされていたに違いなかった。

でもその老婆はもういない。
なぜなら、あの白蛇様が消しさってくれたから。
きっとあの白蛇様は、あの老婆の姿をした邪悪な存在からこの家を守ってくれたのだろう。
ただ、白蛇様もあの老婆の鎌で殺されてしまったのもまた事実。
俺はそのことが残念でならない。


ふっと、俺は現実に引き戻された。
いつの間にかアブラゼミから代わっていたヒグラシの鳴き声と、真っ赤な夕焼けの眩しさによって。
今回もまた随分長い間考え込んでしまっていた。
俺はときたま、今みたいにあの出来事のことを考え込んでしまう癖があるようだ。

家族はまだ誰も帰って来ていないが、さすがにそろそろ帰って来る頃だろう。
確か今晩のおかずは俺の好物づくしにすると母が言っていた気がする。
明日は朝早くに出発する予定だから、これが今回の帰省で食べる最後の食事となりそうだ。

俺は今回帰省して良かったと思っている。
実家の飯は相変わらず美味いし、家族の元気な姿も確認できたし。
何より白蛇様と出会えたこの場所でのんびりできたのだから。

明後日からまた忙しい日々が始まる。
実質、明日からいつも通りの生活に戻ることになるだろう。
さてと、明日慌てなくて済むように、今のうちに荷物をまとめておくか。
そう思って俺は縁側から立ち上がった。

「よっしゃ、頑張るぞぉ!」

俺は誰も聞いていないのをいいことに、就活に向けてモチベーションを上げる。



その瞬間、庭の隅、視界の端で何か長くて白いモノが動いた、そんな気がした。
本当はもっと怖い話を書くはずだったのに。

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