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第7話 満点の星空と蒼い月の下で強く生きたい

ブックマークして頂いている方々、このシリーズを読んでいただいている方々。

目を通して頂いてありがとうございます!

未だに奴隷ハーレム要素が一切出ていませんが楽しんでいただけていれば幸いです(汗

「――カハッ……!」 


 ギルドの地下室で『ランダムワープスクロール』を使用した俺は、まるで見えない何か体が掬い上げられ、浮かび上がる様な感覚と共に視界が眩い程の緑色の輝きに覆われた。そして次の瞬間突如として浮遊感が消失し、落下する様に背中から硬いものに叩き付けられた。


 痛ってぇ……。

 背中に衝撃を受けて一瞬息が出来なくなった。

 必死に息を整えながら目を開けると……、

 

(すげ)ぇ……」


 思わずそんな言葉が口から漏れた。

 仰向けに倒れている状態のまま上を見上げた俺の目に飛び込んだのは夜空を埋め尽くさんばかりに星が(きらめ)く満点の星空だった。そしてその中心には蒼い月が輝いている、見事な満月だ。

 ギルドに入る直前にはまだ外が明るかったがギルド内部にいる間にそれなりの時間が経過していた様だ。

 思わず夜空に見とれそうになるが、冷たい夜風が頬に当たり、自分の置かれていた状況を思い出した。背中から鈍い痛みを感じつつ起き上がろうとするが、腕の自由が利かない。


 くそっ、手枷はそのままか……。

 あわよくば手枷だけその場に残してワープしてくれないかと思ったんだけどなぁ。


 そこまで甘くはないか。そう思いながら体を横向きに倒し地面に手をついて体を起こし、手のひらに少し湿った土の感触を感じつつ立ち上がった。

 

 周囲を見回す。

 日は完全に沈み、夜の帳が下りているが月の光が辺り一帯を照らし出しており完全な闇では無い。むしろ夜でも影が立つ程に明るい。

 自分のいる場所はやや小高い丘の様だ、今居る場所から周辺を見渡すことが出来る。丘の周りは平地だが背の高い草は見当たらない。せいぜい芝生程度だろうか?そして丘の周囲には月の光を反射し夜闇に光る物が一定の間隔を空け、列を成して並んでいた。それは自身のいる丘にまで続いている。


 俺は目の前にあるソレを間近で確認し、正体に気付いた。

 

 墓だ。

 日本にある様な形の物ではない。

 十字架を象った物や四角い物、形は様々だが間違いない。

 石製に見えるがどれも磨きこまれているのか月明かりを受けて鈍く光っている。

 此処は恐らく集合墓地の様な場所なのだろう。

 「死霊術士」の俺には此処がお似合いだとでも言いたいのだろうか?

 ホームグラウンドに転送してくれるとは皮肉が効いてるじゃないか……。

 心の中で悪態をつきながら足元に落ちているスクロールを見やる。


_____________________________

『使用済みランダムワープスクロール』

 使用すると一度だけ発動場所を中心に一定範囲内の

「ワープ後に使用者が生命活動を維持可能な場所」へランダムで転送する。

 消耗品では無いが再使用するにはMPを消費しての魔力充填が必要。

 PTで使用することでPTメンバー全員に効果を及ぼすことも可能。

 上位の魔法職が使用することで大量のMP消費と引き換えに「ワープスクロール」として使用可能。

_____________________________

 

 名前に少し愉快な文言が増えていた。

 使用済みって……他に書き様もあるだろうに……。

 俺の様な健全な男の子(29)なら少し含み(・・)を感じてしまう響きだ。


 まぁ……、コレのおかげで脱出する事が出来たんだけどね。


 そんな事を考えながら腰を落として屈み、スクロールに手のひらを当てる。

 しかし今回はスクロールを使うのでは無い。

 気になっていたのだが俺のインベントリはアイテムを出し入れ(・・・・)出来るのだろうか? 今までインベントリから取り出す事はしても逆に入れる事はしてなかった。なので試してみる事にした。

 目を瞑り、手のひらに意識を集中させインベントリを思い浮かべる。そして手に触れている物が消えインベントリに増える。そんなイメージを想像する。

 ……すると手に触れていた紙の感触が消え、土に触れる感触に変わった。目を開いて確認すると手元にあったスクロールは消え、インベントリには『使用済みランダムワープスクロール』が格納されていた。成功だ。入れる事も出来た。

 もしガチャで引いたアイテム以外も格納出来るのであればこれから色々と応用が利くかもしれない。これに関してはまだまだ試さなければならない事だらけだが。



 さて、これからどうするか。


 スクロールの回収を終え、立ち上がりながら考える。

 丘の上から遠方を見渡してみると、周囲は平野の様だが丁度自分が向いていた方角の先に光が見えた。月明かりが反射した様な光ではなく夜闇を下から灯りが照らし出している。そう見える様なものだった。明らかに自然のものでは無い。

 恐らく人が集まっている街か村でもあるのでは無いだろうか?

 自前の知識では断定出来ないが今向かえる場所は限られている。

 あそこを目指そう。夜の平野や墓場をアテも無く彷徨う理由なんて無い。


「でもまずはコレ(・・)、どうにかしたいよなぁ……」


 手枷を忌々しげに見つめながら呟いた。そのとき……。


 カシャ……、カシャ……と乾いた何かが擦れ合う様な音が耳に届いた。


 ん……?


 自分の周囲を見渡す……迄もなかった。


 人型の影が正面からこちらに向かいゆっくりと歩いてきていた。

 ゆっくり、しかし一歩ずつ確実に近づいてくる。

 その人影のようなモノは人にしては妙に細い……。

 いや、もはやそういうレベルでは無い。まるで棒切れだ。

 ソレは近づくにつれて月明かりに照らし出され、姿が露わになっていく。

 腕も脚も、そして胴体さえも棒で組み上げた様なナリをしていた。

 その姿はまるで骨の様だ。


 ……いや、骨そのものだった。

 

「オォ……オ……ォ」


 スケルトン:Lv8


 ステータス表示が可能な距離になりソレを視認する。

 当然なのかもしれないがモンスター相手でも機能するようだ。

 HP・MP(?)バーもきっちり表示されている。


 名前はスケルトン。どこからどう見てもスケルトン、骨だ。

 夜の墓場だからって気を利かせすぎだろ……。

 そう思いながらも状況の把握に努める。


 相手の動きは遅い、手枷の嵌められている俺でも十分逃れられそうな速度だ。

 しかし油断は出来ない。

 俺のレベルは1、アイツは8。

 そして俺は知性以外のステータスALL1の虚弱紙装甲だ。

 ペラッペラなんてもんじゃない、触られただけでも儚く散るかもしれない。

 

 逃げるか?

 いやまだ距離はある。この機会にアレを試しておこう。

 今の俺に使える数少ないの攻撃手段の一つ……。

_____________________________

 【ボーンランス】 

 鋭く尖った肋骨を召喚し相手に撃ち出し貫く。

 周囲に死体・支配下のアンデッドが存在していれば追加詠唱を行うことでそれらからも発生させることが出来る。

_____________________________

 

「折角来てくれたんだ、持て成さないとな……」


 それらしい台詞を吐きつつ手枷を嵌められた両腕を前に突き出し手を開く。

 そして手に意識を集中させ、頭に使うスキルを思い浮かべる。

 魔法は手から撃ちだすイメージ。そして心の中と口で同時に唱えた――、

 

「行くぞッ! ボーンランスッ!」


 インベントリを使ったときに微かに感じる感覚(・・)と似たようなモノを感じた。

 間違いない、スキルを使用した。そんな確信があった。


 が……、


「……ォォオ……オォ……」


 スケルトンは健在だった。

 HPバーもMP(?)バーも減っていない。


 当然だ。何も起こら(・・・・・)なかったのだから(・・・・・・・・)


「ッ……! ボーンランス!!」

 

 何も起こらない。

 何でだ? 詠唱か何か必要なのか?

 スキルの説明には書いてなかったが……。


「亡者の槍よ……我が敵を貫け! ボーンランスッ!」


 人前で口に出すと思わず赤面してしまいそうな詠唱を即興で作り、唱える。

 こういうのを考えるのは大好きだ。

 しかし骨以外誰も居ないと分かっていても恥ずかしい。

 これも慣れるのだろうか……。

 して結果は……?

  

「オ……ォ……オ……」


 駄目だ……、何も出ない。その気配すら感じない。

 スケルトンは無傷だ。


 何で……!?


 近づいてくるスケルトンを意識しながら自身のHP・MPを確認する。

 最大値から一切減っていない。満タンだ。

 まさか発動に必要なMPが足りないのか?

 Lv1で最初に覚えるスキルなのに? そんな馬鹿な。

 いや、俺のMNDは1だ。否定は出来ない。


「オオォォ……ォ」


 スケルトンは尚も前進してくる。

 最早接触まで後ほんの数歩という距離だ。


 ――どうする?

 残された手は……逃げ出すか、『理力の剣』……か。

 コレは正直な所、今使いたくは無い武器だ。

 ハッキリ言って剣の扱いに自信なんて無い。

 元の世界でも武道には縁が無かった。

 MMORPGで大剣、FPSでナイフを使う時はあったけど……。

 此処でそれはあまり参考にならない。

 俺が接近戦をするリスクは高い。しかも手枷で腕が固定されている。


 だが相手は一匹だ、動きも速くは無い。

 上手く立ち回れば触れられずに倒せるかもしれない。

 そして倒せればおそらくレベルも上がり今後に繋がるだろう。

 ……やってみるか。

 少し相手をして見て分が悪そうなら逃げよう。

 俺はインベントリから『理力の剣』を選択し――、


「オオオ……ォオォ……オ」

「「ォォオ……ォ……」」

「「オォ……ォオ……」」

「「ォォォオ……オォ」」


 ぞわり……と嫌な汗が噴き出した。


 正面からだけでは無い、自分の周囲からも聞こえる。

 風に乗って乾いた音も聞こえてくる。

 一匹じゃない……複数だ。それも――、


 周りを見渡すと墓石の合間を縫うように大量のスケルトンらしき影がこちらに向かって来ていた。自身の周囲、数メートル先にもさっきから相対してる個体以外のスケルトンの姿が複数見える。


 ――大群だ。十や二十では済まない。

 その倍に届きそうな程の数が蠢いていた。

 もはや選択肢は一つ。


「……逃げよう」


 それ以外の選択肢なんてある訳がない。

 俺はさっき人が居るであろう灯りが見えた方角へ全力で逃げ出した。

 手枷のせいで全力疾走出来ない上に走りづらい。

 しかし絶対に転ぶ訳にはいかない。

 バランスを崩して転倒すればそれだけで命の危機に陥るかもしれない。

 こんな状況になるまで周りに気付けなかった自分に対して怒りを通り越して呆れる。しかし今は現状に対しての恐怖の方が遥かに勝っている。

 ヤバイ、この状況は非常にヤバイ。

 個々の動きこそ緩慢だが数が多い。いや、多すぎる。

 最短ルートを選んでいるつもりだが進路を防がれて若干迂回することが増えてきた。スケルトンと墓石の合間を縫って慎重に走っているが徐々に逃げ道が狭まる。


 そして――、



「ハァ……ハァ……」


 

 ――遂に逃げ道は無くなった。


 スケルトンの数が少ない場所に目星を付けて走っていたが、前方に在ったやや大きな墓石の影から不意に複数体のスケルトンが現れたのに驚いて足を止めてしまった。すぐに別方向へ抜けようとしたがその時には既に他の退路は無くなっていた(・・・・・・・)


「くっそ……、数の暴力過ぎるだろ……」


 近くの墓標に背中からもたれ掛かり、ゼェゼェと息を切らしながら周りを見る。


 骨、骨、骨、骨、骨、骨。


 墓標の間を所狭しと詰めながら大量の人骨がゆっくりと進んでくる。

 のっそりとした動きだが、着実にこちらへと迫る。

 上空から見れば自分は無数の蟻にたかられる飴玉の様に見えるのかもしれない。

 それほど長時間では無いがスケルトンが殺到する墓地の中を必死に走り回った為、喉はからからに渇き、足は震えが止まらない。頭もぼんやりとしてきた。

 両脚から力が抜け落ちズルズルと背中を墓石に擦りながら座り込む。


 もう……疲れた……。


 頭上を見上げ思い返す。夜空には相変わらず無数の星々が瞬いている。

 まだこちらに来て丸一日経っていないハズなのに色々なことがあった。

 いや……、あり過ぎた。そんな気すらしてくる。

 良い事もあったが悪い事もあった。むしろ後者の方が数は多い気がする、なんせ現在進行形だ。それでも俺の中では良かった出来事の方がずっと輝いている。そう断言出来る。短い時間だったがその内容は鮮烈で濃かった。事なかれ主義だった俺がまさか「自分の力で何かを掴み取る」そんな覚悟をする日が来ようとは異世界(こっち)に来る前は夢にも思わなかった。


 

 カシャ、カシャ……とスケルトンたちの出す音が段々ハッキリと聞こえてくる。

 それも単体ではない。幾つもの音が重なり、さながら軍隊の行進の様だ。

 

 ああ……結局何も出来なかったな……。


 自分なりに考えて答えを出して、覚悟を決めたハズだったのになぁ。

 どうすればもっと好い結果を出せたのだろうか?

 頭の中で考えてみても誰も答えてはくれない……。

 見上げていた星空が歪み、不意に頬を熱い何かが伝う。

 ――自分でも気づかない内に涙が溢れていた。



 乾いた足音が近い。

 もう、すぐ目の前にスケルトン達が居る。

 顔は上に向けているが視界の端に幾つもの人骨が揺れている。

 

 このままこんな所で死にたくない。

 ただ諦めるのも格好が付かない。

 せめて……最後に暴れてやろう。


 そんな考えが頭をよぎるが、近くで鳴り続けていた足音が一斉に止まり、上を向いている俺の視界にスケルトンの顔が映った。


 ――思わず息を呑む。

 もう何かを始めるには遅い。手遅れだ。

 歯を食いしばり、そう考える自分自身に鞭打つも気力が伴わない。


 恐怖も、怒りも、後悔も俺の中から通り過ぎた。

 そしてもうすぐ全てが終わるときが来る。


 俺を取り囲む様に大量のスケルトン達が並んでいる。


 人骨だ。

 肉の全く無い、人の成れの果て。

 眼があったハズの場所はぽっかりと黒い穴になっている。

 だがそこからは視線を感じる。

 その真っ黒な穴の奥からナニカ(・・・)が俺を覗いている。

 表情なんて無い筈なのにコイツ等は笑っている。そんな気がする。


 時折顎骨が動きカラカラと音が鳴る。

 その音は周囲のスケルトン達からも鳴り響き、重なり合いながら耳まで届く。

 俺にはソレがまるで笑い声の様に聞こえた……。


 俺は満点の星空と蒼い月を見つめながら目を瞑り、その時(・・・)が来るのを待った――。

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