第4話 自分の現状を把握したけど強く生きたい
今回は前回のラスト、アレフとミーアの会話の少し前から始まります。
結果的に俺はアレフが差し伸べてくれた手を振り払う様な事を言ってしまった。
俺の言葉を聞いた時、アレフは最初少し驚いたような表情をしたがすぐに笑顔を浮かべ――、
「そうか! 兄ちゃんが自分でそう決めたのならそうするのがきっと一番だな! 試すような事言って悪かった、すまん。オレも少しお節介が過ぎちまったかもしれないな……」
――そう言いながら席を立ち、二人分の食事代を先に払ってくれた。
そして席に戻る時、通り際にトンッと俺の肩を軽く叩き「頑張れよ」と一言だけ呟いたのだが……その時の笑顔は、なんだか少し寂しそうな顔にも見えた。
その後、冒険者ギルドの場所、そして登録料は不要だということを教えて貰い、俺はアレフに礼を言い食堂を出ることにした。店内は相変わらずの盛況振りだったが俺とアレフが入って来た時よりはやや人が少ないように感じる。
出口近くで振り向くとアレフがこちらを見ながら軽く掌を挙げ、その隣でミーアも微笑みながら手を振ってくれていたので、俺はその場から二人に軽く一礼し店を出た。
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食堂の扉を出ると大通りは馬車と多くの人々が行き交っていた。
まだまだ日が高い時間帯なので日差しと人の熱気で室内に比べてやや暑い。
教えてもらった目印を探しながら冒険者ギルドに向け大通りを歩く。
道の両端には露天がずらりと並び肉や果物等の食料品を中心に衣服、毛皮等様々な物が売っている。交易路の中間地点という土地柄、品揃えはかなり豊富なようだ。
すれ違う人々はミーアの様な獣人や普通の人間が殆どだが中には"角が生えた人"や"完全に顔が獣の獣人"など多種多様な種族が居て、見ているだけでも飽きない。
お、アレかな?
丸い硬貨の様な紋章に斜め向きの剣を重ねたマークの旗が揺れる建物を見つけた。おそらく目的の場所だ。
しかしまだ入らない。何事もまずは下準備はからだ。
逸る気持ちを抑えながら近くの空いてるベンチに腰掛け、意識を自身に集中させる。
最初に"コレ"を確認した時は自分の姿を見て動揺して余裕がなかったけど……。
名前:未設定 職業:未設定 性別:男 種族:人族
名前と職業が未設定か……。
名前はともかく職業はステータスと相談だな。
更に意識を集中させ自身のステータスを表示し――、
「うえ!?」
――そして驚愕した。
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ステータス
VIT 1
INT 100
STR 1
DEF 1
MND 1
AGI 1
LUC 1
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ピーキーってレベルじゃねーぞ!
どうしてこうなった……いや、身に覚えがある。
確か飛ばされる直前に特化型のステータスを考えていてINT極振りにした後に残りのポイント配分を考えていたんだった……。
しかし余っていた筈の振り分けポイントはドコにいったのか。影も形もない。
れ、冷静に……、冷静に考えろ俺。
INT(知性)100はまぁいい。尖った性能は強力な武器になり得る。
STR(筋力)は職業次第で1でも問題無いかもしれない。
他のステータスにも言いたい事はあるが百歩譲って目を瞑るとして……MND(精神力)が1なのは今の俺には致命的な気がする。
このステータスが一般的なゲーム基準なら恐らくMPに影響するハズ。
INTがどれだけ高くて高威力の魔法が撃てても一発でガス欠ってのは普通だと話にならない。というか下手したらそんな強力な魔法を使用すら出来ないかもしれない。
魔法を唱えて「しかしMPが足りなかった」が許されるのは雑魚敵かマスコットキャラだけだ。
興奮と焦燥でやや過呼吸気味になりつつも一度ステータス欄を閉じ、呼吸を整える。――よし少し落ち着いた、未だに頭は痛いが。
落ち着け。
まだ焦る様な時間じゃない。
このステータスを活かす職業に就けばまだ日の目を見れるかもしれない。
あれだけの数の職業があったんだ適材適所のハズだ。
せめて何か一芸があれば……!
そして再び自分に意識を集中させ未設定になっている職業の欄を開く。
『職業:未設定』
意識を向けて職業変更の操作をイメージするが……、
『職業:未設定』
……?
さらに集中する。
『職業:未設定』(変更可能な職業がありません)
不穏な文章が増えた。
その後何度も試したが表示される結果は変わらなかった。
冗談だろ……、もしかして職業を設定しないまま飛ばされたからか?
それともステータスが低すぎて要求ステータスを満たせてないのだろうか。
参った。思いのほか状況が芳しくない。
流石に職業無しで冒険者ギルドに登録には行きたくない。
いや、登録できるのかそもそも。
どうして「あの時」迄にステータスと職業を決めなかったのか。
取り返しの付かない後悔が押し寄せてくる。
……悶々と考えていると。
ふと大事な事を思い出した。
そういえばガチャの景品ってどうなってるんだ?
頭の中でコンソール画面の様な物を思い浮かべ操作可能な部分を探していく……。
ゲームのインベントリを画面をイメージして探していると。
ゲームで慣れ親しんだ形式のインベントリ画面が頭の中に浮かんできた。
あった……!
アイテムのイメージが次々と頭に流れ込む。その数は合計十個。
うん、間違いない。全部ある。
そしてお目当てのモノに意識を集中させる。
『武神の極意』『死霊術の理』
職業変更不可っていうデメリットがあるけど今の俺にはこのニつが最後の希望だ。そして今の俺のステータスで物理職や前衛は間違いなく自殺行為だ。
つまりは消去法で……『死霊術の理』か。
背に腹は変えられない。覚悟を決めよう。
インベントリからアイテムを選び、取り出すイメージで右手に意識を集中させる。すると手のひらに何かが集まる様な感覚があり、不意に重量を感じたので確認してみると――昼間だと言うのに光を反射せず、その部分だけまるで夜になったかの様にも見える――黒い球体が握られていた。
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『死霊術の理』
死霊術の全てを封じ込めた暗く冷たい水晶玉。死霊術を極めた者は闇に堕ちたモノ総てから寵愛を受ける。ソレは無償かつ献身に捧げられるだろう。極めるとはそういうことである。(死霊術に関係する職業の習得条件を全て開放することができる。しかし転職・スキル使用には本来の必要ステータスを満たす必要があり、使用者は別系統の職業への転職が不可能となる)
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冷たい。まるで氷を握り締めてる様な錯覚に陥る。
目の前にある不思議な黒い球体に思わず見入りそうになるが……。
ふと人が行き交う大通りだという事を思い出し服をめくり中に滑り込ませた。
……コレどうやって使うんだ?
腹の下に冷たさと異様な存在感を感じつつも両手で撫でていると、
ん? ――えっ!?
突如として球体はガラスに亀裂が入った様な音を響かせて……砕けた。
音はしたが、手の中で感じた感触は果実を押し潰した様な気味の悪いものだ。
服の中で水晶が砕けたことに驚いて服を掃うが破片は出てこない。
文字通り砕けて無くなってしまった。
これでこのアイテムは使用した事になるのだろうか?
再び自身に意識を向け、コンソールを確認してみると、
名前:未設定 職業:死霊術士:Lv1 性別:男 種族:人族
おお! やった! ようやく職業に就けたよ俺!
職業に就いたからかレベル表記も追加されていた。
今まではレベルすらなかったのか俺は……。
スキルはどうだろうか?
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使用可能スキル
【ボーンランス】
鋭く尖った肋骨を召喚し相手に撃ち出し貫く。
周囲に死体・支配下のアンデッドが存在していれば追加詠唱を行うことでそれらからも同時に発生させることができる。
【低位アンデッド作成】
低位のアンデッドを作成、使役する。作成には生物の死体が必要。
素体に応じた低位のアンデッドが作成される。
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うへぇ……、予想はしてたけどなんかエグそうなスキルだなやっぱり。
威力はどんなものか分からないけど攻撃スキルがありがたいな。
INT依存なら活かせそうだ。
そういえば俺ってMPはどの程度あるのだろうか?
……MND1なんだけど。
どこかで試し撃ちでもしてスキルを何回使えるか把握しておかないとな。
そもそも発動すら出来ないじゃお話にならない。
もし撃ててもあまり手数は期待出来ない気はするが……。
まぁいいさ、INT100でいい感じの火力が出るなら戦えるハズだ。
INTと言えばガチャで当てた『理力の剣』ってのもあったよな。
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『理力の剣』
一見するとただの柄だがそこから生じる刃は振るう者の理力に応じて大きく切れ味を変える。
自重が柄のみという軽さなのでどの職業でも装備可能。
だがそれ故に扱いには習熟が必要。
(要求ステータス:INT 抜刀時INTに応じてスキル追加+MPスリップ)
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一応威力は出ると思うから近距離での自衛手段として持っておけばいい。
その程度かなコレは。俺のステータスで進んで近距離戦なんてするべきじゃない。
スキル追加が気になるトコだけどMPスリップは嫌な予感がする。
そういえばガチャの当たり以外確認してなかったな。
ステータスに補正がかかる様な装備があれば助かるんだが。
確認してみるか――そう思い立ち、残りのアイテムを確認したが。
結論を先に言うと今、役に立ちそうな物は無かった。
良さそうな物も有るにはあったのだが……。
お世話になるのはまだ先になりそうだ。
今出来るのはこんなもんか。
自分の現状と持ち物の把握が出来た所で俺は冒険者ギルドに向かうことにした。