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第48話 無常な世の中でも強く生きたい

今回、残酷な表現と遺体を蔑ろにする様な描写がございますので苦手な方はご注意くださいませ。

 俺とシルベリアはアルフレッドを追い、一気に中層から下層へと駆け抜けた。

 『ラ・トワール』付近には人が多く、その流れに逆らう形での移動だったので苦労させられたのだが、中層区画からは一転して人がまばらになり、たまに大荷物を抱えた人たちと、すれ違う程度で難無く下層区画まで抜ける事ができた。


「シルベリア、止まれ……!」

「え? ……はいっ!」


 しかしその直後、俺は目の前に現れた分かれ道で足止めを食らうハメになる。

 下層までは、ほぼ一本道で何の問題も無く辿り着けた。

 ――が、ここに来てある問題が浮上したのだ。



「……くっ、どっちに行けばいいんだ!」


 そういえば俺、アルフレッドの家が在る場所とか全っ然知りませんでした。

 さっきはその場の空気に流されて気にも止めなかったんだけど。

 世の中ノリと勢いだけではいけないと言う事だな。


 どうしよう……、家が下層だとしか聞いてなかった。

 今から聞きに帰るのはあまりにコントが過ぎる。

 だが闇雲に探し回るには、あまりにティオールの下層は広い。

 くそ、この瞬間にもアルフレッドが危機に瀕しているかもしれないというのに。


 

「――ご主人様、こっちです!」


 俺が困り果てているとシルベリアから救いの手が差し伸べられた。

 

「おおう、本当か! よく判ったね、シルベリア」

「お店の匂いがこの先までずっと続いていますから!」


 なるほど、匂いか。

 ……笑顔で「勘ですっ!」とか言われなくて本当に良かった。

 しかし流石の銀狼族だ。俺には匂いなんて全く判らない。

 普段は人通りが多い場所だろうに、それを嗅ぎ分けてしまうとは。

 この一件が解決したら彼女を存分に褒めよう、そして気が済むまでモフろう。


「よし、あっちだな? それじゃあ行くぞ!」

「はい! 匂いを辿って行きますので、何か変化があればお伝えしますね!」


「もう、この場で君を抱きしめたい……」

「――えっ?」


 ――いっそ、この場でモフり倒してしまおうか。

 俺の嫁はすこぶる有能だと、この街の中心で声の限り叫びたい。


「何でもないよ。さあ、先を急ごうシルベリア」

「は、はいっ」



 ティオールの下層は完全に人の姿が消え、閑散とした雰囲気だ。

 建物の窓や扉は硬く閉ざされ、下層区画の石造りの歩道に人の気配は無い。

 時折、視線を感じる気がするので、屋内にはまだ少数ながら人が居るのだろう。


 息を切らしながら街の下層を道なりに横断していくと、一番最下層にあたる大通りの状況が遠目で確認出来たのだが……今、自分たちが走っている場所より更に下の状況は目を疑う様な光景だった。


 一言で言うのならば乱戦、あるいは混戦。

 あのおじさんが言っていた通り、まさに戦場の様相を呈している。

 大通りでは砂煙が立ち込め、クラウスと似た鎧姿の『衛兵』の集団や、見るからに『魔法使い』や『戦士』といった装いの冒険者が"敵"と入り乱れて戦っていた。


 相手は勿論――"モンスター"だ。

 しかし名前通りの化け物や、ボアやラビットの様な獣型のモンスターでは無い。

 ティオールの衛兵や冒険者たちが戦っているのは人型の"ソレ"だ。

 背丈が人と比べて小さい奴らが、群れを為してティオールの人間と戦っている。その手には槍や剣、小型の盾を持っているものも居た。

 距離が離れていて、走りながらなので詳細は分からないが、


「シルベリア、下層の状況は思ったより(マズ)そうだ……」

「結構モンスターが多いですね。もし、街の下層全体がこうだとしたら――」

 

 素人目でも戦況は数で押されている様に感じられた。

 俺は当初、アルフレッドを家まで送り届けるだけのつもりだった。

 だが、これはもしかしたらアルフレッドと合流してから彼の家族を連れて、さっさと上層に避難した方が良いのかもしれない。勿論エイミーも一緒にだ。


 避難場所は俺がお世話になっている宿とでもしておこうか。

 あそこなら食料もあるし、この騒ぎが長引いても数日は平気だろう。

 アルフレッドや、その家族も安心して夜を過ごせるハズだ。

 何なら宿代は俺が立て替えてやればいいしな。

 ケチらなければ金貨にはまだ余裕がある。

 万能金貨ちゃん――お前ホントに神ですわ。 


 シルベリアと話しつつ、今現在直面している状況から現実逃避していると――、



「いやああぁぁッ! 助けてっ……許してぇ!!」


 絹を裂いた様な――そんな風にも形容出来るであろう女性の叫び声が木霊した。

 その声は静まり返った下層区画に響き渡り、しっかりと閉じられていた家の窓から思わず住民が顔を出し、周囲を見渡す程のものだ。

 ……彼らはその後、またすぐに室内へと引っ込んだが。


 叫び声の主は当初、居場所が掴めなかったがすぐに俺とシルベリアの視界に飛び込んできた。――いや、運ばれてきた。それもモンスターたちの手によって。


 俺たちが移動している下層の道。その正面、建物の角から奴らは姿を現した。

 さっき冒険者や衛兵たちとやりあっていたのと同種のモンスターだ。


 フォレスト・ゴブリン:Lv7

 フォレスト・ゴブリン:Lv6


 ゴブリン――ファンタジーでは珍しくもないモンスターの名称だ。

 名前の頭にフォレストと付いている辺り、森を住処としているのかな?

 今そんなことは問題ではないが……。

 むしろ問題なのは、そのゴブリンたちが運んでいる"荷物"の方だ。


「やめて……、ごめんなさいッ……お願いだから見逃してぇ!」

 

 あいつら、人間を運んでやがる。

 どうやら声の主はゴブリンに捕まってしまったらしい。

 女性は緑色の肌をした二匹のゴブリンに腕を掴まれて引き摺られていた。

 彼女は今も必死に声を上げ、助けを求めているが一向に助けられる気配は無い。


 穴熊を決め込んでいる街の住人はともかく、近くに他の人間は居ないのか?

 こんな状況の下層で、女性が無防備にも一人でうろついていたとは考えにくい。

 もし単身で出歩いていたのだとしたら危機感が無さ過ぎるぞ。


 ……しかし、その答えはすぐに出た。

 ゴブリンたちが腰に巻いた布に「人間の頭部らしきモノ」を提げていたからだ。

 予想の域は出ないが、首の持ち主は叫んでいる女性の仲間だったのではないか?


 今回、この騒動に対処する為に衛兵隊と冒険者ギルドが連携していると聞いたが、さっき見かけた戦闘では衛兵と冒険者側がやや劣勢に見えた。あの様子であれば、ティオール側にも相応の被害が出ているハズだ。


 多数同士で相手とぶつかり合う戦闘なんてそんなものだ。

 余程のことがない限り多かれ少なかれ損耗や犠牲が出る。

 中には数で圧されて敗北し、壊滅の憂き目に遭うパーティだって恐らくは在る。

 彼らは無残にも殺され、ゴブリンの悪趣味なアクセサリーと化したのだろう。

 そして彼女はこれから――なんとなくオチが読める。多分、薄い本な結末だな。


 二匹のゴブリンはこの後の"お楽しみ"で頭が一杯なのか、俺とシルベリアには気付いていない様子で、角を曲がってすぐの建物の扉を破ろうと夢中で蹴っている。


 こっちは先を急いでるっていうのに……。

 当たり前だが見逃す訳にはいかない。そんなことをすれば後味が悪い。

 あの二匹から命を奪うのとどちらがマシか? なんて考えるまでも無い。

 気が進まないが、どうやら荒事に打って出るしかないらしい。


「ご主人様、あの人は……」

「分かってる、助けてやろう」


 さて、どうするか。

 ドア先輩が挫けて、女性が建物に引きずり込まれる前に何とかせねば。

 それに相手にいつまでも気付かれないとも限らない。さっさと方針を決めよう。


 見たところ他にはモンスターの姿が見受けられない。

 ……戦利品を得て意気揚々と戦線離脱したって感じか? 欲望に忠実な奴らだ。

 だが、人を殺して首を獲るあたり、残忍な性格の凶悪なモンスターに違いない。

 二匹はそれぞれ片手に斧と短剣、そして反対側の腕には小さな盾を付けている。

 俺とシルベリアは軽装なので、武器の一撃を貰えば大怪我は避けられない。

 もし、これが正面対決なら避けたい所だが、幸いにも今回は先手を取れそうだ。

 それにシルベリアはLv11。個々のLvならばゴブリンよりも高い。

 俺はLv1だが、最悪シルベリアの肉壁程度にはなるだろう。盾だってある。

 使った事すら無い『カイトシールド』への期待が加速度的に高まっていく。


 作戦と呼べる程のものではないがプランは決まった。

 先手必勝で数を減らして、残りを二人でフルボッコにする……コレだ!

 シンプルイズベストだな。独り頷きながら手元に"相棒"を取り出す。


「シルベリア、不意打ちで一匹黙らせられるか?」

「ゴブリンと戦うのは初めてですけど……やってみます!」

「無理に倒さなくていい、動けなくすればいいだけだからな?」

「はい!」

「じゃあ、行くぞ――!」


 シルベリアに指示を出し、なるべく足音を立てずにゴブリンたちに忍び――。


「――ガアァァァッ!!」

「ちょ、シルベリアさん!?」

 

 ……忍び寄る前にシルベリアが引き絞られた矢の如く二匹に向かって突撃した。


 待って! シルベリア待って!

 それ、俺が考えてたのとちょっと違うから!


「ギィ!?」「キィィ?!」

「ガァゥッ!!」


 彼女の咆哮に気付きゴブリンがこちらを振り向くが、もう遅い。

 振り向き様に一匹のゴブリン――Lvが7の方の顔面に棍がブチかまされる。

 それも棍の端っこを両手で握ってのフルスイングだ。

 得物の長さを活かした全力の打撃を受けたゴブリンは足元に叩きつけられ、


「――ィ……ギキッ……ィ」


 悲惨な鳴き声を上げ、手足を痙攣させながら石畳の上に転がった。

 HPバーはギリギリまで削れ、状態異常に「骨折」「致命傷」「気絶」が点く。

 どうやら、あの一撃で顔面が砕けて致命傷を負い、そのまま気絶したらしい。

 ……もう起き上がることは無いんじゃないかな?


「グルルルッ……!」

「キキキ! キィッ!」


 そして、もう一匹のゴブリンが女性から手を離し、短剣と小盾を構えるが、



「おい。こっちにもいるぞ――」


 強襲して来たシルベリアに気を取られ、俺に背中を向けてくれていたので、背後から『柄』を差し向け、禍々しい光刃を突き立ててやった。

 相手が俺の声に反応するよりも早く、発生した刃はゴブリンの体を貫く。


「ギィ?! ギ――ィ……ッ」


 なんだ、ボアよりも全然手応えが軽いな。

 まるでスープにフォークを突き立てるかの様な、何も無いに等しい感触だ。


 刃で貫いた部分から不愉快な臭いが漂い始めたので、そのまま刃を小刻みに震えるゴブリンの頭頂へと振り上げると、急速に減っていたHPは一瞬にして無くなり、ゴブリンのHPバーは消失した。

 胸部から頭部へ向けて両断されたソイツは、そのまま力無く崩れ落ちていく。

 傷口はやはり塗料で塗り潰されたかの様に黒く、出血も無い。

 もはや目の前のモンスターは名前やLvの表記すら無い、ただの死体だ。


 遂に俺はこの世界に来て、初めて自分の手で生き物を殺した。

 それも意思のある、今日まで懸命に生き抜いて来たであろう命を奪ったのだ。

 今回はボアの時とは違う。最初から俺が殺意を持ってゴブリンを殺害した。

 自身の主観では悪行を行っていたモンスターだったせいか、不思議な程に心は落ち着いているが……このゴブリンの死に様は忘れない様に脳裏に焼き付けておくとしよう。



 ――これにて戦闘は終了。

 作戦もへったくれも無かったが無事に終わって良かった。

 俺もシルベリアも無傷。女性の貞操も守られた。

 結果はまずまず、きっと上出来な部類だろう。

 既に殺されていた人たちに関してはご冥福をお祈りするばかりだ。

 で、後は"後始末"を中心とした事後処理だな。


「ふー……――次はあっちか」


 大きく深呼吸をしてから俺はもう一匹のゴブリンに歩み寄る。

 仰向けで大の字に倒れているので、打撃を受けた顔面を直視したのだが、


「……うぷっ」

「ご、ご主人様?!」


 こちらは少々吐き気を催してしまった。

 顔面崩壊。この有様はその一言に尽きる。


 俺の嫁、すごくつよい。

 

「大丈夫、大丈夫だよ。シルベリア」

「はい、辛くなったらいつでも仰って下さいね」

「うん、ありがとうな」


 足元に転がるゴブリンを見て考える……。


 なんだこの惨状、と言いたい所だが命じたのは俺だ。

 これも自身の選択が招いた結果である。受け止めよう。

 ゴブリンに対して悪いとは思わないが、少しばかり哀れには思う。


 未だに痙攣しながら頭部の穴という穴から血を噴出させているソイツに、俺は一方的に"慈悲"をくれてやる事にした。


 再度光刃を展開し、手早く、なるべく根元から首を刎ねる。

 これで多分、痛みを感じる暇さえ無く即死のハズだ。……そう信じたい。

 ぶっちゃけ、ただのトドメだがコレに関しては介錯とも言えるかもしれないな。



 そして――――俺の"餌"だ。



 イツキ 死霊術士:Lv4 



 よしっ! 初Lvアップ達成だ!

 自身のLvをコンソールで確認すると、しっかりと上がっていた。

 生き物を殺めた罪悪感にLvアップの喜びが勝るのはどうかとも思うが……。

 でも、ようやくだ。ようやくの成長なんだ。喜ばずにはいられない!

 シルベリアにモンスターの無力化をお願いしたのもプラスに働いたな。

 ゴブリン二匹にトドメを刺したことで1から4まで上がったらしい。


 おっと、本来の目的も忘れてはいけない……、


「シルベリア、あの女性の手当てを。――コレを使ってあげなさい」

「分かりました、ご主人様!」


 インベントリから『特上精神回復薬』と『特上回復薬』を取り出してシルベリアに女性の介抱をお願いする。

 『特上精神回復薬』は酷く取り乱していた様なので落ち着かせる為に。

 『特上回復薬』は擦り傷が多いので一応といった所だ。

 大盤振る舞いかもしれないが、Lvも上がって気分がいいのでサービスだ。



 さて、女性を介抱する間の時間を利用して俺は色々とやらせて貰おうか。

 

 まずはステータスの確認だ。

 Lvアップで上昇してくれていればいいんだけどな……、

_____________________________

 ステータス


 VIT   1 


 INT 100


 STR   1


 DEF   1


 MND   4(3UP!)


 AGI   1


 LUC   1

_____________________________

 

 その結果は期待通り!

 なんと上がったLvと同数値のパラメーターが足されていた!


 ――MND(精神力)に! そう、おそらくMP等が増加するであろうMNDに!


 ……伸びるのMNDなのかよッ!!

 いや、『普通』の魔法職ならそれでいいんだ。『普通』なら。

 INTが極限にまで振ってある俺には本来ならMPが必要不可欠だ。

 魔法職ってのは多数の魔法と潤沢なMPを駆使して立ち回る。

 後は即死しない程度のHPと身の丈にあった防御力があればいい。

 それ以上のことはパーティメンバーとの連携で賄うのだ。


 でも俺は――そもそもMPが使えない。

 今回上がった3レベル分は全てMNDにつぎ込まれたみたいだが……。

 これがこのも先ずっと続くのであれば、正直レベリングが虚しい。

 自身では確認出来ないが、最大HPでも伸びてくれていれば良いんだけど。


 他にもMNDと云えば、回復魔法の効果上昇や魔法に対する抵抗なども含まれることが多い。が、回復魔法が関係する職業だとは思えないのでそちらはスルーだ。魔法に対する抵抗は後々役に立つかもしれないが、そもそも低耐久力な俺がそんなものを食らう前提で立ち回る訳にもいかない。……こちらも過信はできないな。


 この状況を前向きに考えるとすれば『理力の剣』の燃費向上くらいか。

 どの時点でMND上昇の恩恵を受けたのか分からないが、俺のMPは全然減っていない。……というかステータスを確認している間に、減っていた分が回復して満タンになった。これはシルベリアと二人で付けている『双子女神の首飾り』の効果が大きそうだ。首飾りの「MP持続回復」――これも引き続き検証案件だな。



 次は戦利品の入手。

 スキル【アイテム詳細表記】有効化し、ゴブリン二匹の死体を観察する。


 ゴブリンダガー

 バトルアックス+1

 ウッドバックラー+1

 ウッドバックラー

 ボロ布-3

 ボロ布-1

 生首×2


 使えそうなのは武具が四つだけか。コレは遠慮なく頂いておこう。

 ボロ布は論外だ。こいつらの腰に巻かれた汚い布なんて要らない。


 しかし生首って、人も死んだらアイテム扱いかよ。なんだか世知辛いな。

 ……けど、死体もアイテムとしてインベントリに入るって事だよなこれは。

 使えそうなアイテムをインベントリに格納し、生首も一応放り込んでおく。


 ――残ったゴブリンの死体はボロ布と合わせて検証に使わせて貰うか。

 丁度、試したいことも思い付いたのでいい機会だ。有効活用してやろう。


 まずは死体とアイテムをセットで格納できるかどうか。

 ……結論から言うとこれは可能だった。

 『ボロ布を装備している』と、注釈の入った死体がインベントリに増えた。


 では次だ。装備を残して死体だけ格納出来るのか。

 ……これも可能らしく、ボロ布を残してゴブリンの死体だけが消えた。



 そして問題が発生した。

 今更ではあるが俺の【インベントリ操作】は手のひらを中心に発動するらしい。

 今日まで色々(・・)な部分で試してみたが、手以外では出し入れが出来なかった。

 つまり、この"汚い"ボロ布を格納するには素手で触れなければいけないのだ。


 もちろん、そんなのは嫌だ。

 何が悲しくて自分から汚物に触れなければいけないのか。


 ――けど、ついでなので、この状況でも検証はしておく。

 近くに落ちていた棒切れ等で間接的に触れて格納を試みたが失敗。

 布の上に死体を落として格納してみるがこれも失敗。

 どうやら死体が"装備"していないと同時格納はできない様だ。


 ボロ布を放置して検証を終えようとしたが、閃いたのでラスト一回。

 内容はインベントリ内で死体に装備を着せれるのか? というものだ。

 ちょっとした興味からだったが、意外にもこれは成功した。

 インベントリ内で死体と装備を重ねるイメージを浮かべ取り出すと、両腕にバックラーとバトルアックス、ゴブリンダガーを装備したゴブリンの死体が出てきた。

 ちなみに再度格納して確認してみたのだが脱がす事も可能である。


 死体に対しては装備の着せ替えが自由ってことか。

 ……悪趣味な着せ替え人形もあったもんだな。

 

 うむ。やはり【インベントリ操作】も融通が利く良いスキルだ。

 気になっていた部分も検証出来たし、これ以上死体を弄ぶのは良くない。

 俺の職業はネクロマンサー的なものだけど、だからといって好き放題は駄目だ。

 このスキルさえあれば完全犯罪し放題だなんて考え付かなかった事にしよう。



「ご主人様ー」

「ん……シルベリア、どうした?」

「先ほど助けた女性が落ち着いてきたんですけど――」


 検証の結果に満足しているとシルベリアが駆け寄って来た。

 どうやら女性の介抱は終わったらしいが……、


「何か問題でもあったのか?」

「いえ。実は彼女、ご主人様と私が知っている人でした」


 なんだと。助けた女性が俺とシルベリアの知人だった?

 そうだとしたら物凄い偶然だとは思うけど……俺には心当たりが無い。

 おかしいな。話した女の子は大抵覚えてるつもりなんだけど。


「知ってる人って……誰だ?」

「ほら! 今日の朝、冒険者ギルドで受付をしてくれた女性ですよ!」


「ああ! あの――……マジですか」

「はい、マジですっ!」


 変わったこともあったもんだ。

 まさか今朝、恫喝してしまった女の子を助けることになるなんて。

 あの不幸な一件は、もうすっかり忘却の彼方へと追いやっていたんだけどな。

 早くも罪滅ぼしの機会がやって来たのだろうか?


 シルベリアの後方で座り込む女性に視線を移す。

 年の頃は十代後半から二十台前半かな? 少女というよりは立派な女性だ。

 ギルドにいた時とは違い、制服ではなくローブを身に纏っている。

 ゴブリンの仕業か、衣服は大きく破かれて扇情的な姿になっているが……。

 彼女は建物の壁に背を預け、戦々恐々といった面持ちでこちらを見守っていた。

 それはもう、明らかに俺を警戒している。


 うーむ。結構気まずい状況だ。

 ギルドでの彼女に対する俺の態度がなあ……。印象が悪すぎるだろアレは。

 朝のはどう考えても、いきなり言い掛かりつけて、まくし立てた俺が悪い。

 いくらモンスターに穢されそうになった所を助けたとはいえ……、


「えーと。その、今朝はどうも――」

「ひっ……」


 ほら。露骨に怖がられてるぞ。とても胸が痛いです。

 俺が声を掛けると、彼女は自身の身体を抱きしめる様にして後ずさった。

 背後は壁なのでそれ以上下がる事なんて出来はしないのだが。


「あの、今朝は少し急ぎの用があったので荒っぽく当たってしまいまして――」

「ち、近寄らないで下さい……」


 即興で思い浮かんだ言い訳を述べるも撃沈。

 困ったな。こんな調子じゃまともに話しなんて出来ない。

 全力の笑顔で彼女に接してみたが逆効果になっているみたいだ。

 シルベリア? 彼女は本当に落ち着いてくれたんだよね?


「大丈夫ですっ! 怖くないですよ? ご主人様はとてもお優しい方で――」


 俺の視線を受けてシルベリアが必死にフォローを入れ始めた。

 まるで子供をあやすお姉さんの様で見ていて面白いが、効果は薄そうだ。

 シルベリアの言葉など聞こえていないかの様に怯えた視線を俺に向けてくる。


 ……ここであまり時間を掛けてもいられない。

 何か、俺の話を聞いてもらえるきっかけでもあれば助かるんだけどな。

 場合によっては最低限の施しは完了したと判断してこのまま置いて行こう。

 そう考え、俺は彼女の名前とステータスを表記した――、


 エステル・ヘーネス 呪術士:Lv6

 

 へえ、彼女は『呪術士』なのか。

 俺の知る限りでは、出典によって全く在り方が変わる職業だ。

 RPGでは主に状態異常担当のデバッファーな事が多く、アクション系の作品では攻撃系の魔術や呪術を操ったりもするトリッキーな存在だと云える。

 現実世界では呪い師やシャーマン的な人々が近いかもしれないな。

 この世界ではどんな立ち位置の職業なんだろうか? 少し気になる。


 名前はエステル・ヘーネス。

 可愛い名前じゃないか。――ん? ……ヘーネス?

 その名字は何処かで見たことがある気がするぞ。


 ふと、俺の脳裏に恩人でもある食い意地の張った衛兵の顔が浮かぶ。


「あれ? もしかして『衛兵』のクラウスさんのご家族だったりします?」


「え……クラウス・ヘーネスのことをご存知なんですか?」

「ええ、まあ。つい先日、彼には命を救われまして」

「そうでしたか……」


 まさかの大当たりか。

 どうやら彼女はクラウスの身内らしい。

 でも顔は似てないし、髪の毛の色も違う。金髪の彼とは違い彼女は緑髪だ。

 うーん? 年齢的に従姉妹か、或いは逆にもっと深い関係の……。

 

「すみません。ひょっとして貴女はクラウスさんの――奥様ですか?」

「まさか! ……クラウスは私の義兄ですよ」


「ぎ、義理の……兄妹だと……?」


 ――この日、俺は世間の狭さと世の中の理不尽さを改めて知った。 


 クラウス。あなたという御人は……。

 趣味の合いそうな後輩に恵まれた男前のクセに、義妹まで完備しているだと!?

 しかも俺基準ではどちらもバッチリ可愛いぞ!?

 アンタはそのご身分で、ゆくゆくは奴隷まで囲おうと云うのか!! 

 畜生、何処の美少女ゲームの主人公だよ……まるでハーレムじゃないか。


 俺はそんな彼に一匹の雄として、熱く対抗心を燃やし。

 密かにその夢の様なシチュエーションに強い憧れを抱く事となった。

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