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第3話 例え辛い道でも俺は強く生きたい

ブックマークをして頂いた方々ありがとうございます!

楽しんで頂けていれば幸いです! これからも精進させて頂きます。


 昼の日差しも強くなる時間帯。

 王都と商業都市を繋ぐ交易路の丁度中間地点であるこの街は一日の内で最も人で

溢れる時間を迎える。

 南から王都を目指す人々。

 商業都市から中央を目指す人々。

 冒険やダンジョンに一攫千金を夢見てこの街に入る冒険者達。

 そしてそんな彼らを相手に商売を行う為に集まる様々・・な者達。

 各々の目的を持った人間達が行き交い大通りは喧騒で包まれていた。



「アイルム」の大通りに面した場所に建つ、とある大衆食堂。

 其処は今日も冒険者や街勤めの兵士、労働者達で賑わっている。

 そんな中で一心不乱に飯を掻き込む二人組。

 俺とアレフだ。

_____________________________


~本日のメニュ~


「アルタート牛のロースト」

 アルタート南部の森林地帯に住む固有の牛の肩ロースを絶妙な火加減でローストした一品。ナイフで切り分けながらカーマロイ産の塩を好みの量振りかけてどうぞ。


「トアトのサラダ」

 噛むとシャクシャクとした歯応えと共に程よい酸味の果汁が溢れる赤い実のサラダ。食堂特製のドレッシングがかかっている。

 美容に良いと女性冒険者の間で評判のメニュー。


「ピヨ豆とお野菜のスープ」

 金平糖の様な形をした独特の豆類とアイルムで今朝採れたばかりの新鮮な野菜を

ふんだんに煮込んだスープ。

 見た目は奇妙だがコリコリとした独特な食感の豆が癖になる。出汁は鳥ベース。


「アイルムパン」

 街の名を冠するアイルム名物のパン。

 出している店舗によって微妙に変わるが味はほぼ同じ。

 外は香ばしく、中はモチモチとしており腹持ちが良い。

 切り分けて間に具を挟み提供する露天もある。


「ピーテのジュース」

 アルタート地方から運ばれてくる果実を絞った飲み物。

 甘酸っぱい果汁は子供や女性に人気がある。

 実の鮮度が落ちやすく、原産地からアイルム以上の距離がある街には蜜や香辛料で漬けて運ばれる。

 

_____________________________


「どうだ? うめえだろ? うぉーい! 酒追加頼むわー」


 アレフが酒の追加を注文しながら聞いてくる。確かもう大きなジョッキで三杯目だ。

 

「んぐ、んぐ……。ええ、ウマイですねコレは。

 特にこの肉、塩かけただけなのに味が濃いし凄く柔らかい」


 丁度口いっぱいにパンを頬張った所だったのでピーテのジュースで流し込みながら答えた。


「だろ? 少々歯応えは物足りんが味は間違いなくティルニス最高だなその肉は。

 ちなみに塩も悪くないがオレ程の上級者になるとこうやって食う」


 ジョッキをテーブルにゴトンと置き、ナイフでアイルムパンにザクザク切り込みを入れ始める。そして薄めに切り分けた肉に塩を振り掛けながらトアトのサラダと交互に何枚も切り込みに重ねていき……


「これでよし。アレフさん特製肉挟みアイルムパンだ!」


 ズイッ!と完成した物を差し出してくる。

 挟んだだけじゃないか……と思いつつも受け取りかぶりついた。


「!!」


 ん? コレ、美味いぞ!? ただ挟んだだけなのに……。

 トアトのサラダと肉が絶妙に合わさって口の中で一体になって――。

 ……うん、俺には食レポの才能は無いらしい。月並みな表現しか出て来ない。


「美味いです! さっきまで食べてた物と同じ物なのに挟むと全然味が違って驚きました」


「そうだろう、そうだろう」とアレフが満足げに頷いている。


「種明かしをするとな? トアトのサラダにかかってるソースが肉と合うんだ。

 んでトアトは塩気と合うんだがソレだけだとちっとばかし味が濃すぎて食い辛い。だからアイルムパンに挟む訳だ。門番の仕事もしながら食えるし最高の食い方だな!」


 ハッハッハ! とアレフが胸を張って笑った。

 

「大通りの露天で同じもの売ってるんだけどねえ~? は~い追加のお酒よお」


 不意にアレフの背後からミーアがジョッキを差し出しながら言う。


「だから最初にこの食い方見つけたのはオレなんだよ! アイツ等が勝手にオレの真似してるだけだ! 大体この店のソースでなきゃこの味は出ねーんだよ」


 ジョッキを受け取りながらアレフが憤慨している。

 ミーアは盆を胸に当てながらそんな様子を見てクスクスと笑う。

 そんなやり取りを眺めつつ俺は挟みパンに噛り付いていた。


_____________________________


「さーて、腹も一杯になったし話の続きでもするか。どこまで話してたか……」


 テーブルの上が片付き始めた頃にアレフが切り出してきた。

 酒がまわってご機嫌の様だ。


「えっと……、ダンジョンの話でアーティファクトがどうとか」


「ああ、そうそう! アーティファクトってのは――」


 掌をポン!と叩き、続きを話してくれた。


 アーティファクトは強い力が宿ったマジックアイテム。それの成れの果て。

 それ自体に大変な価値があり、丸ごとダンジョンから持ち出す事に成功すれば

一財産築けるらしい。故にそれ求めてダンジョンに挑む冒険者は数知れない。

 無論「何故それだけの価値を持つか」を考えれば分かる様に簡単に成し遂げられる事では無い。完全な状態でのアーティファクトの奪取成功は今まで数例しか報告が無いそうだ。

 もしダンジョンに潜りアーティファクトを発見したらその場で破壊してしまうのが一般的で、運が良ければ破壊したアーティファクトの欠片が手に入る。それがマジックアイテムの素材として重宝されているので稼ぎにもなるのだ。中には自分用に集める冒険者も居るらしい。


「まぁ、こんなトコだなオレが知ってるのは。他に気になる事はあるか?」


 ダンジョン、アーティファクト、マジックアイテム。

 男心をくすぐるようなワードが次々と飛び出してくる。

 ここまで聞いて次に気になるのは? 勿論決まっている。

 それは自分の力で道を切り拓き、夢に手を伸ばす憧れの職業。


「ありがとうございます。ではその冒険者というのは――」

 

 喋り終える前にアレフが俺の眼を見ながら口を開いた。


「まぁそうくるよな……。だがやめておけ。食い扶持を得る為に選ぶ様な道じゃないぞ?」


 まるで俺が何を考えていたのか、何を言おうとしていたのかを見抜いていたかの様だ。思わず思考が止まってしまう……。

 アレフは真剣な眼差しでこちらを向きながら言葉を続ける。

 その顔はさっきまでの酒に酔っていたアレフでは無い。

 まるで別人の様だ。


「いいか? 冒険者稼業ってのは確かに夢と可能性のある職業だ。成功すれば普通は手の届かない富や名声、あるいはそれ以上のモノが手に入るヤツも居るかもしれない」


「でもな? 当たり前のことだが誰しもがそうなる訳じゃない。オレはそういうヤツ等を今まで山程見てきた。中には目標に手が届く直前に仲間に後ろから刺されたヤツも居た。勿論夢を掴んだヤツも中には居たぜ? だがソレはほんの一握りだ。そしてその中で今も生きてるヤツをオレは一人も知らない」


 淡々と語るアレフに圧倒される。

 自分の考えは浅はかだったのではないか?

 俺は間違っていたのではないだろうか?

 そんな考えが頭の中を塗りつぶす。


「もし普通に生活して、安全に生きたいだけなら相応の道がある。

 同じ卓で飯を食った仲だ、なんならオレが仕事の世話をしてやってもいい。

 この街だって絶対に安全とは言えないが進んで冒険者になるよりは大分マシなハズだ。それでも――」


 思い返せば――。

 俺は最初アレフに「知らない土地に来てアテもなく勝手が分からずこれからどう生活すればいいのか」と相談した。

 アレフはそんな何も知らない俺に飯を食わせ、色々な事を説明してくれた。

 ほぼ初対面で他人当然の俺にだ。

 そして今は俺の行く末を憂い、"普通に生活が出来、自分が知る可能な限り安全に暮らせる"そんな道を示してくれている。

 つい数時間前に出会ったばかりのハズなのにここまで親身にしてくれるこの男には感謝してもしきれない。

 それでも――、


「すみませんアレフさん。俺なんかにそこまで言ってくれてありがたいです――」


 俺は元の世界ではずっと無難に生きていた。

 無難な仕事を普通にこなすだけの日々。

 何の変化も無い繰り返しの日常。

 それでもそれなりに満足していた。

 一般的に見れば不自由の無い生活だったハズだ。

 だがそんな日常は突然消えて無くなった。

 昔から密かに憧れていたファンタジーの様な世界へと飛ばされ、これからはこの世界で生きて行かなければいけないらしい。

 元の世界へ戻りたいという気持ちは湧いてこない。向こうでの生活に未練は無い。夢焦がれた世界に今まさに俺は居る。

 ……そして、どうせ生きるのならもう似たような人生を繰り返したくは無い。

 

「――それでも俺は冒険者になりたい……。

 例え厳しい道でも自分に必要なものは自分の手で掴みたい……!」


 ――俺は強く生きたい。


_____________________________



 ――数十分後、場所は同じ大衆食堂――


「あら~、フラれちゃったわねえ」


 ミーアがアレフの肩に腕を乗せながら話しかける。その顔はどこか楽しそうだ。


「妙な言い方すんじゃねーよ」


「でも彼~、欲しかったんでしょう?」


 先ほど迄男性二人連れで食事をとっていたテーブル席に『彼』の姿は無い。

 やれやれという表情でアレフは椅子の背もたれに身を預けながらミーアの顔を見る。この顔はアレフの反応を愉しんでる時の顔だ。


「お前が言うとおかしな含みを感じるんだよ……まぁ最初はそう思ってたんだがな。飼い慣らされた人間の眼だったよアレは。自分を殺して周りに流される事に慣れちまってる。ンなヤツは冒険者なんかには向かねぇよ、戦争の無い様な平和な街で衛兵や門番でもやってるのがお似合いだ。」


「それであんな年寄りみたいな事をクドクド言ってたのねえ。嫌だわぁ、歳は取りたくないわぁ」

 

 自分の髪を指でクルクル巻きながらミーアはふぅと溜息をついた。


 少し説教くさ過ぎたかね……。まぁでも最後の方は及第点だな。

 今の自分の状況に甘んじる気は無い、何としてでも変えてやる。

 そんな覚悟が伝わってきた。

 そんなヤツは衛兵や門番には向かない、商人か冒険者でもやって苦労した方が為になる。


「あー……、文字読めないんだったかあの兄ちゃん。ハハッ、結局冒険者しかねーじゃねえか」


 これから苦労しそうなヤツだ、とアレフは苦笑しながら呟いた。


「あらやだぁおじいちゃん独り言? 早くお仕事に戻らないとダメよお?」


「うるせぇ、まだ大丈夫だよ。それよりミーア! 追加でよく冷えたホップーだ! 大ジョッキで並々な!」


「まだ飲むのねぇ。そういえばあのボウヤ、お名前は~?」


 しまった、そういやあの兄ちゃんの名前聞いてなかったな。


「いかん忘れてた」


「あらぁ、やっぱりもうおじいちゃんねぇ」


 まぁ、アイツが下手打たなければすぐに会えるだろ。名前なんざその時でいい。

 今度は酒でも奢らせて愚痴でも聞いてやろう。


「はあい、お待たせ~。"アイルムの守護神"さん」


 ミーアから並々と泡があふれた大ジョッキを受け取りアレフは好物の酒を一気に喉に流し込んだ。

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