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第38話 予定を違えずに強く生きたい

新たにブックマーク、評価をして頂いた方々。

そしていつもご一読くださっている方々。ありがとうございます!

少しでも楽しんで頂ける様に、より一層精進していきます!

「――シルベリア、この服はどうだろうか?」


 今朝届いたばかりの服に早速袖を通し、ポーズを決めて感想を求める。

 昨日まで着ていた黒基調の物とは少し違い、今着ているものは濃紺色だ。

 しかし、よく見なければ殆ど黒色にしか見えない程に色が深い。

 

「いいと思います。昨日とは少し違って格好良いです!」

「はっはっは、そうだろう」


 うむ。シルベリアには、この微妙な違いが判るらしい。

 このさり気ない差が"粋"なんだよな。

 アルベルトにはまた礼を言っておかねばなるまい。素晴らしいチョイスだ。


 様々なポージングと角度を試しながらシルベリアと戯れていたのだが、


「……朝っぱらからイチャついてないで顔洗って、歯でも磨いて来なさいな」


 せっせとベッドメイクをしてくれているフィリアさんに呆れ顔で言われてしまったので、俺はシルベリアを連れて中庭へ向かうことにした。


「それもそうですね。――シルベリア、行こうか」

「はい、ご主人様。フィリアさん、失礼します」

「はいはい、ごゆっくり」


 ――やはり、新しい服は良い。

 袖を通したときの高揚感。この感覚はこちらの世界に来て、改めて知った。

 まるで自分が生まれ変わったかの様にさえ感じられる。

 加えて外套と帽子を着込めば、物語に出てくる貴族か探偵にでもなった気分だ。

 今までは甚平か作業服で過ごす時間が殆どだったので尚更なのかもしれないが。


 ちなみにシルベリアの服は昨日と同じ白いドレス姿なのだが、彼女の下着はフィリアさんが新しい物を用意してくれた。ずっとそのままと言う訳にもいかないので、今日中に彼女の衣類も仕立てに行こうかと思う。



 足取りも軽やかに中庭へと出ると、外は雲ひとつない快晴――。

 朝の日差しが強く、頭上には突き抜ける様な蒼穹が広がっていた。

 今日も暑い一日になるのかもしれない。

 

 中庭の中心には例の水が湧き続ける謎の物体と、シャノンの姿があった。

 何やらせっせと洗い物をしている様だ。

 インベントリからコップと小枝を出しながら彼女に朝の挨拶をしたのだが……、


「おはようございます、シャノンさん」

「あ――お客様、おはようございます……」


 どうしたんだろう?

 少し浮かない様子で元気が無い。

 よく見ると目の下に薄っすらと隈ができている。


「何だか疲れてる様に見えますけど、大丈夫ですか?」

「え、ええっ……実は少々、夜更かしをしてしまいまして」


 夜更かしか、仕事の前日はあまり褒められたことじゃないよな。

 そうでなくとも次の日に響かない程度にするべきだと思うぞ、俺は。

 ……けど真面目そうな彼女のことだ、何か事情があったのかもしれないな。


 よし、そんな彼女には俺がいいものを授けてあげよう。

 夜食と昨日のご馳走の礼代わりといっては何だが……、


「シャノンさん。ちょっと目を瞑っててください」

「ええと? こうですか――ひゃっ」


 唐突に俺が言い出した言葉にも動じず、シャノンは素直に従ってくれた。

 ほんのりと芽生えた悪戯心を堪えつつ彼女の目の前に手をかざし、インベントリから"あるもの"を取り出して彼女の白いおでこに引っ付けてやる。


「これ、差し上げますよ。多分飲むと少しは楽になると思います」


 彼女に俺が押し付けたのは赤い液体の入った瓶。『特上回復薬』だ。

 『特上精神回復薬』と悩んだのだが、夜更かしだと聞いたので肉体的な疲労であろうと判断してこちらを選択した。

 シャノンはしばし呆然としていたが……、


「――お客様。これは高価なお薬ですよね? ……私には勿体無くて頂けません」


 スッと表情を切り替えて、丁寧にそれを断ってきた。

 さっきまでの眠たそうな様子とは打って変わり真面目な顔つきだ。

 所謂、仕事モードとでも云うのか? 俺もそんなスイッチ式になりたいです。


 別に遠慮しなくていいのになあ。

 でも、無理に勧めるのも良くないよな……今回は引っ込めておこう。

 なかなかに可愛い反応をしてくれたので俺は満足だ。


「そうですか。でも、あんまり夜更かしなんかしちゃ駄目ですよ?」

「はい。いつもは夜更かしなんてしないんですけど、昨晩はつい……」


 インベントリに赤い瓶を格納しながら俺はシャノンに軽く注意だけしておいた。

 睡眠不足は仕事中だと怪我の元だ。女性には美容の大敵だとかも聞くよな。

 まあ、俺も昨晩は忙しかったから人の事をあまり強くは言えないけど。

 いや、これからは毎晩忙しくなる可能性も――ありえますよね?

 ……女の子の前で考える事じゃないか。


「シャノンさんは可愛いんだから、目に隈なんて付けてたら勿体無いですよ」

「へ……そ、そうですか!?」


 そこ、驚く所なんだ。

 早くもシャノンの仕事モードが終了してしまった。

 よく気遣いが出来て料理まで上手だというのに……。

 まさか自身の魅力に気付いていなかったのか?

 いかんな、おかしな男にひっかかる前に自覚して貰わねば。


「ええ。それは男である俺が保障しますよ。シャノンさんはとても可愛いです」

「あ、ありがとうございます……今後は気を付けます――」


 俺の言葉に彼女は真っ赤になって下を向いてしまう。

 その様子もまた素晴ら――シルベリアさん、どうして俺を睨んでるんですかね?

 シルベリアが俺を睨みながら、先日のシャノンの如くぷくーっと膨れている。


「……ご主人様は可愛ければ誰でもいいんですか?」

「こ、これは別に彼女を口説いてる訳ではないんだ――」


 もしかして:焼きもち……? あっ、そっぽ向いた。

 なにこれ、どっちも可愛いんだけど。コレも一種の修羅場なのだろうか……。

 こんな修羅場ならいつでも大歓迎だぞ俺は。


 ――さて、だからと言っていつまでもこうしている訳にはいかないな。

 俺は顔を真っ赤にしたシャノンが見守る中、シルベリアのご機嫌が直るまでしばらくの間、謝り倒し、褒めちぎり、撫で続ける事となった。


  結局、彼女の耳が元通りに復活し、尾が再起動するまでに十数分の時を要した。完全に俺の落ち度だとは思うのだが……これも今後は気を付けるべきなのだろうか?



「そうだ、シャノンさん」

「何でしょうか?」


 洗い物を終え、立ち上がるシャノンに声をかける。

 少しの間、動きが停止していたが、やはりこの子は非常に手際が良い。

 山の様に積まれていた洗濯物や食器を瞬く間に全て洗い終えてしまった。


 まだ俺とシルベリアは中庭に来てから何もしていないと言うのに……。


「刃物とか持ってません? キシルトの小枝の先端を切り落としたいんですけど」

「待ってくださいね、確か……――ありました、どうぞお使いください」


 俺が頼むとシャノンはエプロンのポケットから小刀を取り出し、渡してくれた。

 キシルトの小枝……要するに"歯木"や"房楊枝"と呼ばれる様な歯ブラシの代用品は、一度使うと使用部分を切り落として使うそうだ。それはこちらの世界でも例外ではなく、先端を切り落として一本の小枝を数回に渡って使うらしい。江戸時代の日本ではそれすらもせず、使い捨てるのが"粋"とされていた様だが……貧乏性の俺にそんなことは出来ない。きっちり使い切らせて貰うとしよう。


 ちょっとした小技で水を張ったコップに短くなったキシルトの小枝を漬けておいて、再生させるというファンタジー水耕栽培も出来るらしい。ただし、しっかりと管理しないとコップを破壊して養分を求めて伸び続けるので、気付くのが遅れると家がキシルトの樹に沈むそうだ……うーん、ファンタジー?


「ありがとうございます、助かりました。――シルベリア、頼むよ」

「はい、ご主人様。――えいっ」


 自分とシルベリアの分の小枝の頭を落とし、先端を彼女に捻って貰う。

 コシャッと音を立て、硬さなど感じさせずに潰されるキシルトさん。

 南無――。


「本当にすごいです……シルベリアさん」


 すごいよね……流石、俺の嫁。

 俺も筋力のステータスに100振っていればあんな芸当も軽々出来たのかな?

 筋力100と言わないから、せめて体力にもう少し振らせて欲しかった……。

 ホント、"後悔先に立たず"だな。故事ことわざが身に染みる。



「そういえば、今日の朝食を作ってくれるのはシャノンさんでは無いんですか?」

「はい、今日はアイリの担当ですね。でも寝坊しちゃったみたいで……」


 なるほど、それでシャノンが中庭で洗い物をしていたのか。

 少し残念だな、朝から彼女の手料理が味わえると思っていたのに。

 前日の朝食も簡単なものながら大したものだった。

 

 そしてアイリは寝坊か。

 昨日俺のファーストキッスを奪ってくれた上に寝坊とか……けしからんな。

 存外、フィリアさんに夜遅くまで説教をされていたりしたのだろうか?

 

 まあいいか、それよりも今は腹が減った。

 そちらの方が問題だ。


「――じゃあ今日の朝食はもう少し後になりますかね?」

「いえ、この後私が手伝いますから然程遅くはならないかと思います」


 ショコシャコ歯を磨きながらシャノンに尋ねてみると、期待の持てそうな返事が返ってきた。アイリの手腕を疑う訳では無いが……やはり信頼と実績のシャノンだ。安心感が違いますよ。


「お。つまりはシャノンさんの手料理を期待してもいい訳ですね」

「えへへ、パンとスープは私がご用意させていただきますのでご期待ください」


「やったぜ。――な、シルベリア?」

「はい、昨日のお料理もとても美味しかったので楽しみです!」

「だな。シャノンさん、俺も楽しみにしてますね」


「……これは、気合を入れなければいけませんね――」



 この後、洗顔と歯磨きを済ませた俺とシルベリアは一度部屋に戻り、簡単な外出の準備を済ませてから朝食をとる為に食堂へと向かったのだが――そこには予想していたよりも遥かにボリューミーな内容のメニューがずらりと並んでいた。それはもう、昨日のディナーに負けない様な豪勢なものが……。


 当然美味かったし、薄味で軽食的な物も多かったけど……もう朝から満腹だ。

 ボイルした例のもも肉もあったので、シルベリアも大層ご機嫌な様子だったが、今回は少しばかりシャノンをおだて過ぎたのかもしれない――。


_____________________________



「ご主人様、美味しかったですねー」

「お、おう。でも……昼食までに腹が減るか分からないなコレは」


 食事を終えた俺とシルベリアはそのまま食堂で休憩させて貰っていた。

 この後は街へと繰り出す予定なのだが、俺はまだ動けそうにもない。

 シルベリアも片付けが終わった机にへにゃっと突っ伏している。

 


 しかし、この時間を無為に過ごすのも勿体無い。

 満腹で動けない今の内に本日の予定を再度確認しておくとしよう。


 今日、やりたい事は大きく分けて二つ。


 ・最低限の日用雑貨の購入と薬品類の補充。

 ・シルベリアの冒険者登録と装備、衣類の用意。

 

 ――以上だ。

 他にも幾つか試したいこともあるが、今日はこの二種に絞ろうと思う。

 焦ってはいけない。入念に下準備を整えて万全を期すつもりだ。

 

 まずは最低限の日用雑貨の購入。

 これは来るべき日に備えてナイフやロープ、ランタン等の道具を揃えたり、『キシルトの小枝』やコップ、食器の様な日用品も買う予定だ。

 前者は何となく必要そうなものを挙げただけなので増えるかもしれない。

 後者はこの宿で世話になっている内は大丈夫だが、いずれは必要になるだろう。


 薬品類の補充はそのままだな。

 現在、解毒薬が一つ、回復薬も一つ減っている。

 これらの補充と買い足しも可能ならばしておきたい。

 過剰に買い足すつもりは無い。とりあえず三種類の薬を各十個ずつが目標だ。


 

 そしてこの次が本日唯一の不安要素。

 シルベリアの冒険者登録……だ。


 彼女は身分こそ奴隷ではあるが、冒険者登録は出来るハズだ。

 別に職業が奴隷な訳でも無いし、この国で奴隷は認知されている。

 奴隷を連れている冒険者も少数だが居るとも聞いた。

 冒険者ギルドに登録さえ出来ればシルベリアのカードを用いてパーティが組める様になり、更に彼女を通して間接的にクエストの受注も可能となるのだ。

 これは俺一人では不可能だったことだと言えよう。


 ――正直な所、俺は冒険者ギルドが怖い。

 もはやトラウマと言ってもいいだろう。

 ……が、恐れていては前になど進めない。

 俺とシルベリアの今後を左右するかもしれない案件なので勇気を出そうと思う。



 続いては彼女の装備と衣類の購入だが、こちらは何の心配もしていない。

 今、俺が居る街は通称「裁縫と鍛冶の街」とも呼ばれている。

 金に糸目さえ付けなければ、装備品も良いものが揃えられそうだ。

 そして金にはまだ余裕がある、シルベリアの為にも出し惜しみせずに行こう。

 『万能金貨』万歳! お前は俺の手持ちでも最高峰のアイテムだぜ!


 衣類に至っては完全に心配ご無用だ。

 ここティオールには、Lv46のスーパー『仕立て屋』が店を構えている。

 彼を頼れば間違なく最高の品をシルベリアに贈ることが出来るだろう。

 ついでに追加で依頼したい品もあるので、タイミングも丁度良い。



 以上を踏まえて本日のデートコースを設定すると――、


 まずは雑貨屋、続いて冒険者ギルド。

 そして武器、防具屋あるいは鍛冶屋。

 締めに洋裁店『ラ・トワール』といった所か。

 後はそのまま宿に戻ってフィニッシュだ。


 ――完璧だな。スムーズに回れれば夕方までには全てが終わるだろう。

 家族以外の女の子とショッピングなんて人生で初めての経験だが……。

 これできっと万事上手くいくハズだ。


「ふふふ……今日は楽しい一日になりそうだ」

「……ご主人様?」


 おっと、期待に胸を膨らませるあまり、思わず口に出てしまっていたらしい。

 シルベリアが机に寝そべりながら俺を見上げている。

 口角が上がるのを抑えられないまま俺は彼女の頭に手を伸ばし、そっと撫でた。

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