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第13話 二人に挟まれても強く生きたい

新たにブックマーク、評価をして下さった方々、ありがとうございます!

そしてこのシリーズを読んで下さっている方々、いつもありがとうございます!

これからも楽しんで頂ける様に精進させて頂きます。

「ちょ、あの……、話をッ!」

「お引き取りください!」


「金なら有りま――」

「関係ありません。さっさと出て行ってください!」


 目の前に居る女性は俺の言う事に全く耳を貸さず、両手でグイグイと俺が入って来た扉から押し出そうとしてくる。完全に入店拒否の構えらしい。

 一応、踏み止まろうと抵抗はしているのだが体はジリジリと押しやられ扉を越え、店外へと運ばれていく。どうやら俺のSTR(筋力)では目の前の女性にすら対抗出来ない様だ。……胸に情けなさが込み上げて来た。

 そして遂に完全に店外へと押し出され……ドンッ! と、仕上げだと言わんばかりに彼女は俺を思い切り突き飛ばした。

 身体に衝撃を受け、バランスを崩し視界がぐらつく。


「うわッ――」


 俺は直後に来るであろう痛みに備え覚悟を決めた……のだが、

不意に背後から右肩を誰かの手に掴まれ、バランスを持ち直した。

 振り向き、肩に置かれた手の主を確認すると――、


 俺の真後ろには黒髪で長身の男性が立っていた。

 服装は白いシャツの様な服に黒いベスト。服には肩口から肘あたりにかけて黒い帯の様な物が付いている。

 身長はかなり高い。彼の肩辺りに俺の頭がある。ここに来るまでに出会った人物の中でも背丈だけならばダントツの一番では無いだろうか?

 彼は俺を一瞥し小さく首を傾げた後、今しがた強引な入店拒否をかましてくれた女性に声をかけた。 


「エイミー……、コレ(・・)はなんの騒ぎですか?」


「あ……。先生おかえりなさい」


「……私は貴女に何をしていたのかと聞いているのですよ?」


 "先生"と呼ばれた人物は目の前に居る女性をエイミーと呼び、彼女の言葉を無視するかの様に問い詰める。その声は感情を感じさせない冷たく機械的な物だ。


「は、はい……、この方がお店に入ろうとなされたのでお引取りを願ったのですがなかなか聞き入れて頂けなくて……」


「……店に入ろうとなされたという事は当店のお客様では無いのですか?」


 エイミーと呼ばれる女性は俺を店から押し出していた時とは違い、おどおどと怯える様な調子で言葉を返している。どうやらこの"先生"の事が余程怖いらしい。


「いえ、その……、格好があまりにみすぼらしかったので……先生にお通しする迄も無いかと判断致しました」


 彼女は萎縮しながらも俺を店から追い出した理由を述べた。

 入店拒否はどうやら彼女が俺の身なりを見て勝手に判断したらしい。


 コイツ……、言いたい放題いいやがって……。


 少しムッとしたので何か言ってやろうと思ったのだが――、



「エイミーッ! 貴女の目は節穴ですかッ!!」



 ――不意に俺の背後から大音量の怒声が放たれた。

 その声は昼前のティオールの青空の下、山彦を伴い響き渡った。


「ひ、ひゃい!?」


 エイミーはその声に飛び跳ねて驚き、まるで訳が分かっていない様な返事をしている。ちなみに俺も彼女と同様に飛び跳ねた。声デケェ……。

 そして"先生"と呼ばれる男性は目を瞑りスッと軽く息を吸い込むと、先ほど大声で叫んだ人物とは別人としか思えない静かな口調でエイミーに指示を出した。


「すぐにこのお客様を奥までお通ししなさい。

 ……くれぐれも丁重にお持て成しする様に」


「ですが先生――」

「……エイミー? これ以上私を失望させないで下さい」


「はい。申し訳ありません先生……」


 エイミーはいまいち納得がいっていない様子だったが、"先生"に言われ渋々といった面持ちで返答した。そしてスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げてから会釈し、足早に店の奥へと消えていった。


「全く……。謝罪する相手が違っているでしょうに」


「あ、あの……」


 彼女の後姿を見送りながら呆れた様に呟く"先生"に俺が恐る恐る声をかけると、

彼はこちらに向き直り深々と頭を下げた。


「不肖の弟子が失礼を致しました。申し訳ございません」

「いえ、それは大丈夫なんですが――」


「申し遅れました。私はアルベルト・ベルティーニと申します。

 当店『ラ・トワール』を仕切らせていただいております――、

 ……一介の仕立て屋でございます。」


 ゆっくりと顔を上げ、こちらを見据えながら彼はそう答えた。

 その顔は終始無表情で氷の様な冷たさを感じさせる。

 年齢は顔付きはだけならば若く見えるのだが、落ち着いた雰囲気でどことなく

威厳を感じさせる佇まいをしており、恐らく二十代か三十台といった所までしか予想出来ない。

 

 エイミーはアルベルトの事を"先生"と呼んでいた。

 そして彼はこの店の仕立て屋であり、エイミーはその弟子らしい。

 ……噂の"変わり者"はどうやら目の前の男性の事の様だ。


_____________________________


 ――十数分後、洋裁店『ラ・トワール』店内奥――



「うっ……ふぅ……」

 

「お客様、お加減はいかがですか?」


 二人の女性が俺の身体に手を滑らせながら上目遣いで尋ねてくる。

 室内にはピチャ……ピチャ……と液体が出す湿った音と俺と彼女達の声だけが響いている。


「ああ……とてもイイ感じです……」

 

 恍惚の表情を浮かべながら俺は彼女達にそう伝えた。


 俺は"先生"こと「アルベルト・ベルティーニ」から自己紹介を受けた後、最初に入店した時とは真逆にアルベルトに店先から店内へ押し込まれる様にして再度入店し、更にその直後黒と白のツートンカラーのエプロンドレス――所謂メイド服姿の女性二人に両脇を固められて店の奥の部屋まで連行された。


 そして今、俺は全裸で椅子に腰掛け、メイド服の女性二人からサービスを受けている。……しかしそれはいたって健全な物だ。

 最初にぬるま湯で浸したタオルで全身満遍なく拭かれ、今は良い香りのするオイルの様な物を全身に塗られている。一度も行った事はないが美容エステが近い表現だろうか? 一応、全裸は全裸だが下半身の大事な部分には厚手の布がかけられており、その場所にはノータッチだ。

 柔らかい手で優しくマッサージをしながら塗り込まれるソレはとても心地良く、昨日からまともに眠っていなかったせいか思わず居眠りをしてしまいそうになる。


 つい目を閉じ、そのまま意識を手放しそうになった時、


「失礼致します。……先程は誠に申し訳ございませんでした」


 俺の横から先程から居る二人の女性とは別の女性の声が聞こえた。

 ――この声は聞き覚えがある。

 俺が目を開けるとそこには、折りたたまれた白い布地と布製の履物を抱えたエイミーが立っていた。そして彼女は抱えていた物を俺に差し出しながら、


「代えのお召し物を御用意致しましたのでこちらをどうぞ」


 そう言った。その口調は丁寧かつ礼儀正しく、淑女然としたものだ。

 最初に入店拒否をかましてくれた時とはエライ違いだ……。

 

「ありがとうございます。……それとあの事(・・・)はもう気にしてませんよ。エイミーさんも気にしないで下さいね」


 俺は差し出された服と履物を受け取り、礼を言いながら努めて笑顔で彼女にそう返した。

 正直、全く気にしていないかと問われればそんな訳は無い。

 だが謝罪をしてきている相手にいちいち文句を付ける程の事だとは思わない。

 さっきからの店側の対応もおそらくその件に関しての侘びが含まれての事だろう。ここは自分の腹の中に収めておく事にしよう。

 まぁ……お気に入りの甚平をみすぼらしいと言われた事に関しては当分忘れないと思うが。


「そう……ですか、ご寛大なお言葉を頂戴し、恐縮でございます」


 俺の言葉を聞いた彼女はそう答え、恭しく頭を下げた。

 口調こそ固いが声色には安堵が含まれている様に感じられた。こちらの意思はきちんと伝わっているのだろう。顔を上げた時も笑顔……とまではいかないが緊張が解れたのか自然な表情だった。


 初対面の印象こそ最悪だったがこうして見るとエイミーもなかなかの美人だ。

 いや、美人系というよりは可愛い系か。金髪で後ろ髪をまとめたシニヨンと呼ばれる様な髪形をしている。瞳は緑色で肌は色白だ。

 年齢は少し身長が低いせいで予想しにくいがおそらく十代後半から二十前後だろうか? バストは背丈の割には……並だ、それ以上でも以下でもない。

 彼女も他の二人と同じメイド服を着用しており立ち振る舞いも含め正に正統派メイドと言っても良いだろう。

 ……少し彼女に興味がわいたのでステータスを表示させ、確認しておく事にした。


 エイミー・ウィンドハルト 裁縫師:Lv10


 おお、裁縫師なのか。

 メイドとか表示されるかと思ったけど……アルベルトが弟子って言ってたもんな。裁縫師のLv10がどの程度のものなのか分からないけどまさかモンスターと戦って上げる訳じゃないよな……。この手の職業はおそらく職に関連した作業や物品の製作でレベルが上がると相場が決まっているハズだ。

 ……そういえば屯所にいた衛兵のクラウスもLv10だったか。比べても仕方ないけど彼女は職業に就いている者としてはクラウスと同格って事か。うん、分からん。


 ふむふむ……と考察していると彼女の後ろの扉が音も無く開き、アルベルトが

部屋に入ってきた。彼が入ってくるとエイミーは脇に下がり、俺にマッサージを施してくれていた二人は軽く頭を下げ、部屋から退出した。

 

「お客様、いかがでしたか?」


「ええ、すごく良かったです。それにこの服も着心地が良さそうですね」


 アルベルトが聞いてきたので感じたそのままに答えた。

 エイミーに渡された服……おそらくはガウン、それもバスローブの様な物だろうか? それは手触りが良く、素人目で見ても分かる程丁寧に作りこまれた物だった。

 履物の方も同じだ。形は普通のスリッパその物なのだがこれもモノが違う。


「そうですか、それは良うございました。……ではどうぞお召し下さい」


 アルベルトがそう言うのでオレは椅子から立ち上がりガウンに袖を通し履物を履いた。立った時に腰にかけていた布がハラリと落ちたが何も問題などない。……アルベルトとエイミーの視線がより一層強い物になった気がしたが……きっと気のせいだろう。そしてガウンの腰帯を締めながら、ふとアルベルトの方を見て思った。

 エイミーの師匠らしいけど、この人……どんなもの(・・・・・)なんだろうか?

 正直ここまで良い対応をして貰っておいて疑う様で気が引けたのだが……、湧き上がった好奇心には勝てなかった。

 そしてエイミーに続いてアルベルトのステータスを表示したが――、



 アルベルト・ベルティーニ 仕立て屋:Lv46



 ――少し見てはいけない物を見た気がした。


 レベル高っけえ! そこらの兵士の三倍近いかそれ以上じゃないか……。

 職業が違う様だけどエイミー四人分以上だ。

 俺に換算すると……いや、比べるだけ無駄か。

 軽く動揺しつつ俺は腰帯をしっかりと締め、ガウンの着付けを終えた。


 しかし、"変わり者"呼ばわりされてたけど接客態度は良いし、レベルを見た時は驚いたけど腕は確かって事だよな? 今着ているガウンも凄く良い物だ。元居た世界でもこれほど着心地の良い物はあまり無かった。


「「お客様、どうぞこちらへ――」」


 俺が着付けを終えたのを確認してアルベルトとエイミーが両開きの扉を開き、

そのまま両側で待機している。促されるままに俺はそちらへ向かって歩き、扉をくぐり、店の奥から多くの衣服が並ぶ店内へと再び足を踏み入れた。


「――改めまして……ようこそ、『ラ・トワール』へ」


「――本日はどの様な御用向きでございましょうか?」

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