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第12話 見た目に惑わされず強く生きたい

「一つ、二つ、三つ……――」


 雑貨屋のお姉さんが店先で木台の上に声を出しながら液体の入った瓶を並べていく。瓶の中身はそれぞれ赤、青、緑色で透明感のある色鮮やかな物だ。

 例えるならばかき氷のシロップが近いだろうか?

 イチゴ(赤)、ブルーハワイ(青)、メロン(緑)といった具合だ。

 余談だがあのシロップ、味は全て同じ物だそうだ。着色料と香料が違うだけの差で全く違うものに感じているらしい。視覚と嗅覚の錯覚によって脳がそう思い込むのだとか。更に深く追求すると嗅覚と味覚の関連性も云々かんぬん……。

 昔、テレビのバラエティ番組でこの事実を知って驚いたのを覚えている。今となってはホントにどうでもいい話だが……。

 こっちでも頑張れば再現できるかな?

 材料さえ揃えばできそうな物だが。そんな事を考え耽っていると……、


「――七つ、八つ。はい、三種類八本ずつ、全部で二十四本。これで間違いないね?」


 ……お姉さんがそう宣言したので俺は台の上を確認した。三種類の色の瓶が各八本ずつキレイに並べられている。疑う訳では無いがモノの見た目と効果のすり合わせも兼ねて目の前の色とりどりの瓶の群れに意識を集中させる……

_____________________________

 『特上回復薬』 (赤色)

 身体に受けた傷とHPをかなり大きく回復する。肉体的疲労もやや回復する。


 『特上精神回復薬』 (青色)

 精神に受けた傷とMPをかなり大きく回復する。精神的疲労もやや回復する。


 『特上解毒薬』 (緑色)

 毒・猛毒状態を始めとする毒全般に対して大きく解毒作用を発揮する。

 使用時、短時間毒に対しての抵抗効果を付与し、多少の殺菌効果も与える。

_____________________________


 ふむふむ……。

 赤は知ってた。身体の傷を治すヤツだ。

 「かなり大きく」というのはどれ程の物なのかが気になる所だけど……。おそらくはクラウスに貰った物以上の効果はある筈だ、期待しよう。

 一応疲労回復にも効果があるらしい。そういえば屯所で足に塗りこんだ時にそんな感じはあったな。


 青がMP回復用か。コレも効果の程は要検証だ。

 精神に受けた傷と精神的疲労も回復するそうなのだが……。

 具体的にどういうモノが該当するのやら……心の傷にでも効くのだろうか?

 説明的になんだかほんのり危険な香りがしないでも無い。

 主に中毒に陥る薬物的な意味で。


 緑はそのまんまだ。所謂毒消し、解毒薬だな。

 「毒全般」ってのは案外範囲が広そうだ。値段も高めみたいだけどコレ一本で色々な毒に対応出来るならありがたい。しかも毒抵抗のオマケ付きだ。毒を治してまた即毒状態……なんてのはゲームではよくある話だ。「短時間」とはいえその繰り返しを防げるなら助かる。

 多少の殺菌効果ってのも馬鹿に出来ないと思う。傷の消毒とかにも使えそうだし、この世界の衛生観念がどれ程の物かも分からない。覚えておこう。


「……何か商品に気になるトコでもあったかい?」


 不意に雑貨屋の女性に声をかけられた。

 イカン、知らず知らずの内に瓶を眺めながら長考してたらしい。


「いえ、問題ありません。……複数並べるとキレイなものだな。と見とれてしまいました」


 答えつつ適当な言い訳で誤魔化す。「お姉さんもお綺麗ですね」とか気を利かせたお世辞にでも繋げようとしたが余計な事は言わない。

 確かにスタイルも良く顔立ちも美人な方だと思うが……そうじゃない。今は他にも用事がある。どうせしばらくはこの街を拠点にするつもりだ、……仲良くなるのは後からでも遅くはない。


「そうかい? ……まぁ確かに綺麗だとは思うね。他に用入りがなければお会計させてもらうけど大丈夫かい?」

 

 他に買う物か……。ああそうだ。


「少し衣服も見させてもらっても良いですか?」


 俺は店内の衣類が陳列されてある棚を指差しながら女性に聞いてみた。

 服や下着の替えも数枚ずつは欲しい。

 ここで済むなら済ませてしまった方が楽だろう。


「ああ、いいよ。見ていっておくれ。服の大きさは表に出してる分しかないけど……アンタの体型ならたぶん大丈夫さ」


「わかりました、じゃあ見させてもらいますね」


 そう答え俺は手に持っていた巾着袋を甚平の中に隠すようにインベントリに収納し、店内にある衣類を品定めし始めた……のだが――

 

 コレは駄目だ。


 コレも駄目だ。


 コレ……というかどれも駄目だ……。

 俺の肌に合いそうな仕上がりの物が無いッ!

 

 ――失礼な話だがこの店には俺の好みに合いそうな物は一つも無かった。


 インナーや上着、果てはマントまで一通り目を通したのだがどの品物も

なんというか……()だ。

 造りが荒かったり、素材が少し肌に合わない様な質感だったり……。

 つい、元居た世界基準で比べてしまう。

 決してそこまで選り好みをしている訳では無いハズなんだけど……多分。

 "裁縫と鍛冶の街"って聞いて少し期待していたんだけどなぁ。

 

 むむむ……と衣類と睨めっこしていると、


「おや、ウチにはお気に召す服が無かったかい?」


 どうやらその姿を雑貨屋の女性に見咎められてしまった様だ。

 口調も表情もさっきまでとは変わらないが、自分の店の品物を客が取っ替え引っ替えしながら険しい顔で唸っていては良い気分はしないだろう。


「えっと……あの、その、……すみません」

 

 俺は素直に謝った。

 咄嗟に言い訳が出なかったのもあるが……本当の事だもんな。

 彼女に怒られる覚悟を決めていると、


「あははっ! 謝る事は無いよ? 実際そこに有るのは安物さ、さほど良い物じゃないよ。仕入れた私が保証する!」

 

 彼女は俺に笑いかけながらそう言った。どうやらお怒りでは無いらしい。

 うん、気にしていないならそれでいいな。俺はホッと胸を撫で下ろした。


「お客さん、格好は変わってるけど実は貴族か何かなんだろ? それならウチで扱うような衣服じゃあ満足出来なくて当然だよ」


 んん? 貴族……?

 今度は予想外の言葉が飛んできた。

 俺に貴族要素なんて有っただろうか?


「え、俺貴族に見えますか?」


 思わず聞き返した。


「そりゃ、着ている服や履物だけだとそうは見えないけど、育ちは良さそうだし? 顔立ちも良いしねぇ……それに回復薬にポンと大金を出せるんだ、一般人とは思えないよ」


 そういうものなんだろうか……。

 イケメン補正、金持ち補正と言うヤツか?

 まぁいいか、折角なので乗っかろう。

 ついでに聞いておきたい事も増えた。


「ええ、まぁそんな所です。それで……それなりの衣類を見繕いたいのですが、

そういうお店に心当たりはありませんか?」


「衣類ねぇ……この街で『それなり』って言うと結構な金額の買い物になっちまうけど平気かい?」


「金ならありますんで」


 と、そう答えると彼女は快く「それなり」の洋裁店の場所を教えてくれた。

 なんでもこの街でも指折りの仕立て屋が仕切る店だそうだ。

 仕事が速く尚かつ丁寧で、扱う服のセンスも中々のものらしいのだが……


「気難しい性格でね……まぁこの街の職人連中なんて例外なくそんなモンなんだけどさ」


 その中でも特に"変わり者"として有名らしく、気に入らない相手の仕事は一切受け付けないとの事だ。

 そんな気難しい相手の所にわざわざ行く理由などあるのだろうか?


「他の人のお店でお願いします」俺は即座にそう言った。だが……


「ああ、駄目駄目。お客さん予約入れてないだろう? 今の時期、他はどの店も

予約で一杯で相手して貰えないよ」


 ……ダメだった。今の時期は繁盛期か。

 しかし教えてくれた店は予約無しでも大丈夫なのか……。

 どうやら相当に仕事を選ぶ人らしい。

 そもそも俺がその"変わり者"に相手にされるのか疑問なんだが。


 むう……、ならば……。


「では今から仕立てるのでなく既製品で良い物を扱うお店は……?」

「はは、侮っちゃいけないよ? 普通に出回ってる品物ならウチが一番さ。他は

何処も似たようなもんさ」


 じっ、と俺を見つめながら彼女はそう言った。

 口調と表情は笑っているが目が笑っていない。

 自身の店で取扱っている商品には自信がある……という事か。

 言われてみれば回復薬も比較的安いであろう物から高級品ぽいのまで揃ってたよな。衣類も俺の好みにこそ合わなかったが種類は豊富だったと思う。

 品質も品揃えも確かな店の様だ。


「参りました。お姉さんが教えてくれたお店に行く事にします。お会計お願いします」

「それがいい、美人(・・)なお姉さんの言うことは聞いておくもんさ。二十四金貨だよ」


 俺は観念して美人(・・)なお姉さんにお会計をお願いした。

 『万能金貨』を甚平の中から取り出したように見せかけ再度インベントリから出す。

 一応アイテムをインベントリから取り出す時は隠す事にした。

下手に見せびらかすとトラブルの種になりかねない気がするからだ。

 そして俺は巾着袋の紐を緩め、中に手を突っ込んだ。

 すると……グニュッとした奇怪な感触に指先が包み込まれる。


 うわ、なんだコレ。


 袋の中身は弾力がある柔らかいゲル状……スライム的な感触の物だった。

 この大きさの袋に金貨千枚は無いと思ってたんだけど予想外すぎるぞコレは。


 落ち着け、取り乱すな。コレもアイテムだ。

 いつもの様に意識を向け「金貨二十四枚」と、そう念じながら袋の中の柔らかい物体を掴むと、掴んだ部分が千切れ手の中に納まった。そしてその握り込んでいる物の感触が軟質の物から硬質の物に変わったので手を袋から引き抜くと――、


 チャリン、……チャリン――と、小さな金属音が足元に続けて鳴り響き、俺の手の中から多数の金貨が零れ落ちた。

 二十四枚は少し多すぎたらしい。次々と指の間から金貨がすり抜けていく。


「おっと、一気に掴み過ぎだよ……。横着しちゃ駄目だよ?」

「おおう、すみません」


 お姉さんが咄嗟に両手を差し出して受け止めてくれていた。俺はゆっくりと手を開きお姉さんに手の中の金貨を全て受け渡し、地面に落ちた数枚の金貨を拾い上げ手渡した。


 次から使うときは数枚ずつ小出しに出さないと駄目だな……。

 言われた通りだ、横着するもんじゃない。

 

「うん、全部で二十四枚。確かに受け取ったよ。毎度あり」


「はい、ではありがとうございました。お店の場所も教えて頂いて助かりました」


 俺はそう言いながらガチャッと音を立て、瓶の大量に入った布袋(・・)を持ち上げた。

 ちなみにこの布袋は大量の瓶を持ち運ぶのに不便だろうとお姉さんがオマケしてくれた。


「いいさ、困った時はお互い様だろ? あたしも朝から大売り上げで助かったよ。また何か御用入りの際はうちをよろしくね?」


 お姉さんはパチッと片目を閉じてウインクを投げ、笑顔でそう言う。

 素敵な笑顔だ。話をして人物を知った後だとさらに魅力的に映る。

 少し……顔が熱くなった気がした。俺は惚れっぽい性格なのかもしれない。

 まぁ、向こうは良いお客さんだと思っているだけだ。夢を見てはいけない……。

 そう自分に言い聞かせながら、


「ええ、また寄らせて貰います。では、失礼しますね」

 

 そう告げ、俺は美人なお姉さんに一礼し、雑貨屋を後にした。



 その後、俺は少し歩き人目に付かなさそうな壁の隙間にサッと入り込み、周囲の目が無いのを確認してからインベントリに瓶がぎっしり詰まった布袋を格納する事を試みた……。結果は何の問題もなく成功だった。もはや手慣れた感覚と手順であっさりと俺の手元からインベントリに移動してくれた。

 これでガチャで得たアイテム以外も収納可能だという事が確認出来たのだが、他にも収納限界数や収納可能な大きさの限度等その他気になる事は尽きない。これからも随時調べていこう。

 ただインベントリを使う際に毎回コソコソするのも面倒だ。今後は袋か何かからアイテム等を出し入れする振りでもして誤魔化すべきかもしれない。


 さて、次にやるべきは――、

 

 ――確か……雑貨屋から二つ目の角を曲がって。


 ――で、その正面の坂を道なりに進んで。


 お姉さんに教えて貰った道順を頭の中で反芻しながら街を歩いて行く。

 緩やかな坂道なのだが朝の日差しが照りつける中、それなりの距離を歩いたせいで額には汗が浮かんでいる。


 ――急な角度で大きく曲がった後、その正面突き当たり。


 ――お、ここかな?


 どうやら目的の場所に辿り着いたようだ。

 俺はこの街では比較的珍しい全木造建築の建物の前に立っていた。


 ここが例の変わり者の仕立て屋が仕切るという店で恐らく間違いないだろう。

 建物の特徴も教えて貰ったソレと一致する。正面には大きなショーウィンドがあり、ガラス越しにシックな雰囲気のドレスとタキシードの様な服が飾られている。


 実はここに到着する迄に数件程度だが衣服を扱っていると思われる他の店を通り過ぎた。だが、その店先に展示してあったのはもっと派手でフリルの様な飾りが沢山付いた物ばかりだった。一方こちらに展示してある衣装は余計な装飾が全然付いておらず、動きやすそうな造りで飾りもほぼワンポイントに付いているだけだ。

 どちらかと言えば俺は他店よりこの店のデザインの方が好みだ。変わり者で気難しいとは聞いたが服のセンスは間違いなさそうだ。もし断られたら雑貨屋で見たような市販品で我慢しようと思っていた。しかしここに来てこの店で衣類を揃える以外考えられなくなってしまった。


 断られたらどうしよう……。

 不安と期待が胸の内で混ざり合うのを感じながら店の入り口であろう木製の扉に歩み寄り、俺はグッと力を込め店の扉を押し開いた。

 

「すいませーん!」

 

 少し大きめに声を上げながら扉を開けると、木の匂いと花の香りが交じり合った様な何とも言えない芳しい香りが漂ってきた。独特な芳香だが嫌な匂いではない、

むしろ好ましいモノだ。


 そして店内に入ってすぐ、近くから女性の声が聞こえてきた、のだが――、


「はーい、いらっしゃいま――……失礼ですがお引取りください。」


「へ? いや……俺は服を!」


「当店は貴方の様な方の依頼はお受けしません! お引取りください!」


 ――俺は早速入店拒否を受けるハメになった様だ。

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