プロローグ
数多くの先達方の素晴らしい作品を読み耽っていたら遂に脳内に溢れている物を堪えるのが我慢出来なくなったので徹夜明けのテンションのまま思い切って投稿させて頂きました。
大好きなジャンルである「奴隷ハーレム」を目指して進めて行きたいと思っております。
お見苦しい所が数多くあると思いますが楽しんで頂ければ幸いです。
住宅街からやや外れた場所に建つ一軒家。
その二階、四畳半の広くも無ければ狭くもない自室。
時刻は二十二時 平日の金曜日の夜である。
黒い甚平を着込んだ男がPCのモニタ前の椅子にダラリと腰掛け、
PCの電源を点けた。そしてPCの起動を待つ間、愛飲している炭酸水に口を付けゴクゴクと飲み下す。聞き慣れた起動音が聞こえ、デスクトップ画面が表示されたので、マウスを操作し友人達(ネット仲間)と常用しているコミニュケーションソフトのログインメンバーのリストを確認するが――、
「この時間はまだ皆居ないのか」
――自分以外のメンバーは離籍中か未ログインのアイコンで埋まっている。
少し落胆しながらも所属しているグループのチャット欄に、
『こんばんは! 二十四時以降に人が集まるようでしたらニ~三時間程いつもの
FPSやりませんか?』
と、一文字ずつ声に出しながら打ち込み画面を閉じた。
自分以外のメンバーからチャットが打ち込まれると『ピコッ』と独特のSEが鳴るので判る様になっている。
「これでよし、と――」
――暇になってしまった。
他には特にこれといった予定も無い。
せっかくの週末だ、どうせならゲーム三昧で夜更かししてすごしたいところだ。
今からネット仲間たちとプレイする予定のゲームはFPS。
チームに分かれて市街地や島のステージで撃ち合うポピュラーなものだ。
FPSは少し前から付き合いでプレイしているのだが体質に合わないのか酔う。
最近はマシになったが長時間続けると画面酔いしてしまうので普段一人の時はプレイしない。ソロプレイでも楽しいがメンツが集まって盛り上がってきた頃に自分だけ酔ってしまい先に落ちることが何度かあったので自粛している。
なので、メンバーが集まるまで何か暇つぶしになるようなネットゲームでもないものかと考え、さっそく検索することにした。もちろんFPS以外で、だ。
「久しぶりにRPGみたいな感じのでもやりたいけど……」
口には出してみたがどうも気が乗らない。
以前、MMORPGにドハマリしていた時期があり、PCを新調したり比較的重めのゲーム内課金もしていた。だが、やがて時間が経つにつれて熱も冷め、所属していたギルド内でのちょっとした諍いを期に逃げるように辞めてしまった。
それ以来は避けているジャンルだ。
……久しぶりに思い出してますます気分が落ち込んだ気がした。
「まぁ、検索するだけしてみるか」
呟きつつ検索欄に『RPG ファンタジー』とだけ雑に打ち込み検索をかける。
検索結果のTOPには『貴方にオススメ!ハイファンタジーRPG!』
と銘打ったサイトが出て来た。
「……いかにもってのが出て来たなオイ」
苦笑しながらもクリックするとコーラス付きの荘厳なBGMと共に公式サイトが開かれ、メニュー項目が表示されたので、左から右へとそれを確認していく。
「ストーリー・世界観……、はパスでいいや」
そんなのはゲーム開始してから追々でいいんだ。それより気になるのは――、
「お、クラス紹介・キャラメイク!」
コレだよコレ!
探していた項目を見つけてやや興奮気味にマウスカーソルを重ねる。
個人的にキャラメイク・職業選択はこの手のゲームで一番楽しい瞬間の一つだと思っている。
「あれ……? ゲームプレイ画面の紹介とかデモPVみたいなのは無いのか」
公式サイトの項目は『ストーリー』『世界観』『クラス紹介』『キャラクターメイキング』の四つのみ。それどころか改めて確認するとゲームのタイトルも無い有様だった。
「ま、いっか」
久しぶりのキャラクターメイキング・ビルドに、下がっていたテンションも上がって来たので特に気にせず次に進めることにした。
クラス紹介の項目をクリックすると画面が切り替わり職業が系統別に表示される。最初は『戦士』『剣士』『格闘士』等、分かりやすい職業が表示された。
が、そこから目まぐるしい速度で縦並びに増え、瞬く間に画面の上から下まで埋め尽くされた。
職業の数が結構多いな……。
そんなことを思っていたら――、
「え……マジか。なんなのこの数……」
――思わず言葉を失った。まだ増えている。
右側にスクロールバーが表示され段々と短くなっていく。
結局は全画面の五分の一程までバーが縮んでしまった。
「と、止まった」
軽く戦慄しつつも画面を観ると、恐ろしいことに気付いた。
『基本職:表示ON』『派生・複合職:表示OFF』『上級職:表示OFF』
……まだ増えるらしい。
よし! 後回しにしよう。
面倒は後でいい、鉄は熱いうちに打たねば!
俺はキャラクターメイキングの項目を開くことにした。
キャラクターメイキング画面まで進んで気付いた事があった。
このゲームはメンバー登録や公式サイトへのログイン無しでキャラクタービルドまで出来るらしい。
登録不要でキャラ作成~チュートリアル終了辺りまで遊べるんだろうか?
「んー、その後に登録とかかな?」
ネットゲームの基本的な流れは知っているが詳しい所までは判らない。
首を傾げつつもキャラクターを作成していく。
性別は……一人目は男性にしよう。
もしハマるようなら二人目で女の子だな。それも可愛い奴な!
次は身長・体格。
身長は基準分かんないし初期でいいや。体格も初期で。
最後にバランスが悪そうなら弄ろう。
顔・髪型、ここは妥協しない。
最初のキャラメイクで「最初のキャラは全部デフォ」とか「ウケ狙いのネタキャラ」に走る人も居るがそこだけは譲れない。
もしかしたら長い時間付き合うかもしれないキャラクター……。
それは言うなれば自身の分身ともいえる存在だと俺は思っているからだ。
とりあえずのイメージ用に携帯端末を取り出し自身が最近ハマッているゲームアプリを起動する。職場での休憩時間や自宅でも暇な時に遊んでいる物で、人気の声優陣達が名を連ね、キャラクターも格好良いのでそれなりにお布施をしているゲームだ。
そしてガチャで当てたお気に入りの高レアキャラクターを表示させ、ソレを参考にキャラクターを整えて行く。
「こんなもんかな」
頭髪は少し暗めの薄っすら黒色混じりの銀髪にややウェーブがかった髪型。
肌はデフォルトからやや色白に変更した。
瞳は金色でややするどい目つき。
ちなみにチャームポイントは笑ったときに見える八重歯もとい犬歯だ。
メイキング中に表情変更で「狂笑」を選択してみたらギラギラした目付きで犬歯を剝きだしにして素敵なオリジナル笑顔を披露してくれたので会心の出来な自信がある。
「次は職業と基本ステータスか」
正直クラス紹介の数を見て圧倒されてて職業を選ぶのが億劫な感がある。
しかしキャラメイクを頑張っただけにここで引き下がる訳にもいかないので覚悟を決めて職業項目をクリックした。
『ティロリロン☆』
不思議なSEが鳴り響き直前まで流れていた荘厳なBGMが急にコミカルなBGMに切り替わった。
「んんん??」
顔をしかめていると画面中央にメッセージが出てきた。
『最初に選択したい職業または目標にしたい既に職業はお決まりですか?』
という文章と同時に『YES』『NO』の選択肢が表示された。
なんだろう?
よくある「向いてる職業診断テスト」みたいなものか?
初期で選択できる職業多そうだもんな。あっても不思議ではない。
まぁ参考までに……と『NO』を選択する。
そうすると『最初に選択したい職業または目標にしたい職業が既に決まっている場合はその職業に応じた"ハズレ無しのガチャ"を五回プレイする事が可能です』
と表示された。
想像してたのとは違った。
ああ、アレか? 序盤の初心者救済とモチベ維持の為のガチャって感じか?
よく分かっていないが分かった体にしておく。
続いて画面に表示されたのは……、
『最初に選択したい職業・目標となる職業が決まってない場合は選択前に限り"二回当たりが確定の10連ガチャ"をプレイする事が可能です』
『職業を先に設定しますか?』 『YES』『NO』
コレどっちが得なんだろうね? ガチャの内容見て選びたいんだけど。
どうやら見れないらしい。
内容に余程の差があるか、運に自信がない限りは「職業に応じたハズレ無し」ってのが安牌だよね? 現状だと。こういうギャンブル的なので勝ったこと無いし無難そうな職業選んで安全に行こ――、
『ピコッ』
お。
グループチャットに反応があった。
『こんばんは、今帰宅したのでお風呂ご飯諸々済ませてからでよければ是非』
よく一緒に遊ぶネトゲ仲間の『ボムさん』からだった。
『おかえりなさい。じゃあそれまで他ゲーして遊んでます』と即座に打ち込む。
『了解しました。急ぎますけど今からだと二十四時は過ぎるかもしれませんがすいません』と応答があったので、
『いえいえ、ごゆっくりどうぞ。明日から休日ですし無理せずに遊びましょう』
そう打ち込み、PCで時刻を確認する。
23:32
二十四時は過ぎるかもしれない……か。
その間にチュートリアルまでは終らせておくか。
そう思い、チャット画面を閉じて中断していたキャラクタービルドを再開する。
先に職業選ぼうと思ったけど多いんだよなぁコレ……。
あんまり長引いてボムさん待たせるのも悪いしガチャはこっちでいいや。
『先に職業を選択しますか』は『NO』を選択することにした。
続いて『職業を選択せず二回当たり確定の10連ガチャをプレイしますか?』
『YES』『NO』と表示されたが、そんな選択肢が出る気がしていたのでノータイムで『YES』をクリックする。
『ドゥルルルッ!』
画面中央にルーレットにも羅針盤にも見える様な円形の物体が現れ、羽根やら光やらを撒き散らしながら回転を始める。回転速度が加速していき画面全体が段々と激しい光に覆われ、その中心から宝箱が出現した。そしてアイテムらしき物体が描かれた画像が「GET」の文字と共に表示された。
『おめでとうございます! 『双子女神の首飾り』を入手しました!』
「お、おう」
『おめでとうございます!』と言われても当たりなのかハズレなのか……効果すらも判らない。しかもあの光かなり眩しい。眼に悪いぞ。
ド派手で眼が痛い演出をスキップ出来ないものかとマウスの左クリックを連打していると、続く演出がカットされて小さなイラストと文字列が表記された。どうやらガチャの結果のみが表示されたらしい。さっそく確認してみると……、
『双子女神の首飾り』
『万能金貨・特大』
『理力の剣』☆
『武神の極意』☆
『双子女神の首飾り』
『転移の腕輪』
『ランダムワープスクロール』
『転換の腕輪』
『天上の祝福』
『死霊術の理』☆
以上の十種類が表示されていた。
どうやら☆マークが付いてるのが当たりらしい。
お。確定以外で1つ当たってるじゃん!
って最初の『双子女神の首飾り』ハズレかよ!
しかも被ってるし。腕輪もニ個……いや腕輪は『転移』と『転換』で違うのね。
とりあえず当たりのアイテム詳細だけ確認しよう……。
後はプレイしつつでいいや、ハズレだし。
『理力の剣』☆
一見するとただの柄だがそこから生じる刃は振るう者の理力に応じて大きく切れ味を変える。自重が柄のみという軽さなのでどの職業でも装備可能。だがそれ故に扱いには習熟が必要。(要求ステータス:INT 抜刀時INTに応じてスキル追加+MPスリップ)
『武神の極意』☆
武神の経験と技を己の物とする書。書物という扱いではあるが読む必要は無い、感じるのだ。(武神に連なる体術に関係する職業の習得条件を全て開放することができる。しかし転職・スキル使用には本来の必要ステータスを満たす必要があり、使用者は別系統の職業への転職が不可能となる)
『死霊術の理』☆
死霊術の全てを封じ込めた暗く冷たい水晶玉。死霊術を極めた者は闇に堕ちたモノ総てから寵愛を受ける。ソレは無償かつ献身に捧げられるだろう。極めるとはそういうことである。(死霊術に関係する職業の習得条件を全て開放することができる。しかし転職・スキル使用には本来の必要ステータスを満たす必要があり、使用者は別系統の職業への転職が不可能となる)
『理力の剣』は武器か。
画像には刃の無い剣の柄部分だけの様な物が表示されている。
イラストと説明的に多分SF物やロボット物に出てくるアレな感じがする。
振り回すと「ヴォン……ヴォン……」とかいうヤツ。
『武神の極意』は格闘系職業の開放条件を無条件で開放するアイテムらしい。けどスキル使用や転職にはステータスが必要って書いてあるし転職不可ってのは辛いよなぁ。コレは一応当たりアイテムだ。その開放条件とやらが余程キツイか……多分無いだろうけど武神になれる人数制限がある感じかもしれない。
『死霊術の理』これは『武神の極意』の死霊術バージョンだな。
他に思うことは特に無い。
折角だし『理力の剣』+αでキャラクター構築したいんだけど職業によって必要ステータスが決まっているらしいことを考えると武神は無いな。
イメージ的に本来INTは必要なさそうな系統の職業だと思うから下手にINTにもステータスを振ったキャラ構成にしたら転職に必要なステータスが足りなくなった上に『武神の極意』の説明にある転職不可で詰みそうだ。
流石に救済策はあるだろうけど一人目のキャラクターにしてはロマンが過ぎるよなぁ。
死霊術……士? はステータス的には噛み合いそうなんだけど死霊従えながらあの剣振り回すって完全に悪役だわ。きっと刃の部分は赤色になる。
職業開放系二点は勿体無いけど最悪使わなくていいや。
うーん、どんな構成にしようか。
ガチャはもう回しちゃったしな、ステータス弄りながら考えるか。
ステータス 振り分け可能ポイント:100P
VIT 10/100
INT 10/100
STR 10/100
DEF 10/100
MND 10/100
AGI 10/100
LUC 10/100
おー、キレイにALL10だ。まだ職業選んで無いからかな?
しかし振り分け可能なポイントが100Pか……。
ステータス上限が100なら1つはいきなり最大にできちゃうぞコレ。
キャラクターが育つと最初に振れる数値分は誤差の範囲にでもなるんだろうか?
適当にポイント振り分けたり戻したりしていたら気付いたのだが初期ステータスを10以下、最低1まで下げることもできる様だ。勿論下げた分の振り分けポイントは加算されて他のステータスに割り振ることもできた。
面白がってALL1にしたり全部平均の器用貧乏型にしたり一点極振りの特化型にして遊んでると――、
『00:01:59:02』
不意に画面の端にカウントダウンの様なものが表示された。
「ん?」
疑問符が浮かぶと同時に『ピコッ』とPCから音が鳴る。グループチャットに反応があったのでそちらを先に確認するとボムさんからだった。
『お待たせしました。
なんとか二十四時に間に合いました。ホントギリギリですけど……』
時間を確認すると、
23:58
もうこんな時間か。確かにギリギリだ……。
だけどなんだかんだでボムさんはいつも周りに時間を合わせてくれる。
リアルでこそ会った事は無いけどホントいい人だと思う。
『ボムさん、ちゃんとお風呂入りましたか?』
そう冗談混じりで打ち込むと、
『勿論! しっかり洗いました! でも実を言うとご飯はモニタ前で食べてます』
と返って来たので、俺は時間を惜しむ様にして人差し指でキーボードを素早く弾いた。そして――、
『それじゃ他のメンツが揃うまでチャットでもしながらのんびr――』
――目の前が真っ白になった。
『00:00:00:00』
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