20、不思議な助手さん
「お早くです。じゃないと教授への思いが扉を壊す、です」
ただでさえ甲高いその声が、さらにきんきんとして返ってくる。うわ、耳が痛くなりそう。
と、いうよりも教授って誰のことだろう。あたしの知り合いにそんな教授とか呼ばれる人いたかなぁ。いたら凄く仲良くしたいけど。
……まぁ、良いか。本人の話を聞いてみよう。
「はあい、どうぞ」
服を着替え終えたあたしはのんびりとドアを開けた。
「失礼する、です。クィルと申す、です」
クィル、とかいう目の前に立つ女の子はあたしにも理解できないくらいおかしな恰好をしていた。何だか、緊張した面持ち。
薄いベージュの、クリームみたいな色をした髪を腰よりも長く伸ばしていて、上下ともにかなり短い服を身に着けている。さらには似合わない大きな帽子まで頭の上に。南部のケルネミア国出身なのか、肌は暗めの色だ。きれい。
あれれ、今って冬じゃなかったっけ。しかも、男物であるズボンを履くだなんてあたしもしたことないのに! こんなに女の子の脚が出てたら、マリヤがすごく怒りそうだなぁ。しかもこの子、普通の男の人よりも脚が長そう。あたしでも分かるくらいだもん。
「はじめまして、クィル。えと、寒くはないの?」
「余は常に教授への愛に燃えている、です。あぁ、申し遅れたですが余はオスカル教授の助手です」
教授ってあのオスカルさんのことか。何だ、つまんない。そういえばあの人、自分のことを「天才に盾ついた哀れな教授」とかなんとか言ってたっけ。
……あの人の関係者。助手。しかも何だかあの人のこと好きみたい。
これは困ったなあ。
「へーそうなんだ。で、何の用?」
あ、椅子、とクィルを座らせながら訊いてみる。
その瞬間、クィルの表情が硬くなった。今にも殺されそうなくらいに険悪。マリヤと同じくらい可愛い顔してるのに、ナシアとか王妃さまとかみたいに怖い。
「あぁ、ありがとう、です。……教授を怒らせて傷つけたのは貴女、です?」
やっぱり。こう来ると思った。どうして皆あたしのせいにしたがるんだろう。両親が死んだときも、マリヤとリュアしか信じてくれなかった。
本当、どうでも良いし面倒くさい。
「別にあの人が勝手に傷ついただけでしょう」
「やっぱり貴女です。余は許さん、です」
クィルはここで大きく息を吸った。
「責任とって、です。今すぐ」
わぁ、面倒。でも、マリヤの為になるんなら仕方ない、かな。
「いいよ、オスカルさんと話し合ってあげる。どこにいるか教えて」
「ありがとう、です。案内する、です」
クィルは剣呑さをその顔に残したまま、微笑んだ。
「ごめんね、マリヤ。ちょっと行ってくるから寝てて」
「んん、ぅん」
「それじゃあ行ってきます」
ぱたん、とドアを閉めて、さあ出発。




