2、馬車の中で
「シャナー!! 何か良く分からないんだけれど、私たち、明日王子様と面談するらしいわ」
「……面談? なにそれ?」
王都に向かう馬車の中。あたしとマリヤはおんなじ馬車だ。
「えーとね、王都の方に聞いたんだけど『選ばれし三十人』は、明日から一人ずつ王子とお話しするんだって。アルファベータ順でエノー村の私たちは一番最初らしいわ」
「ふぅん、明日には王宮に着くんだ。でそれ、何の意味があるの?」
「……は?」
なぜかマリヤが固まった。あたしとしては率直な感想を言っただけなんだけど。
「マ、マリヤ? 大丈夫?」
「シャナが天然でおバカなことぐらい私もわかってたはずなのに……。確かにこのシャナが意味を分かるわけがないか――」
何ぶつぶつ言ってるんだろう? 本当に大丈夫か心配になってきた。
「と、とにかく、忘れちゃだめよ?」
「わ、分かったよ」
あたしも王子様がどんな人かってことには興味ある。うん、明日が楽しみになってきた!!
そのことを告げると、マリヤは安心したような笑みを浮かべた。
「良かったわ。あ、そうだ。最近、その人にいろいろなことを教えてもらっているの。寺子屋より全然わかりやすいの。シャナもどう?」
「うーん。どんなこと習ってるの?」
自慢じゃないけどあたしは大抵の知識なら持ってる。リュナ公爵領の図書館が近くにあってよくそこに行ってたし、自分で実験したりもした。ただ、独学じゃあ身につかないこともたくさんあるし、誰かから学んでみたい。だって楽しそう!
「そうね。私は習い始めたばかりだからこの国のシステムについて学んでるわ。でも、もっと前から学んでる--私たちにつくことになる召し使いさんとか--は、もっと難しいことをやってるみたいよ。最近の革命ブームとかなんちゃら言ってたわ」
「それ、あたしが今すごく注目してるやつ! 習いたい!!」
メナイア王国近隣の国では革命がよく起きてて、いい勉強のネタなんだよね。メナイア王国の制度の奇妙さがよくわかるし。
「そういえば私ね、召し使いさんにドレスの着付け方を教えてもらったの。明日、着付けてあげようか?」
「う、うーんと、別にいいよ?」
「それはつまり、やっていいよって事ね?」
「いやいや、遠慮しますって事だから!」
「ふふふふふっ」
マリヤに笑われた。腹立つなぁー。
そんなあたしたちを馬車は運んで行った。王子と王妃の待つ王都まで。
* * * * * *
「我の温室にはどんなお花が必要かしら。純粋なスイレン、可愛らしい桜草は勿論だけれど、サルビアやカタクリの花なんかも良いわね。あの子にふさわしい正妃となれる娘を探すにはそのぐらい必要よ」
王宮でそう呟く者がいた。
「醜い争いを乗り越えられたものでなくては。我が見たいのもあるけれどね、楽しみだわ」
彼女は残忍な笑いを浮かべながら言った。彼女――王妃――は壊れたような笑い声をあげ、遠くを見つめた。