17、初授業
オスカルさんはにんまりとした笑みを浮かべた。
「さて、俺はオスカル・テムジェルだ。俺以外はそれぞれしってるだろうし自己紹介はいらねぇよな」
何だかこの人って虚勢を張ってる冴えない人な気がする。それに
「ぷふっ、変な名字」
聞き覚えはあるんだけどなんか変。ほら、カラリウも変な顔してるし。
「こら、シャナ。失礼でしょう? 確かにちょっとは変かもしれないけれど」
「だってー、変なんだもん。マリヤもそう思うでしょ」
あ、オスカルさんに睨まれた。そんな目つきしなくってもいいのに。
「さて、喧しいやつもいるみてぇだが話を続ける。今、お前らはカラリウ殿下の花嫁候補だ。だが、所詮はくじで選ばれた運のいい奴ってだけで教育が足りない。そこで俺が教育係を任されたってわけだ。良いな?」
「なんか上から目線、偉そー」
あたし偉そうな人は嫌いなのに。むかつくなぁ。こういう時ナシアとかは何も言わないのかな? ちらりと横目で見てみると、真顔ですらりと背を伸ばして席に座っている。お面みたいに感情がなくてつまんないなぁ。
「シャナ。怒られちゃうわよ? 今は授業中。喋っちゃ駄目なんだから」
マリヤがおろおろしながら私を宥める。そんなことくらいは解っているんだけどな。
見るとオスカルさんの眉がぴくぴく動いている。面白くって吹き出しちゃいそう。イライラしてるってことも解ってるんだけど。我慢とか出来ない性質だからなぁ、あたし。
「アングリャーナ君の言う通り、授業中は私語厳禁。そういや、肝心の試練は三か月後になるそうだ。覚悟しとけよ」
覚悟って何をしたら良いのかわからない。でも、村に帰るのはずいぶんと先になりそうだ。もう二週間経っちゃってるから。
この間マリヤと話したように村の人なんて大体どうでも良い。でも、エノー村はあたしの故郷だから大事にしないといけないと思う。自分の場所ぐらいは守りたい。
「質問あるやつはいるか? いないな、さて――」
「はい! リュイからの質問です!」
「何だ?」
リュアが元気よく手を挙げた。オスカルさんが面倒くさそうにリュアを指す。オスカルさんっていつもイライラしていそう。
「あの、しごげんきんって何ですか?」
「……無駄口を叩くなってことだ」
オスカルさんは目を見開いて少しの間凍り付いていた。そりゃそうだよね、日頃からリュアを知ってるあたしでさえびっくりしちゃったし。「リュアに語彙力とかそういうのを求めちゃいけない」ってマリヤがよく言ってたけど本当にその通り。リュアの良いところなんて可愛くて優しいってことぐらいだから。
「もう質問はないよな? さすがに」
じっくり学舎の中を見渡すオスカルさん。もう手は挙がらない。個人的にオスカルさんの私生活とかは聞いてみたいけど、この人目が怖いからやだな。
「さて、生意気な方のアングリャーナ!」
じっくり息を吸い込んだ後に吐き出されたその言葉には人の穢れみたいなものが詰まっていた。そんなものに慣れていないエノー村出身のあたしたち三人はふるり、と戦慄する。
やっぱりこの人は怖い。でも、生意気な方のアングリャーナって誰だろう? あたしとマリヤの名字は確かにアングリャーナだけど二人とも別に生意気じゃないし。幽霊でも見えてるのかな? あたしは考え込みながらオスカルさんに視線を向けた。




