16、学舎へ
朝の支度もあらかた終えて、ほっと一息ついた朝。
「今日は何しよっか、あたし図書館行きたいんだけど」
あたしはそう切り出してみる。
「……え?」
なぜかマリヤが目を丸くする。あれ、なんかあたし変なこと言った?
「今日って何もない日じゃないの?」
「今日はオスカルさんのところで授業を受ける初めての日よ、勉強のことについて忘れるなんて珍しいわね」
「確かにそうかも」
そもそも言われた記憶もない。変だなあ。
「九時から始まるみたいよ、もう行かないと」
「まだ一時間前だよ!?」
「もちろん。迷うかもしれないでしょう」
さすが、先のことまで考えてる。
あたしたちは廊下に出て、部屋に鍵をかける。こういう高級宿みたいな建物は珍しいな。
「あ、おはようございます。シャナさん、マリヤさん。朝早くにどちらへ?」
「もちろん学舎。あれ、前と喋り方変わった?」
これから歩き出そう、ていうところでメルと出くわした。しゃべり方どころか雰囲気も前と変わっている気がする。
「あ、ぁあれは子供のころの癖が、つい。興奮すると出てしまって」
メルは顔を赤くして紫の髪を掻く。照れるだなんて、性格も変わっちゃったみたい。
「へぇー面白いねー」
「あ、こら。シャナ、面白そうだからってからかわない。ところで、メルさんは何でここに?」
あーあ、マリヤにばれちゃった。面白そうだったのに。
「私、ナシア様の召し使いをやらせていただいてまして。ナシア様の朝のご支度を手伝っていたのです。朝御飯づくりとか」
「そうなの、お疲れ様ね。というか、あなたって私に着付けを教えてくれたあのかわいい召し使いさん?」
「あ、はい。お教えしました。私は可愛らしさの欠片もありませんが」
「やっぱり! 可愛いね、これからも頑張って。はい、シャナ。行くよ」
あぁ、メル行っちゃうのにこれじゃあ拘束されて手が振れない! マリヤったら、地味に力強すぎ。
こうしてあたしは学舎となる小屋まで強制連行された。引きずられたせいか手が痛い。
「はぁ、ついたよ。シャナってやっぱり軽いよね」
ついたのはひと二十人ぐらい入りそうなちょっとぼろい小屋。あたしはなぜかここまでマリヤに抱えられてきたのだ。
「マリヤっだって別に太ってないじゃないじゃん。ねえ、ここでずっとみんなを待ってるの?」
「もちろんよ。待ってればみんなすぐに来るから」
ほんとかなー、あぁ、暇。眠くなってきちゃった……。
はっ。寝てたのか。
あたしが目を覚ますともうみんな来ていた。マリヤの言ってた通り、ちょっとうたた寝する程度で来たみたい。
「おはよう、みんな来てるよ」
「おはようございます」
マリヤとメルはずっと二人で話してたみたい。あれ、ナシアは? あぁ、あそこでリュアと戦ってる。
「おい、みんな揃ったか、席座れよ、始めるぞ、良いな?」
小汚い感じの人が入ってきた。あれがオスカルさん? マリヤは嫌いそうなのに。不潔で、あたしも一歩引いちゃうような。
それなのにみんなオスカルさんのいうことを聞いて席につく。
「よし。じゃあ始めるぞ」
「はい」
みんなの声がそろった。めずらしい。みんな協調性なさそうなんだけど。こんな人にも教師の才能があるということか。