08話 すぐに見つかりました
ちょっとセリフ少ないかな?
「わぁ~。大きいねぇ~」
何処かで聞いたようなセリフが聞こえる。
目の前には巨大な城壁が延々と横に伸び、僕たちはそれを首を真上に向けて見上げている。ちなみに僕とソラは、通行の邪魔になるといけないから、門からはちょっとずれたところにいる。
これまた大きな門の所には警備の兵と詰所がある。自由に街の内外へ行き交う人たちを、怪しくないか見定めている。
なんとこの街、外壁を通る際に通行料とか取らないそうなんだ。何でも、そんなことをしなくても税は集まるとか、通行の邪魔になるからとか。
大きな街だからか、行き交う人たちの種族や生業は様々でその数も多い。
これをいちいち通行料とったり荷を確認したりしていたら、日が暮れても終わらないね。
その代わり警備の兵もきちんと目を光らせているし、街の治安も良いそうだ。
この城壁を越えればついにエトワール。
そう、ついにこの街に着いたんだ。と言ってもまだ、シアンさんたちと別れて数時間なんだけどね。
「この街で何か分かると良いね」
「うん、そうだね」
そうして僕たちは街の中に入っていく。
これからいろんな出来事が待っている、このエトワールへ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エトワールは巨大な円形の形をした街だ。
城壁は三つあり、どれも街の中心を囲むように円形。
これは時代を経るとともに人口も増えたことにより、街の拡張のために新しく外側に城壁を作っていったためである。
それは二度行われ、一番最初の城壁を合わせて今では三つ。内側から『一の壁』、『二の壁』、『三の壁』と呼ばれる。
拡張の際にはきちんと計画を立てていた。そのため、よくあるような無計画による迷路化はしていない。
内側に行くにつれて、身分や物の値段と品質が上がって行く傾向にある。が、あくまで傾向であり、その差は言うほどそう大きいものではない。
円形の街を十字に貫くように、街の中心を交点としたひときわ大きな通りが、東西南北の三の壁の大門から真っ直ぐに伸びている。
街の中心には領主の城がある。
どちらかと言うと城と言うより城砦であり、少々無骨だが頑丈な造りだ。
あまりにも街が広いため、冒険者ギルドは複数ある。
これは単純に広すぎるだけが原因ではなく、ギルドを利用する者が増えるあまり、ギルド側の処理能力が追い付かなくなったのだ。
今あるギルドを改築増員したところで、焼け石に水の状態になることは目に見えていた。また、やはり外門から遠いこともあり、いっそ改築ついでに増やしてしまおうと言うことになったのだ。
一度目の拡張で、一の壁の中にあったギルドが二の壁の中に移転。二度目の拡張で、二の壁の中のエトワール支店を改築してそのままに、新しく三の壁の中に二つ造った。
エトワールにおいて二の壁の方が『本店』で、三の壁の方が『支店』のようなものである。
『本店』と『支店』ではギルドの大きさもさることながら、扱っている依頼の難度も変わってくる。
別に『支店』に高ランクの依頼が無いわけでも、『本店』に低ランクの依頼が無いわけではないが、どちらをより多く専門的に扱っているかで言えばそういうことになる。
ちなみに『本店』が北側、『支店』が南側と東側の大通り沿いにある。
そして僕たちが入ってきたのは南門。今は一番近い南側のギルドに向っている。
何でこの街について知っているかと言うと、クルトの町でライムさん達に聞いていたからだ。
特にライムさんは、聞きもしないことまで教えてくれる親切っぷりだった。おかげで商人のおすすめの食堂とかも教えてもらったけど。
これからの予定としては、まだ昼食には早いから、まず先に冒険者ギルドに行ってみるつもり。シアンさんの言っていたティアと言う人を探すためだ。
ちなみに宿は昼食をとってからにするつもりだ。
ティアさんはギルドの職員みたいだから、聞けばたぶんすぐに会えると思う。
問題はどう切り出せばいいのかと言うことと、そもそも名前を何で知っているのかと言うこと。
上位竜が賢者の名にふさわしいと言うような人を、いきなり紹介しろって言ってもねぇ? 警戒されるのがオチだよね……。
そう思っていたら、シアンさんの名前を出すと良いと本人に言われた。何でも知り合いらしい。しかもシアンさんの正体を知っているから、たぶん信用されるって言っていた。……たぶんだけど。
「ふんふ~ん♪」
ソラの上機嫌な声がする。
彼女の手は僕の手を握っている。
僕たちに気付いた人たちの内、微笑ましい視線が九割によく分からない視線が五分ぐらい。
ついでに「……爆発しちまえ」と言う物騒な声がボソッと聞こえた。たぶん残りの五分と思う。
……何で爆発?
ソラは恥ずかしげも無く進み続けている。
もちろん僕はすごい恥ずかしいよ。じゃあ何で手を繋いでいるのかって? それはソラが迷子にならないためだよ。
ソラは別に方向音痴と言うわけじゃない。その辺はむしろ僕より優れている。ただ、興味の引かれた物の方に、ふらふらっといつの間にか移動してしまう。
すぐに見つかるけど、これだけ人通りが多いと一苦労しそうだから手を繋いでいるんだ。
ともかくそんな感じで、南の大通りを進み続けることしばしば。
ようやく冒険者ギルドと思しき建物の前まで着いた。
敷地面積はそれなりに広く、裏の方に訓練所らしき場所がある。そこから鍛錬している音がかすかに聞こえてくる。
――さっさと動け、新人共! 実戦ならとっくに死んでいるぞ!
――き、教官っ。もう……無理です。
――何が無理だ! お前たちの情熱はその程度かっ!
――……待てっ。……いつ、俺がそんなことを言った?
――せっ、先輩!?
――……その今にも倒れそうな体でよく言う。まるで狂犬の様だな。
――ハッ。俺が狂犬なら、アンタは駄犬だな。
――ふっ。……ついてこれるか?
――ぬかせ! その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ。追い越してやるからアンタの方こそついてきやがれ!
――よく言った! 新人共、つづけ……ッ!? 総員退避ーーー!!!
――近所迷惑なんだよ、好い加減くたばりやがれ! 火炎槍!
――早く避けるんだ馬鹿者……ヌオッ!?
――きょ、教官ッ!?
――おっさーーーーーーーん!!!
「……………………場所、間違えたかなぁ?」
思わず呟いてしまった。
冒険者ギルド(仮)の扉を開けると、中にはまばらに人がいる。
もう朝とも言えないし、昼と言うにも早い中途半端な時間なためか、人は少ない。
基本的に街の外に出るような依頼が多いから、冒険者が依頼を受けるのは朝早く。といってもそうでもない人や、それを見越して遅めに依頼を受ける人もそれなりらしい。混んだら面倒だからね。
それに依頼を受けなくても買い取りはしているらしいし。
確か、職員のいる受付は大抵、入ってそのまま進んだところにあるらしい。
冒険者にはガラの悪い人もいることがあるらしいから、今まで利用したことは無かった。怖いし。
少し中に進みながら見渡すと、確かにそのまま進んだところに受付があり、共通の制服を着た職員らしき人たちがいる。
幸いと言うべきか、受付には殆ど誰も並んでいなかった。
依頼書を見ている人もいるけど、何をするでもなく雑談などしている人たちもいる。
たぶん、非常時や急な依頼のために、何人かは常にいるようにしているのかな?
「あ。ルナ、あの人エルフかな? ちょうど良いしあの人に聞いてみようよ」
そう言うソラの視線の先にいたのは、受付で隣の人の書類仕事を手伝っている少女だった。
ソラの言う通り、耳が尖っていてどこか神秘的な雰囲気のする、エルフの特徴を備えた人だ。
「そうだね」
同意してそのエルフの女性の方へ向かう。
他の受付の人たちも何やら書いていたり冒険者の相手をしていたりするけど、そのエルフの少女だけは隣の人を手伝っている。
多分もう終わってしまったから、手伝っているのかな? だとするとまだ仕事をしている人よりも、すでに終わっているあの人の方に行った方が良いよね。
手伝っているのを邪魔するのもアレだけど。
そう思ってそのエルフの少女に近づいて声をかけた。
「ニーナ。ここの計算を間違えています。それとここも……後、こことそこも」
「ちょっ、せ、先輩っ……ちょっと待って下さい。そんな一遍に言われても頭が混乱しますよ。と言うか先輩、計算速すぎですー」
「ああ、すみません。ゆっくりでいいですからやり直してみてください」
「あのー、ちょっといいですか?」
「はい、何でしょう?」
近くに来ていたことは気づいていたのか、エルフの職員は特に慌てることもなく答えてきた。
隣の半獣の女の子は、ぐぬぬぅ~って唸りながら何やら書き込んでいる。
僕が声をかけた彼女は、凛とした清楚で綺麗なエルフだった。
「僕たち、ティア・ハーヴェストというエルフを探しているんですけど、何か知りませんか? この街のギルドの職員だって聞いたんですけど」
「あれ?」
頭を抱えながら唸っていた隣の女の子が、不思議そうな声を上げた。
目の前のエルフの女の子は少し怪訝そうな表情ながらも、真っ直ぐに僕たちを見て答えてくれた。
「それは……おそらく私のことかと。失礼ですが、私のことは誰から聞いたのですか?」
……いきなり見つけちゃったよ。
訓練所から聞こえた声の主たちはそのうち出す予定、かな? たぶん。
彼らはいったい、どんな訓練をしていたのでしょうね(笑)。