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03話 とりっく おあ とりーと?

「イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「「「「「「……………………」」」」」」

「……………………」


 痛いほどの静寂が漂っている。

 あまりにも気まずくて、追ってきた四人でさえ動けていない。

 そんな状況を作り出した本人はと言うと、変なポージングのまま動かない。


 気まずいよ!? 気まずすぎるよ!? あまりにも気まずすぎてさっきまでの怒りは時空の彼方にすっ飛んで行っちゃったよ!?


 気まずすぎるために一歩も踏み出せない。

 この状況をどうにかしてと必死に心の中で叫んでいると、その思いが届いたのか謎の存在は手を下ろした。


「……さすがに何の反応もないとつまらない」

 

 届いてないねっ。

 呟いた内容はともかく気まずさから解放された。

 だがそれは四人も同じだった。


「ッ何もんだ、てめぇ!」


 続いて取り巻きの三人も似たようなことを叫びだす。

 今三人はこのカボチャを被った存在に意識が向いている。その隙に逃げ出すこともできる。けどそんなことはしない。

 見た目や言動がアレでも、こんな状況で助けに間に入ってきたんだ。本人が囮にしろとでも言わない限りそんなことはしない。


 四人が自分たちの虚勢を保つためにひとしきり叫び終えると、カボチャさんは首をかしげて言った。


「……とりっくおあとりーとー?」

 

 よくわからない言葉を疑問形で。


「あれ? なんて意味だったけ。悪戯したら潰すぞ? いやそれはないな。えーと、お菓子くれないとぶち殺すぞ、だっけ? あれ、違ったっけ? しまった、忘れてしまったよ」


 周りの状況を忘れてしまったのかの様にカボチャさんは考え込んでしまった。と言うかずいぶんと物騒な言葉が聞こえたんだけど……。

 だけどそれはスキンヘッドたちも同じで、急に頼りなくなったような仕草を見せ始めたカボチャさんに気を良くしたのか、威勢が良くなり始めた。


「さっきも聞こえたんだがよお。誰が誰を殺すんだって~? え? ちょっと聞こえづらくてよ。もう一度言ってみてくれねぇかよ」

「アニキはこの町じゃあ誰も手を出せないんだぜ? まじ馬鹿だぜこいつら?」

「ぎゃははは。アニキにケンカ売りやがったぜこのカボチャ野郎! 聞いて驚けよ? アニキはBランクの冒険者だったんだぜ! 死にたくなかったら今すぐ有り金全部おいてけよ。勿論奴隷商にうっぱらってやるけどな!」

「おう、それならついでにこんなふざけたことをする野郎の顔を拝ませてもらおうじゃねいかい。なあアニキ」


 こんな状況で助けに入ってくれた人を侮辱されて平気でいられるほど、僕は厭世家じゃない。

 あまり状況が分かっていなかったソラも、怒りで体が震えている。

 それを恐怖から来るものと勘違いしたのか、スキンヘッドたちはゲラゲラ笑い始める。

 僕たちのために侮辱されてしまったカボチャさんを見ると俯いていた。

 僕たちのせいで傷ついてしまったと思っていると、そのカボチャさんが呟いているのに気付いた。


「ナイワーナイワーマジナイワーマジナイワー」


 あれ!? 何か予想していたのと全然違うよ!?

 確かに落ち込んでいるように見えなくもないけど、どっちかっていうと失望したみたいだよ。ソラも驚きに目を少し見開いている。


「これでBランクとかマジナイワー。せいぜいD-からDデショウガー。町の人が何もしないのって、単に何かするほどの大者じゃないって思われているからじゃないの? この程度簡単にどうにかなるでしょうにそんなのもわからないの頭大丈夫病院行ったら良い病院紹介しようかもちろん精神科も含めてだけど」


 最後はもう棒読みで息継ぎなしの、生ごみを見るような目が簡単に思い浮かぶような声だった。

 最初と感じがあまりにも変わり過ぎて、さっきから僕たちはびっくりしてばっかり。


 当の言われた本人たちは顔を真っ赤にしたり驚きの表情で固まってしまっている。

 どうやら図星だったらしい。

 僕もBランクて言われた時は一瞬身構えてしまったけど、すぐにさすがにそれはないって思ったし。

 

 ひそひそとソラが冒険者って何? って聞いてきたけどとりあえず後にするように言った。

 彼らにはそれが挑発に見えたみたいで、さらに顔を赤くして脅しをかけてきたけど、それもカボチャさんをさらに失望させる言葉だった。


「てめえ、ふざけてんのか! 俺に恥をかかそうとはずいぶんいい度胸じゃねえか。何を隠そう俺はレドンの盗賊の一員だぜ? 俺に何かあったらあいつらが黙っていないぜっっっふッ!?」


 後ろのお仲間にぶつかるスキンヘッドさん。

 まるでやれるものならやってみろと言わんばかりに、カボチャさんが蹴り飛ばした。

 知らない名前だったけど、ああ言ったのならそれなりの盗賊団なのだろうに、まるで問題なしと聞こえてきそうな行動だった。


「ナイワーナイワーマジナイワー」


 だったのだけど、カボチャさんがさらに棒読みで呟いている。


「か、カボチャさん、大丈夫ですか?」

「はっ。すまない、あんまりにアホらしいことを言うものだから思わずキャラが壊れてしまったよ」


 どうやら正気に戻ってくれたみたいだ。

 蹴り飛ばされたスキンヘッドは、鼻を押さえて取り巻きの助けを受けながら起き上った。


「て、てめえ! 俺が誰だか分かってんのか!」

「ただの騙り屋でしょう?」

「なっ!?」

「レドンの者たちは盗賊ではなく義賊だよ? そもそもレドンの義賊は、真面目な場面で自分たちのことを盗賊とは呼ばないし、このようなことをする輩は仲間にするはずがないのだけど」

「なっ、何言ってやが……」

「それも義賊だからね、自分たちの名を騙る奴らがいたらどんなことになるのやら」


 カボチャさんが面白そうに言う。

 さっきまでの威勢の良さはどこへ行ったのか、四人は青くなって震え始めた。


 そして最後の締めとばかりに、カボチャさんはにこやかな声で告げた。


「さて、今後このようなことしないよう、ちょっとお仕置きをしてあげようか♪」


 それ絶対お仕置きって呼ばないと、僕とソラは声を合わせて言った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、四人はボコボコにされて木箱に箱詰めされてしまった。

 悲鳴を聞きつけてきたはぐれた取り巻き達も、哀れ同じ運命をたどってしまった。


 そして助けられた僕とソラはと言うと。


「あのー、そんなに怯えないでほしいんだけど」


 悲しそうに頼み込んでくるカボチャさんに対して震えていた。


 だってすごい怖いんだよ! 僕たちが引くくらい容赦なくボコボコにするんだもん。ソラなんてほとんど涙目だし。

 「こんな子供を脅して追い掛け回すなんてなんて奴らだ」って、言ってることはすごく良いのにやってることが容赦がなくて、しかもかなり棒読みだったんだ。

 ついでに物騒なセリフが時々混じっていた。


 少なくとも「この石壁で摩り下ろしたらどんな感じになるかなー?」なんて淡々としたセリフは一生に一度だけで良いよ。

 あ、いや、できれば一度も聞きたくないけど。


 とりあえずは、助けてくれたのは事実だから震えながらもお礼を言った。


「助けてくれありがとうございます」

「あ、ありがと」

「どういたしまして。私がいなくても問題なさそうだったから助けたって感じはしないんだけどね」


 どうやら気まぐれで間に入ったらしかった。

 ちなみに変な言動はその格好に合わせて何となくやってみた物らしい。


 余談だけど「普段からこんな感じではないからね」という言葉にはある意味安心した。

 

「ところでカボチャさんって?」

「それは……カボチャを被っているので」


 そうとしか言いようがないよ。


「ふむ、ではジャック・オー・ランタンで良いかな」

「へ?」

「私のことはジャックとでも呼んでくれたまえ。勿論偽名だけどね」


 何でもその格好でそういう名前の幽霊がいるらしい。

カボチャさんはノリでやっているので、キャラがかなりブレてます。

ちなみに頭はカボチャさんのお手製。

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