16話 クリティカルヒット
一月も投稿してなくてすみません!
ちびちびとは書いてはいたのですよ。
『――魔術とはなにか
この魔導書を読んでいる君は、この問いにどのような答えを出すかな。
答えは幾つも出るだろう、読んだ者によって変わるだろう。ときに模範的な、ときに伝聞的な、ときに独自性溢れる、様々な答えが出てくるだろうな。
ワタシはこう言おう。
魔術とは、数ある技術の中の一つであり、魔力を使う技術である。
技術であり学問であり芸術である、と。
魔力を燃料として。
術式によって、焼べられた魔力に方向性と形を与え。
時に詠唱や何らかの方法によってそれを補助し。
この世界に事象を刻む。
術式とは文字通り『術』の『式』だ。
『術』という解を、結果を、生み出すための『式』。
『術』を世界に顕現させるための『設計図』。
魔術を発動するのには魔力が必要なことは言わずもがなだが、大事なことがいくつかある。ここではまず、そのうちの二つをあげてみるとしよう。
一つ目は自身がどのような術を発動するのか、もしくはどんな術を発動したいのか、それをきちんと想像出来ること。
そして二つ目は術式の意味を理解していること。
例えるならば……そうだな。
前者の例えとしては、何かをする際にどのような動きをするのか、それを事前にイメージしていた方がそのイメージに沿って良い動きが出来る。
後者の例えは、その動きにどんな意味が宿っているのか、それを理解することによって、ただただ模範的な機械的な動きではなく、より自身にあった動きに昇華できる。
といったところか。
想像と理解。
この二つがよく出来ているほど、発動する魔術の威力や魔力効率は変わる。
さて、ここまで述べたが、諸君らの中には『術式』について疑問を持った者がいるだろう。よく目にする魔術の中には術式を使っていないものがあると。
魔術は詠唱を代表とする補助技術が無くとも発動できる。極端な話、『術式』を使わずとも魔術を発動することは不可能ではない。
そう、あくまでも不可能ではない、だが。
一度語り出すと延々と話が進まないので、『詠唱破棄』や『術式破棄』については、このような魔導書ではなく別の魔導書にて語るとしよう。
ただ、ここで言えることは、『詠唱破棄』や術式を使わずに魔術を使う『術式破棄』は、日常でも使うような簡単な魔術なら、ものにもよるが、それこそ簡単に出来るということ。
しかし、高位魔術になるほどその難易度は劇的に跳ね上がる。
さて次に――』
そのまま読み進めること十数分。
パタンッ、と勢いよく本が閉じられた。
「うん、無理! 分かんない!」
「いや、そんな断言しなくても……」
「無理なものは無理だもんっ。わたしは体で覚える派だもんっ」
胸を張って宣言するソラ。
ほっぺを膨らませて「むんっ」て気合を入れてるけど、ちょっと受け取り方を変えたらソレ、所謂おバカさ――
「むぅ。……ルナ、何か失礼なこと考えてない?」
ふぁっ!?
「えっ!? あ、いや……違うよ!? ソンナコトナイヨ!?」
「ほんっと~にぃ?」
「そ、そうだよ! そんなわけないじゃないか。だ、だからっ、そんな恨めしそうな顔で、その、上目遣いで詰め寄らな――」
「えへへ。ごめんね、ルナ。勘違いしちゃって」
「って、えぇええええ? さ、最後まで聞かないの……?」
僕の話を最後まで気くこともなく、ソラは少し恥ずかしげに頬を染めて、触れるか触れないかの距離にまで近づいていた僕から離れていった。
危なかった。いや、本当に危なかった。
何が危なかったって、頬をリスみたいに膨らませたまま恨めしげな半眼でしかも上目遣いだよ? そこで追い討ちとばかりに、ずずいっ、て感じにソラが詰め寄って来てさ……。
(あっぶなかったー!)
――ソラが可愛くてツライよ……。
「ルナは分かったの?」
「えっ、ああ、うん。何となくだけど」
まあそれも、ソラがかなり初めの方で閉じちゃったんだけどさ。
「そう言えばちょっと変なところあったけど、ソラは気づいた?」
「変なところ?」
「うん。端っこの方に『考えるな、感じるんだ!』とか書いてあったんだけど、どっちだよって感じでさ。あはは」
「う~ん、そうだね。あ、でもさ、ルナ。いちいち難しいこと考えたり、覚えたりしなくても良いってことかなのかな?」
「そうでもないんじゃないかな? 『知識は大事だ』って書いてあったし」
まあ、今日のところはこれぐらいにしようか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
難しいことはアイリアンさんが戻ってきてからにしよう。
そう決めると、魔導書をベンチの上に置いて、少し離れたところで僕とソラはアイリアンさんお手製の木剣を手にして向かい合う。
僕たちが魔導書を読んでいたのは、昼ご飯を食べたあの『蔵書室』のすぐ前にあるベンチでだった。
『蔵書室』である古い巨木の前は、ちょっとした広場みたいに何もなく、短いふかふかの草とベンチがいくつかあるくらいだ。
だからアイリアンさんみたいに昼寝や、さっきまでの僕たちのように本を読んだりするのにちょうど良い。
こうして木剣を打ち合うのにも。
「――たっ!」
声とともにソラの突きがくる。
慌てることもなく僕はそれを弾いて反撃をするけれど、ソラはひらりと避けた。
アイリアンさんがいない以上、鍛錬は僕たちでやるしかない。
思い返してみると、ソラとはこうやって剣を打ち合ったりとかしたことが無かった。
「ねっ、ルナっ」
「よっと、――なに?」
頭の隅でそう考えながら、ソラが打ち込んでくる木剣を受けたり弾いたり逆にこっちから攻めたりしていると、剣を振りながらソラが話しかけてきた。
と言っても、手は抜いたりはしてないけど。
って、うわ!? あぶなっ!?
「――とっとっと……」
「あっ、ごめん。……大丈夫?」
「う、うん。気にしなくて良いよ、鍛錬だし」
後ろに大きくバランスを崩してしまった僕は、とっさに後ろに向かって宙返りをしてソラから距離を取る。
ちょっと無理をして腰が痛いけど……ソラが気にしそうだし、おくびにも出さない。
何が起きたかというと、会話で少しだけできてしまった隙を、ソラが見逃さずに反射的に攻撃してきてしまい、それを僕が仰け反って避けたんだ。
――まあ……いきなり、喉下に向かって刺突は驚いたけどさ……。
というか怖いよ、ソラ。
あくまで反射的にって所が特にさ……。
地味に攻撃がえげつないと言うか、容赦ないね。
仕切り直しをしながらも、今度こそ隙を見せないようにして会話を再開した。
「それでっ、なに?」
「んとね。もしさ、リアがわたしたちの体質を治してくれたら、ルナは何処に行くのかなって気になっちゃって」
それは、アイリアンさんと会った日に彼女から言われたことと、ほとんど同じ言葉だった。
ただただ盲目的に、僕とソラの呪いみたいな体質のために行動していたけど、それが解決してもまだ人生は続く。というか、まだ十四年しか生きてないし。――昔の記憶無いから大雑把だけどさ。
ともかく、これまでの全てがそのためで、他の事なんか考えていなかった。
とまあ、そんなわけだけど、ソラのニュアンスに、少し気になるとこがあった。
アイリアンさんは僕たち二人に『どうするのか』って聞いてきたけど、ソラは、『何処に行くのか』って。
「よ、良かったら……なんだけどね?」
そう聞くと、ソラはどこか照れたように耳を少し赤くして、恥ずかしくなったからなのか少し上目遣いになりながら念押ししてくる。
それも木剣で打ち合いながらなんだけどさ。
何て言うか……地味に器用だよね。
「ルナさえ良かったら、また一緒に旅したいなぁ、って思うんだけどぉ……」
はにかみながらも、ソラはそう言った。
手は休むことなく木剣を操っているけど。
ソラの手は、ね。
「――あっ」
ごすっ。
鈍い、そしてとても重い、骨に響いてくるような音が、深き森の広場で鳴る。
というか骨に響いた。
主に頭頂部から。
「……いったぁ……」
僕は小さく絞り出すように声をもらす。むしろ絞り出すようにしか声を出せない。
今度はとっさに加減されたけど、無防備な状態での頭頂部への一撃は、視界が一瞬真っ暗になるほどにはクリティカルな一撃だった。
「ご、ごめん、ルナ! 大丈夫!?」
「……いや、ソラ。今回はさすがに全面的に僕が悪いから……気にしないで」
僕は微妙にぼかして、ソラが気にしないよう痛みは大したことなかったと思わせるために、すぐに立ち上がった。
ソラが心配そうに両手を胸元で合わせて見てくるけれど、僕は「平常心平常心」と心の中で唱えながら、努めて笑顔を保つ。
ズキズキと半端ない痛みが訴えてくるけど。
……たんこぶ、できちゃったかな? というか絶対たんこぶできたよね、これ。
なんでここまで頑なにソラが気にしないようにしているのかと言えば、羞恥心から来るものだった。
いや、照れるソラがあんまりにも可愛くて動きが止まってしまったなんて……恥ずかしすぎて言えるはずないから。
むしろ恥ずかしすぎて、ソラには絶対に知られるわけにはいかないよ……。
頭はソラの木剣でクリティカルヒット。
心はソラの可愛さでクリティカルヒット。
ルナの体力はもうゼロよ!




