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14話 もしもし吾輩だ

本日は13話と14話の二話投稿しました。

13話が六時で14話が七時に予約投稿です。気を付けてください。

13話がまだの方はそっち先に読みましょう。

「うきゅ~」


 ……恥ずかしいーよー。


「あはは。ソラ、まだ気にしてるの?」

「ぶぅ~。…………ルナのいじわる」


 「い、意地悪!?」なんていう言葉は聞こえないもーん。

 ふーんだ。


「え、えーと……」

「つーん」

「……うん、それ、擬態語だし。自分で言う言葉じゃないと思うよ」


 え!? 

 はっ!? あ、危ない危ない……。仕返しにちょっとの間だけ、ルナを無視するつもりだったのに、思わず反応しかけちゃったよ。

 ふぅー、危ない危ない。まったく、ルナも策士だね!


「いや、普通に反応してたのバレバレだったんだけど……。というか、心の声がモロに口から出てきていることについては言った方が良いのかな……?」


 ん? ルナが何か言ってるみたいだけど、よく聞こえなかった。


「とにかく」


 そう言うと、ルナはわたしの方を向く。


「気にしてるなら、ごめんね?」


 ルナは「パンッ!」って勢いよく両の掌を合わせて、片目だけ閉じて、拝むように開いたままのもう片方の目で上目遣いに見てくる。

 ふ、ふんっ。ちょっと可愛くて心が揺らいだりなんて……し、してないもんっ。



 わたしが何を気にしているのかと言うと、それはさっきのことだったの。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ほれ」


 蔵書室である巨木の周囲は、短く刈り込まれた芝生が広がっている。

 そして巨木のすぐ近くの日当たりの良さそうな所には、見たことのない綺麗な花をモチーフに、丁寧に彫刻のなされたベンチがいくつかある。

 ちなみに作ったのはリアだって。


 一旦本の片付けを休憩して、今はお昼ご飯。場所は日当たりの良いベンチ。

 わたしも作るのをお手伝いしたリアお手製のサンドイッチは、バスケットに入って、ベンチに座ったわたしとルナの間に置かれてる。


 リアが持って来てくれたんだけど、バスケットをルナに渡した後、また蔵書室に入って行ってしまったの。

 それで、「リアは食べないのかなぁ」って、ちょっと残念に思っていたら、すぐに一冊の分厚い本を持って戻ってきてわたしに差し出してきたの。


「あれ? これさっきの本じゃないかな、ソラ」

「あ、ほんとだ」


 黒地の表紙に落ち着いた金色の文字。

 リアが差し出してきたのは【迷宮英雄譚】だった。


 けど【迷宮英雄譚】はすでに、わたしの膝の上にあるんだけど……。

 何でもう一冊あるんだろう?


「何でと言われても……汝の膝の上にあるそれ、第四巻・・・なんだが」

「え?」

「あっ」


 リアが気まずそうにほっぺを掻きながら言う。


 え、えーっと、第四巻っていうことはこの本の前にはまだ三冊あるわけで。ということは私の膝の上のコレから読み始めると、途中からになるわけで……。


 わたしはほっぺが熱くなるのを感じながらもリアに尋ねる。


「そ、それは、第何巻、なの?」

「まあ、第一巻なわけなんだが」


 うきゃーーー!!

 途中の巻から読み始めようとして浮かれるなんてーーーーーー!!!


「あー、あのな? この本は途中の巻から読んでも大丈夫なものだから、そんなに恥ずかしがることは無いぞ?」

「ほ、ほんと!?」

「『これこれの英雄の話』『これこれの英雄の話』という風に、いくつもの英雄達の物語を本にまとめたものだからな。中には何度も登場する英雄もいるから、そのあたりについては、最初から読んだ方が良いがな」


 と、リアが教えてくれたけど、その途中であることに気付いて、わたしの体は石像のように固まってしまった。そして見る見るうちに、自分でも分かるくらいに、ほっぺどころか顔全体を真っ赤にしていく。


「どどどどうしたの!? ソラ!?」


 よ、横でルナが慌てているけど、すっごい恥ずかしくて、ルナにかまっていられないよぉ……。


 体の硬直が解けた途端、わたしは両手で顔を隠す。

 顔もすごい熱くなっているけど、手もそれに負けないくらいに熱かった。

 いっそのこと、リアと出会った時の湖に今すぐ飛び込みたいぐらいだよ……。


 こんな時にあっつあつになっている自分の手を恨めしく思ってた。すると、ふわりと良い香りがして、ほっぺに何か冷たいものを当てられたの。

 なんだろうって顔を上げると、リアがわたしを覗き込むように見つめていた。


「大丈夫か?」


 そう尋ねるリアの右手が私に向かって伸びている。

 つまり、わたしのほっぺに当てられているのはリアの掌だったみたい。

 リアの手をひんやりとしていて、今の私にはとっても気持ち良い。ずっとこうしていたいと思っちゃうぐらいには、すっごい、気持ち良かった。


 わたしはまだ混乱している頭を総動員して、つっかえながらも頑張って舌を動かした。


「あ、ああああ、あの、あの……」

「あの?」

「ソラ、本当に大丈夫?」

「ううう、うん、だいじょ……ぶ」


 うぅ~、恥ずかしさのあまり、体がちゃんと動かないよ……。


「り、り、リアにおねっ……お願いが、あってね?」

「お願い? そんな、いじめたくなる様な可愛らしい顔で言われると、無条件で叶えたくなるではないか」

「ふぇっ!?」


 か、からかわないでよ。そんな、か、か、か、可愛い、だなんて……♪


 もうこれ以上ないくらいに顔が熱くなっているのにっ。私を憤死させるつもりなのかと思っちゃうよ。

 リアったら珍しく表情を変えているけど、口元を押さえてわたしを笑うなんて! ぶぅ。


「むぅ……。気にしてないもんっ」

「くっくっ。すまんすまん、そう膨れるな。それでどんなお願いなのかな、お嬢さん?」


 最後の言葉に反応しそうになったけど、どうにか抑え込んだ。

 ……絶対にわたしで遊んでるよね?


「も、文字……を」

「うんうん」

「教えて……ほしい、の」

「は……? 文字?」


 そんなお願いはまったく予想していなかったリアは、可愛らしく口を小さく開けてる。


 そ、そりゃそうだよね!? あんなにはしゃいでいたら、普通、文字読めると思うもんね!?

 言っておくけど、べべ、別にっ、全く読めないわけじゃないもんっ。

 ちょっとだけつっかえちゃう時があったり、時々わからない言葉があったり、忘却の彼方に向かって旅に出ちゃっているだけだもんっ!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 結局その後、リアに文字を教えてもらえることになった。


 ついでにその勢いで、三人でベンチに座ってお昼ご飯を食べながら、リアがその場で【迷宮英雄譚 第一巻】を読んでくれたの。

 とても澄んだ綺麗な声を持つリアが読み上げる英雄譚は、臨場感があふれて心躍り目の前に物語の光景が見えてきそうで、わたしもルナも目を輝かせて夢中になった。


 そのリアは、今は静かにお昼寝中。

 ベンチの上じゃなくて、芝生の上にそのまま横になっている。


 お日様は暖かいし、その上、時々そよ風が吹いてくるから、とっても気持ちよさそう。

 本当ならわたしも一緒にお昼寝したいんだけど、それは今はちょっと後回し。

 きっかけは何となくだったんだけど、今は寝ていることだし、ちょっとリアを観察してみることにしたの。


「……わぁ」


 横からリアの寝顔を覗き込んでみたら、思わずそんな声が出ちゃった。

 両手で口を押えていたから、聞こえなかったと思うけど……。


 お、起きたりしないよね?


(改めて見てみると、リアってすっごい綺麗だねぇ。でも、起きてる時はお姉さんって感じの雰囲気だけど、こうしてみると案外、子供っぽい感じもするね)


 肌は雪のように白くて、思わずほっぺをプニプニ触りたくなる衝動に駆られそう。

 何より異彩を放っているのはやっぱり髪の毛。

 まるで夜空をそのまま切り取ったみたいな黒髪だった。


 最初は何となくだったんだけど、リアがあんまりにも綺麗だから、段々と見つめることに夢中になってきちゃう。


「……ラ。ソラ!」

「わひゃっ!?」


 けど突然、ルナがすぐ傍で大きな声でわたしの名前を呼んだ。


「ななななな、なに!? 大きな声出してどうしたの!?」

「ごめんね? さっきから何度も呼んでいるのに、気付かなかったみたいだからさ」

「え?」


 えーと? それはつまり、わたしは周りの音が聞こえなくなるくらい、リアのことを見てたと?

 今日はやたら恥ずかしい行動をとる日だなぁ、あはっ、あははははははははは……。


 うん、気を取り直していこうっ。


「ちょっとリアのこと見てただけだから大丈夫だよ。それでどうしたの?」

「いや、ちょっとね……」


 ルナはちょっと困った様に言葉を濁す。


 とりあえずルナに連れられて家にまで戻った。

 そしていつもご飯を食べている居間に入ると、何か鈴の音のような音が、一定のリズムで聞こえてくる。とても綺麗な音だけど、鳴り止むことがない。

 ルナが困っていたのはこの音みたい。


「さっきバスケットを戻しに来たら、この音が鳴ってたんだ」

「……まさか……何か、壊したの?」

「いやいやいや。最初っから鳴っていたんだよ!? そんな深刻そうな顔しなくても良いからね!? ほんと何にもしてないから!」


 ちょっと悪戯心を起こしてみたら、ルナは面白いぐらいに反応してきた。

 頭が飛んで行っちゃうんじゃないかってぐらいに、首を振るのに合わせて、頭のてっぺん辺りの跳ね返った髪がぴょこぴょこと揺れてる。


 ちょっと可愛いかも。


「ともかく、音の発生源ぐらいは見つけたいから手伝ってくれない?」

「いいけど……リアを起こした方が早くない?」

「うぐっ。そ、それはそうだけどさ、アイリアンさんは昼寝してるし……」

「ん?」


 何故かルナの声がどんどんと小さくなっていく。

 どうしたんだろう? ん~……あっ、分かった!


「んふふ。もしかしてルナ、リアの寝顔が可愛いから起こせないとか?」

「そっ、そんなことないよおおお? べべ別に、さっきから頭を離れないわけじゃないし?」

「あっはは。ずっぼし~」


 両手をぶんぶん振って否定していたルナは、わたしの視線から逃げる様に顔を背けているけど、耳が赤くなっているのはよく見えてる。



 これ以上はルナが可哀想だから、この鈴みたいな音の発生源を探すことにした。

 そして簡単に見つかった。


 案外すぐに見つかったそれは鏡。

 上半身は普通に映るぐらいの大きさで、部屋の端の方にあった。

 そこには四角い小さめのテーブルがあって、その後ろから縦に伸びた板に、鏡がはめ込まれている。


 何ですぐにわかったかと言うと、その鏡が波紋のように揺れていたからなの。

 最初は見間違いかと思ったんだけど、よく見てみると、水滴が落ちたみたいに鏡の中心から波紋が広がっていた。

 それも一定の間隔で、鈴の音と一緒に。


 とりあえず音の発生源は分かったけど、どうしよう。


 そう思いながら、好奇心でほんのちょっとだけ鏡に触れてみた。

 そしたら一瞬淡く光り、波紋が収まっちゃった。


「ちょっ、ソラ何してるの!? よく分からない物に勝手に触れたらだめでしょ!?」

「あ……て、てへっ」

「可愛く言っても誤魔化せないからね!?」


 気付いた時にはもう遅く、鈴の音も鳴っていない。

 けれど変化はそれだけじゃなかったの。


 好奇心に負けて鏡に触れてしまったことをルナに怒られていると、


『もしもし、吾輩だ』


 鏡から、そんな声が聞こえてきたよ。


なんか冒険的なものが遠いですね。

ちょっとそろそろ、そういうのにしていきたいですね。

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