表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

プロローグ あなたは誰?

読んでくれてありがとうだよー

 ――目を覚ますと視界いっぱいに、瑞々しい葉が生い茂る木の枝が広がっていた。


 僕が身を起こして、すぐ後ろにある木の幹に背を預けると、目の前には小さな澄んだ湖が広がっている。

 ここは緑豊かな森。誰もいない静かな森。


 いつの頃からかは分からない。何故か僕には昔の記憶なんてない。

 ただ、いつの頃からか僕は旅をしていた。当てもなく、まるで何かを探すように。迷子になったかのように。





 昨日も町に着けなかった。

 でも、今日も着けるかわからない。たどり着けなかったらまた野宿だ。

 けれど、たどり着かない方が良いとも思ってしまう。


 ――僕は他者と出会いたくない。出会えば嫌な目に会ってしまう。


 ……朝から嫌なことを考えてしまった。

 嫌な思考を振り払うように僕は頭を左右に振る。

 その動きに遅れて、ぴょこぴょこと髪が揺れた。

 そろそろ、切ろうかな。


 僕は目の前に広がる湖に近づいて、水をすくって顔にかける前に、水面に映った自分の姿を見た。

 少し伸びすぎた灰の様な色をした髪は、小動物の耳のように揺れている。そう思ったら、鏡面のが少し顔を歪めた。


 ――自分で自分のことを小動物って……。

 どうしたら、もっと男らしくなれるのかなぁ……。


 静寂に満ちた森に、バシャバシャと水の音がよく響く。

 冷たい水だ。冷たいだけじゃなくて、この湖の水はとてもおいしいね。まるで自然の恵みの結晶の様だ。


 ――ちょっと詩的だったかな?

 少し濡れてしまった髪を触りながら、なんとなくそう思った。


 さっきまで背を預けていた木の根元まで戻ると、背嚢を開けた。

 いつも寝るときには、すぐ近くに置くか抱きしめるようにして寝ている。


 僕は背嚢の中から水の入った革袋を取り出した。そして再び湖の前まで行くと地面に中身を空けた。

 からになれば湖の水で中を洗い、新鮮な水を入れる。


 水の交換が終われば朝食を食べることにした。



 この森は本当に静かだ。もう朝だっていうのに鳥の鳴き声すらしない。人っ子一人すらいない。


 ――もう、ここに暮らしちゃおうかな?


 ちょっと塩気の少ない干し肉をかじりながら、僕はそんなことをつらつら考えていた。けどそんなわけにはいかない。だって旅をしなければならない理由があるのだから。

 コレを、この呪いのような体質・・・・・・・・・・をどうにかするために、旅をしているのだから。


 干し肉を食べ終える頃、僕のすぐ横で身じろぎする音が聞こえた。

 僕は慌てて隣の方を見る。


 そこにはまだ僕と同じくらいの、もう少しで十四歳ほどになる女の子が横になっていた。綺麗な髪が扇状に広がっている。

 きれいな子だった。

 きれいと言うか、可愛いの部類に入るけど。



――……んん



 まだ眠そうな声を上げながら、彼女はのろのろと体を起こした。

 猫のように、まだ開き切っていない目をこすっている。



――ん、んん~?



 彼女は思いっきり伸びをして、やっと周囲に目を向けた。


 キョロキョロと、まるで知らない場所を見るかのように周囲を見ている。

 その紅茶色の目はついに僕を視界に入れた。けれど目はぼんやりと定まらず、僕の方をじーっと見ている。


 やがてその目が定まってきた時、僕は恐る恐る話しかけた。



――えっと……おはよう



 彼女が無邪気な微笑みを浮かべて、優しい声で返してきた。



――んー、おはよう?



 何故か疑問形だった。それでも僕は、返事をしてくれるだけで嬉しかった。それだけで、心が暖かくなったんだ。


 けれど、その微笑ましい気持ちはすぐに霧散してしまった。



――ねぇ



 その声に、びくっと僕の体が震える。


 僕は次にやってくる言葉に怯えた。

 だってそれは今まで何度も聞いた、聞きたくない言葉かもしれないんだから。

 何度も何度も。毎日毎日。一言一句変わることもなく。同じ言葉を掛けられる。


 ――どうか今日こそは!


 けれど僕の祈りは聞き届けられることはなく。

 今日もまた、聞きたくない『あの言葉』を言われてしまった。



「――あなたはだぁれ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ