表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろこ  作者: 麦飯とろろ
5/5

5

 翌朝。ベッドではなく、よじれたラグの上で目をさました私は、まずお腹をなでた。なんのふくらみもない。

 夢を、みたのだろうか。


 舌にまだ生生しい感触がのこっている。


 寝起きでぼんやりしながら、ずいぶんと静かだなと思う。

 テレビの音や、彼が誰かと電話で話す声。いつもなら聞こえているはずの、それらが聞こえない。人の気配もしない。


 もしかして、私をおいて彼は出ていってしまったのではないか。


 とうとつに不安がこみあげてきて、私は家中、彼の名前をよびながらさがした。

 携帯電話、財布、スニーカー。部屋にはさまざまな物が残っているのに、彼だけがどこにもいない。2Kのせまい間取にかくれる場所などないはずなのに。


 途方にくれて、台所に立ちつくす。


 コンロの脇の、おきっぱなしのからっぽの瓶が目にとまった。

 そう私はゆうべ、母におそわったおまじないを彼にかけたのだ。そして――


 くるくると思考がまわり、めまいがした。

 ひどくのどが渇いてきて、コップで水をくむ。一息に飲み干すと、口内になれた感触をおぼえた。


 さりりと口の中にふれるもの。


 わたしは、いつものようにうろこを吐きだした。


 みなれた白藍の()()()


 そしてもう一枚、黒緑の()()()


 そのうろこにみおぼえがあった。あれは夢じゃなかった。彼は出ていったんじゃなかった。

 わたしは、ぎゅっとお腹を抱きしめる。


 仕事を辞めて、実家に戻ろう。女だけの、あの家に。祖母と母と私と、娘のくらしが始まる。

 からっぽの瓶に、吐きだした二枚の()()()をいれた。


 ずっと、一生、あなたと一緒。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ