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中学のときに亡くなった曾祖母、食器店を営む祖母と母に、私。
我が家は男不在の、女だけの家だった。
曾祖母・祖母・母、三人とも結婚をしないまま娘を産んだ、いわゆる「未婚の母」である。
それゆえに、口さがないうわさや中傷がついてまわり、私自身幼いころ仲間はずれにされたりもした。
それでもひねたりすねたりせずにすんだのは、家の明るさのおかげだろう。
三人は姉妹のように仲がよく、夕飯時の台所など、にぎやかを通りこしたかしましさで、私はいつも幸せだった。
私がこの家の女たちの密なつながりの意味を知ったのは、遅い初経をみた中学二年の冬。
ふとした拍子に身内から流れる血は、生々しくぬるつき、ものうく、すべてがうっとうしく、食欲もないまま、夕飯のみそ汁をすすっている時だった。
不意に感じた違和感。
口内にさりさりとした薄いものがある。
てのひらに吐き出してみると、それは小指の爪ほどの薄く平たい「なにか」だった。私にはそれがなにかわからない。
私の手元をのぞきこんだ母が「 うろこよ」と嬉しそうに告げ、自身が吐き出したものを見せてくれた。
それは深紅と水浅葱の二枚の、うろこ。
祖母もにこにこと笑いながら、「この家の女は、みんな、うろこをもってうまれるものなの」と口元に手をやり吐きだしたのは、白練と松葉のやはり二枚のうろこ。
「うろこがはげおちるのは身体が大人になったからだ」と、快活に笑った曾祖母はその翌春、肺炎を患いあっけなく逝った。彼女の吐きだした無数の葡萄と藍鉄のうろこは、綺麗な千代紙に包まれ共に荼毘に伏された。
それから日に一度。食事のたびに、やわらかな内頬のどこかから、このうろこははげおちる。
肉でも野菜でも果物でも菓子でも関係ない。どんなものでもはんでいると、不意にしょりりと違和感をおぼえて、吐き出す。
そして、吐き出されたうろこを、めいめいガラスの小瓶にためていく。
祖父も父もいない、女だけの家での、それはひそやかな、ないしょごとだった。