第8話 勉強私服
蓮見さんの合コンあるという日、とりあえず蓮見さんのことだから昼以降、遅ければ夜中ということもあるかもしれない。
どんな業種の人と合コンするのか謎が謎を呼ぶところだが今はまだ午前中、勉強に没頭する。
ガリガリと勉強しているところに蘭鋳がやってきた。
「昨日……勉強教えてくれるって……」
忘れていたわけじゃない。
だからそんな泣きそうな顔しないでください。
「今から一緒にやろう!そもそも蘭鋳の学力がわかんないんだよな」
学校に行ったことがないはずなのでそれも当たり前だった。
とりあえず高校入試用の問題集を1つやらせてみせる。
多少時間はかかったが必死に答えを埋めていたようだった。
「えーと、数学、社会、理科はまぁまぁだね。でも国語と英語がちょっとやばいかな」
「使い魔になって1年しか経ってないのに語学なんて無理だよー」
「高校行くならやらないとね。そこらへんいい参考書あるから最初からやってみようか」
家庭教師にでもなったような気分だけど蘭鋳は飲み込みが人間じゃないレベルで良いので楽しい。
その間に自分の勉強も済ませてしまう。
1時間程経った頃に休憩を提案した。
「いいよー。リビングでお茶でも飲もうよー」
「そうしよう。僕がお茶淹れるよ」
蓮見さんが起きてくる気配はまだない。
大体いつも何時に寝ているのか疑問だ。
お茶をリビングに運び蘭鋳に渡す。
「蓮水さんと蘭鋳っていつも何時頃に寝てるの?僕は24時には寝るようにしてるけど」
「アタシも似たような感じだけど所長は朝まで作業してることが多いかなー。仕事の量考えたらそれで間に合うのか疑問なぐらい仕事のほうが多いんだけどねー」
「仕事って具体的にどんなことしてるかわかる?」
「依頼の中に呪具作成ってあるじゃないー。あれ大体が所長のお手製だよー」
朝まで物づくりということか。1件いくらなのか知らないが凄く稼いでそうだ。
1日30件ぐらいは依頼があるからそんな時間に寝るサイクルになっちゃったんだろうな。
「そこらへん手伝えたらいいのかもしれないね」
お気楽に僕が言う。
「無理無理ー。アタシが見ても何作ってるかわかんないんだもんー」
無理らしい。
蓮見さんの謎は深まっていくばかりだ。
「そういえば蘭鋳ってお給料もらってるの?」
ちょっとした疑問だった。
「月に3000円。給料じゃなくてお小遣いレベルー……」
あの激務に3000円は厳しい。
それじゃあ確かにお菓子も買うのが大変になってしまうだろう。
「僕のお給料出たらケーキでもおごるよ」
流石に不憫なので言ったらものすごい喜んでいる。
今からどこのケーキにするか悩み始めた。
蘭鋳は見ていて飽きない。可愛いから。
その後2時間程勉強して今日は解散となった。
昼食の時間になってようやく蓮見さんがリビングに現れる。
き、着物じゃない……!
黒ニットに黒ショートパンツといった今時の格好だ。
黒いけど。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございますー」
挨拶だけしてキッチンに向う蘭鋳。蘭鋳には珍しくないのか。
「普通の服持ってたんですね……」
「まさか和服で合コンいくようなことはしないわよ」
苦笑されてしまった。
「今日のお相手はどんな人なんですか?」
「何とか商事ってとこのサラリーマン」
無駄にリアルだ。医者とか弁護士とかなら納得いくんだが。
「真咲があと4つ年とってれば合コンできたのにね。うふふ」
美人だがこの人と合コンできるほど僕の神経は太くない。
好みの問題もあるのだろうが蘭鋳のほうがいい。
「思ってることが顔に出てるわよ」
デコピンされた。
「午後から出かけてくるから仕事はいつも通り頼むわね」
所長不在でも依頼を書き込むだけなのでなんら問題ない。
奥から蘭鋳のらじゃーという声が聞こえてくる。
さて、何もなければいいのだけど。