第7話 恋愛事情
その日は起きて顔を洗って歯を磨いたらすぐに勉強を始めた。
リビングを通りかかったときに蘭鋳に会ったが朝の挨拶をするだけしてすぐに部屋に戻ったのである。
ここに来てから学んだことは稼ぐためには『才能』か『努力』またはその両方が必要だということだ。
蓮見さんが普段部屋の中で何をしているのかはわからないが連日依頼の絶えないところをみると真面目に仕事をしているのだろう。
才能の上に努力をしているとも受け取れる。
僕には何の才能もない。
いや、あるのかもしれないがわからない。
それならせめて今できる勉強だけはきっちりやっていこうと思ったのだ。
来年になって蘭鋳と学園ラブコメできるかもしれない、などと思ってやっているわけではない!
自分の道を狭めないためにやっているということだ。
だが僕は未だに僕の命の重さがわからない。
いつ死んでもそれなりに満足してしまうだろう。
僕は自分が大した奴だと思えるようになりたいのだ――。
気づけば正午まで勉強していたらしい。やるときはやる、休むときは休む。
リビングに行くと蘭鋳がテレビを見ていた。
「おー。真咲ー。勉強終わったのー?」
「ガリガリやっても効果ないからね。集中できるときだけやるさ」
「アタシも来年は高校受験だからなー。勉強しなきゃとは思うんだけどー」
額に皺を寄せて悩む蘭鋳。いいこと思いついたぞ!
「だったらさ、一緒に勉強しない?1日1時間とかでも効果あると思うからさ」
「そうねー。真咲勉強できそうだし教わるのいいかもねー」
笑いながら答える蘭鋳。いい雰囲気になっちゃったりして!
「お昼は手抜きで蕎麦だけど所長起きるまで待ってねー」
蓮見さんはなかなか起きてこない。起きているかもしれないが身だしなみを整えるのに時間がかかっているのかもしれない。
「おはよう2人とも。今日もイヤなぐらい晴れてるわね」
憂鬱そうに現れた。
晴れは機嫌が良くない、と心の中でメモをとる。
「プリンが食べたい」
唐突に呟く。トーテムポール含む全員の視線が蓮見さんに集まる。
「アタシが買ってきましょうかー?」
「蘭鋳はお昼の準備があるから僕が行ってくるよ」
ポイントを稼ごうとする小さい僕。
「じゃあ3人分買ってきて頂戴。銘柄はなんでもいいわ」
そしてお金を渡され近くのコンビニまで出かける僕。
近くと言ってもあまり近くはない。
ここからだと神依学園の近くまで行かなければないはずだ。
そしてコンビニに到着する。自転車あったほうがいいな。
「荒城くん?」
聞き覚えのある声に呼ばれる。
「卯月さん?」
中学時代片思いしていた子だ。名前は卯月氷華。小柄で大人しそうな顔をしていて何気に人気があった。告白する度胸もなくそのまま道は別れたのだが。
「お久しぶり!高校行ってないって聞いてたけど元気そうで何よりだよー!」
「ああ、うん、今は働いてるんだ。卯月さんも元気そうで何より」
緊張で脳がフリーズ。あの頃のドキドキ感が戻ってくる感じだ。
「学校お昼で抜け出してきたからまたね!今度電話するね!」
大人しそうだけど相変わらず行動力のある子だった。
そして僕はプリンを3つ買って帰路についた。
「ただいまー。プリン買ってきましたよ」
「何かあったの?今そこで女に振られたような顔してるけど」
蓮見さんの目はなんでも見えるのだろうか。
「いや、振られてはいないです。中学校のときの同級生に会って」
「片思いの相手だった、と」
う!胸が痛い!
「蕎麦できたよー。真咲も食べなよー」
蘭鋳に癒される。この子はほんと癒し系だな。年上らしいけど。
「まぁその子に恋してようが蘭鋳狙っていようが何も問題ないわね」
「そういう蓮見さんは恋人とかいないんですか?」
一矢報いてやろうと言ってはならんことかもしれないことを言う。
「それがいないのよね。美人に生まれたはずなのに。今は月1で合コンに参加してるわ」
なんですとー!蓮見さんが合コンー!?似合わないにもほどがある!
「蘭鋳狙うってなんの話ー?」
「真咲が蘭鋳のこと好きかもって話よ」
顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振りつつ答える蘭鋳。
「真咲のことは嫌いじゃないけど!ほら年齢とか!」
少しパニくる蘭鋳。あまり免疫ないのだろうか。僕もない。やばいドキドキしてきた。
年齢は僕あんまり気にしないけど!実際何歳なのかは流石に聞けないし。
「あ、合コン明日だったわ。今日はちょっと残業しなくちゃね」
意外に乗り気で行ってるらしい。こう見えて結婚願望とかあったりするのだろうか。
そもそも合コンで浮かないだろうか?
その日はなんだか蘭鋳がちょっと優しかった。これはどうなんだ!脈アリなのか!
蓮見さんの合コンも気になるけど。




