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Strange Black  作者: 月夜烏
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第6話 賭事失敗

 午後から時間をもらって荷物を運び込むことになった。

 荷物と言っても着替えだの歯ブラシだの勉強道具だのと大きなものはなくすぐに終わった。

 運び込むだけ運び込んで片付けは夜やることにしてバイトに戻る。

 今日も電話が多い。

 バイトなしのときはどうしていたのか蘭鋳に聞いたら、


「全部アタシ1人でやってたよー。バイト雇う予定とかなかったしねー」


 とのことだった。

 なんてハイスペックなコなんだろう。

 いや、使い魔か。

 使い魔と言われても見た目は人間だし何が違うのかまったくよくわからない。

 使い魔で思い出したけれど菫さんはどうなったんだろうか?

 あの森には結界が張られていると蓮見さんが言っていたが僕が入ったときはそんなものなかったような気がする。

 電話の中でも多いのが森への立ち入り許可を求めるものなのだがこれはその結界を越えられないから求めているのだろう。

 ちなみに僕がバイトを始めてから許可された例はない。

 あの森になにがあるっていうんだ。


「真咲ー。休憩ー」


 気の抜ける声で休憩を告げられる。勿論電話線は抜く。

 僕が買ってきた菓子折りがまだ残っているのでテーブルに並べられる。

 お茶は蘭鋳が淹れてきてくれた。


「あの森の立ち入り禁止って何か意味あるの?」


「あー。詳しいことはわかんないけど、結構危険な場所らしいよー」


 ガスでも溜まっていたりするのだろうか?


「いや、そういうんじゃなくて霊的に危ないんだってー」


 霊的と言われてもなかなかピンとこない。この前の幽霊退治のような危なさがあるのだろうか。


「駆除士が怪異を狩る仕事だってのは知ってるよねー?その怪異がうじゃうじゃいるんだってー」


 つまりお化けの巣なのか。蓮見さんと出会ったときは生き物すら見なかったが運がよかったのだろう。


「蘭鋳は行ったことないの?」


「勿論あるよー。というかアタシが召喚されたのは森の奥でだからねー」


「お、森の奥にはなにが?」


「ある意味何もない、あはは」


 愉快そうに笑う蘭鋳。正直ちょっと意味がわからない。

 そんな会話をしていると蓮見さんがやってきた。


「菫、なかなか粘るわね。もうそろそろ諦めて100万準備してても良さそうな頃なのに」

 うっすら微笑んで言う。本気で100万取るつもりだこの人……

 まぁ賭けなのだから負ける方が悪いといえば悪い。


「所長ー。万が一にでも結界突破されたらどうするんですー?」


「ありえないわ。億が一にもないわね。あの結界を突破したのは今までたったの1人よ」

 へーそんな無謀な奴がいるんだ。

 何を求めてそんなところに踏み入っていったのか教えて欲しいもんだな。


「何他人のフリしてるのよ。貴方よ、真咲」


 ゑ?

 結界なんて触れた記憶もないし見た記憶もない。


「あの時なんでか知らないけれど結界を突破されて焦ったわよ。突破されたけど結界は壊れてないしどうやったのか未だに謎だわ」


「なにか異能持ちなんじゃないですかー?」


「それはあるわね。次の休みにでも実験してみましょうか。うふふ」


 本人を置き去りにして話は進んでいく。

 僕に特別な才能が?ないと思うけどな。


「異能持ちだったら時給上げないとダメね」


 目覚めろ僕!


「結界を突破できる異能、ね。まぁ色々考えられるから色々試すことになるわね」


 そんな感じで盛り上がっていたところにインターホンが鳴った。

 蘭鋳がすかさず出る。


「はい、蓮見……あぁ菫かー。今開けるわー」


 半泣き姿の菫さんが入ってきた。

 分厚いにも程がある封筒をポンと置き、


「今回は負けを認めるわ!」


 強気に敗北宣言するのであった。


「しかしなによあの結界。そもそも本当に破れるんでしょうね?」


「破れるかは別にして突破した人ならちゃんといるわよ」


「誰?」


「そこに座っている真咲。うふふ」


 菫さんがキッっと僕を睨みつける。僕が悪いんじゃない!


「貴方、どうやったらあんな要塞みたいな結界突破できますの!?」


 突然の詰問が始まった。蓮見さんはすでにこちらを見ていないし蘭鋳は最初からこちらを見ていない。見てるのはトーテムポールぐらいだ……


「えー、運がよかったと申しますか、悪かったと申しますか……」


「企業秘密ってことね!貴方が雇われている理由がわかったわ!」


 しかし元気な人だ。100万失ったばかりだと言うのに。


「今日はこの辺で帰ります、でも管理人の座は諦めませんからね!」


 そう言い残し去っていった。


「今日は外食決定ね。うふふ」


「アタシ回ってない寿司がいいですー」


 すべてこの世はこともなし。

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