第5話 管理権限
親との相談(?)は困難を極めた。
ニートやってた僕がいきなり住み込みのバイトをしたいというのだから当然だろう。
「そもそもその研究所とやらは何を研究しているんだ?」
これには参った。なにせ僕にも正直よくわかっていない。
だが鎮守の森の管理人というちゃんとした仕事をしてる人だということでそこらへんは有耶無耶に押し切った。
またバイト代も高額なため『稼げれば良し』としている父は唸るばかりであまり反対はしてこなかった。
母がなかなか折れず苦労したがちゃんと今まで通り勉強することの確約と週に1度は家に顔を出すことで合意を得た。
……あれ、あんまり苦労してないな。まぁニートやってるより生産性があると思われたのだろう。僕もそう思う。
研究所へ電話をかけるが電話線を抜いてる時間のため繋がらない。
蓮見さんは携帯を持っているが番号を知らない。
蘭鋳は携帯を持っていない。
以上の理由により午前中から出勤して親の合意が得られたことの報告をすることとなった。
研究所までやってきてインターホンを押すと蘭鋳が出た。
『あれー?早いねー。何かあったー?」
「住み込みの話、親がオッケー出したから早く報告しようと思ってさ」
『あー。所長まだ寝てるんだわー。とりあえず起きるまで中でお茶でも飲んでよーか』
そう言いドアを開けてくれる蘭鋳。
まだ決まったわけではないので荷物は持ってきていないがコンビニで菓子折りだけは買ってきた。
「まだ決まったわけじゃないけどお世話になるのに手ぶらじゃなんだと思って」
菓子折りを蘭鋳に手渡す。甘いものが好きなのか見えない尻尾を振っているかのように喜ぶ。
「いやー最近お菓子食べてなくて助かったよー!」
目をキラキラさせながら言う。こんなに喜ばれるなら駅の向こうまで行ってちゃんとしたものを買って来ればよかったかな。
とりあえず上がりソファーでくつろぐ。
すぐさま蘭鋳が紅茶を出してくれた。
「所長は正午までほぼ確実に起きないからお昼も食べていきなよー」
そんなに寝るのかあの人は……
「その間蘭鋳は何してるの?」
「掃除に洗濯と家事をこなすのよー。夜中にやりたい仕事じゃないしねー。あはは」
まぁマンションだし夜中にやることじゃないのだろう。
と、そんな取り留めのない話をしているとインターホンが鳴った。
「はい。蓮見超心理学技術研究所です」
余所行きの蘭鋳に切り替わる。こんな時間に誰だろう。
「えー。またアンター?いい加減懲りたほうがいいんじゃないー?」
あっさり余所行きの対義語に戻る蘭鋳。一体誰なんだろう。
「所長起きるまで待つなら開けてもいいけどー?ああそう、んじゃ開けるから待ちなさい」
どうやら入ってくるようだ。
スタスタと足音が聞こえ姿を現したのはウェーブのかかった金髪にキツめだが美人な顔立ちの烏を肩に乗せた女性だった。少女かもしれないが年齢がわからない。
「あら、新入りさん?」
あちらの方が常連さんらしい。とりあえず挨拶でもするか。
「先日バイトで入った荒城真咲です。よろしくお願いします」
「清宮菫です。ここの所長のライバルというところかしら」
「ライバル視してるのは菫のほうだけだってばー」
蘭鋳が注釈を入れる。つまりこの子も術師ってやつなのか。
よく見ると僕より少し年上な感じがした。
「おだまり。少し上等な使い魔だからって調子にのって。ちなみに私の使い魔はこの烏、名前は静よ」
「せめて喋れる使い魔作れるぐらいじゃないと所長はライバルとか思わないと思うんだけどなー」
蘭鋳は高等な使い魔らしい。それにしても烏とは使い魔のイメージにぴったりだ。
使い魔だけで術師の腕が決まるのなら蓮見さんの圧勝だろう。
術師の世界はよくわからないので黙っておくが。
「あら?真咲に菫じゃない。こんな時間にどうしたのよ」
やっと蓮見さんが起きてきた。寝起きっぽさを全く感じないが着物まで着てるあたりしっかり準備してから出てきたのだろう。
「千波矢さん!今日こそ鎮守の森の管理人の権限渡してもらいますわ!」
急に戦闘モードに入る菫さん。展開についていけない。
「イヤよ」
終わった――。
それもそうだ、うん、と言わなければ話は終わるのだから。
そして固まる菫さん。南無。
「真咲も少し早いわね。どうかしたのかしら?」
「親の同意が得られたので住み込みお願いします!」
誠心誠意頭を下げる。ここでの暮らしは考えるだけで心躍るものがある!
「こっちから提案した話だし勿論いいわよ。午後から荷物運び込みなさい。部屋は私の寝室の隣が空いてるからそこでいいわね」
てきぱきと話が進んでいく。
「ちょっと!待ちなさい!まだ話は終わってなくてよ!」
お、復活した。
「勝負、そう勝負しなさい!私が負けたら100万払うわ!勝ったら管理人の権限渡しなさい!」
管理人の権限に随分拘る人だなぁ。100万で高いのか安いのかわからないけど。
「わかったわ。24時間以内に鎮守の森最奥に行って証拠を持ってきなさい。勿論私の結界が張ってあるけどいいわよね?うふふ」
「わかったわ!今から24時間としましょう!書類一切揃えておきなさいよ!」
それだけ言って足早に去っていった。本当に大丈夫なのかあの人。
「それじゃお腹が空いたわね。お昼にしましょうか」
本当に何もなかったかのように日常に戻ったのである。