第4話 幽霊退治
その日は6時に閉店し一旦家に帰り食事をして風呂に入りまた研究所へと戻っていった。
着替えだけ持って研究所でご飯食べてお風呂借りれば色々と素敵なこともあったかもしれないのだがそこまでの度胸がなく情けないばかりだ。
研究所に戻ると何をするでもなく2人がソファーで伸びていた。
「あら、早かったわね。もう少しゆっくりしてきても問題なかったわよ」
家にはあまりいたくないという理由があるのだがそれはなんとなく言えない。
「あ、ニートだったものね。家にいても辛いだけよね。うふふ」
隠し事は出来ないものだな……
とにかく両親の目がきつい。また死にたくなるほどだ。
「じゃあ研究所の空き部屋に住めばいいじゃないー」
軽く蘭鋳が言う。女性2人で暮らしているようなところに住むのは気が引ける。
いや、嬉しいのは嬉しいのだがそこまで頼っていいのかと思うわけだ。
「それいいわねぇ。真咲、両親にちゃんと話しておくのよ。うふふ」
何故か嬉しそうな蓮見さん。
親になんて言えばいいのだろうか。これは大事になってきたような気がする。
「アタシは家事が半分になるから大歓迎だぞー!」
すごいわかりやすい理由で歓迎されているらしい。
蘭鋳や蓮見さんと生活を共にするというのは魅力的な話だ。なんとしても親を説き伏せて実現させたいところである。
「頑張って親を説得してみます!」
熱い情熱できっと成功させてみせる!
「とりあえず両親の了解を得てから部屋を作ることにしましょう。それより問題は今日の依頼よね」
物憂げな表情でそう呟く。
いつもはにこにこしている人だがたまにこういう表情を見せる。
「厄介な仕事なんですか?」
業務内容を完全に理解していない僕にはよくわからない。
「簡単に言うと市の公共施設にお化けが出るらしいのよ。出たら駆除するのが駆除士の仕事だから勿論駆除士を呼んで駆除したわけなんだけど何度でも出てくるから困った話なのよね。追い出しても入ってくるから入らないようにする、というのが今日のお仕事よ」
なるほどわかりやすい。
だがそれに僕が同行する意味があるのだろうか?
「3人いれば楽ではあるけど多少危険なのが問題よね」
今危険って言った!?
「私が儀式を行っている最中真咲が霊を集める、蘭鋳はそれを追い払う。完璧な布陣だからそこまで悩むこともないわね。うふふ」
僕は所謂囮というやつらしい。
幽霊なんて見たこともないが怖いものは怖い。
僕を守ってくれるのは蘭鋳ということになるのだけど……
「まーそんなに心配するなー。アタシが守るんだから」
見た目12~3歳の少女に言われてもまったくもって安心できないのが悩みの種だ。
そんな不安気な僕を見かねた蓮見さんがアドバイスをしてくれる。
「どうせ見えないのだから黙って座っていればすぐ終わるわよ。うふふ」
不安は消えなかった。
その後すぐに市の車が迎えにきてそれに乗り込んだ。助手席に蓮見さん、後部座席に僕と蘭鋳だ。特に会話もなく現地へと運ばれていく。
公共施設とは聞いていたが何の施設かすらわからない。中に足を踏み入れるとゾワっと寒気がした。
「奥の、あれは会議室かしら。どうやらあそこのようね」
まったく見えない僕には何もわからないが蓮見さんが言うならそうなのだろう。
会議室の中に入る。それと同時に全身鳥肌が立ち危険を訴える。
「そこらへんの椅子に座っていていいわよ。一時間ぐらいで終わるから」
言われて近くの椅子に腰掛ける。冷や汗が出てきた。怖いというレベルじゃない。
「まーそんなに緊張すんなってー。リラックスできないのはわかるけど」
蓮見さんの儀式はすでに始まっているらしく壁に複雑な紋様を描いている。
イメージとは違い呪文を呟くわけでもなくただ祈っているようにしか見えない。
「今日のは穴、というか孔を塞ぐ儀式だからなー。見えない人が見ても何も楽しくないよねー」
蘭鋳はお気楽だ。だがたまに素早く動いて虚空を殴るような動作を見せる。
その度に体への重圧が弱まるのだから、なるほど守られているのだろう。
ところで孔ってなんだろう。
「蘭鋳、サンキューな」
儀式が進むごとに手足が冷たくなっていっている気がする。疑問も吹き飛んでいく。
そのまま約1時間が経過した頃蓮見さんが立ち上がった。
「はい、終わり。蘭鋳、全部片付けてしまいなさい。うふふ」
仕事が終わったからなのか少しご機嫌だ。
「真咲も楽にしていいわよ。もう身体は普通に動くでしょう?」
踊っているかのような蘭鋳を尻目に自分の身体をチェックする。
あれほど恐怖で動かなくなっていたのが嘘のように体が軽い。
「所長ー。終わりましたー」
蘭鋳が終を告げる。
なんとも恐ろしい夜だった。帰って1人で眠れるだろうか?
その後外で待っていた車に乗車し研究所へと帰還した。
「今日のボーナスは2万円つけてあげる。給料日を楽しみになさい。うふふ」
頑張ったご褒美だろうかそんなことを言われた。
何もしていないのに酷く疲れた。帰って休もう。
「また明日なー。ちゃんと寝ろよー」
「ご苦労さま、帰り気をつけるのよ」
家にはない優しさ。
やはりここに住むのが俺の最善と悟った。