第2話 業務内容
「それじゃあ詳しい業務内容は蘭鋳に聞いて頂戴。私は奥の部屋で仕事してるから何か困ったことがあったら来るのよ?」
それだけ言い残し奥の部屋に消えていく蓮見さん。
そもそも何の仕事をしているのかすらよくわからないのだが。
そんな疑問は置いておいて目の前の仕事に集中しよう。
「蘭鋳、バイトとか未経験だけどよろしくね」
精一杯優しく言ってみた。これで好感度が上がるとは思えないが何でもやってみるものだ。
「仕事の中身は簡単よー。あなたは電話を受けて、依頼主・依頼内容・電話番号、これだけをメモっていくだけなんだから」
それは随分と簡単だ。
時給1500円ももらっていいのだろうか。
「とは言ってもそれぞれの依頼内容によって受け答えが違うからこっちの業務内容サービスマニュアル(手書き)を見ながらやるのよー」
業務内容サービスマニュアルをぱらぱらと捲ってみる。
この依頼にはこう答えなさい、というものが大雑把に手書きで書かれていた。
依頼主が誰だったら、という欄もあるのだがほとんど空白に等しい。
お客で仕事が変わるようなものではないらしい。
「電話かかってくる量は多いの?」
わざわざバイトを雇うぐらいなのだからそりゃ多いのだろうが気になった。
「1日100件近くはかかってくるわね。何か勘違いした電話も多いんだけどー」
それはまた多いのか少ないのか判断でき兼ねる数字だ。
全体的な仕事の流れがわからないので訊いてみることにする。
「僕がメモをとることはわかったんだけどそれを蓮見さんに持っていけばいいのかな?」
「そのメモはアタシに渡してちょーだい。パソコンで清書して所長のところに持って行くから」
意外と近代的な処理フローになっているらしい。
「それで所長からこの仕事は断って、この仕事は引き受けて、ってのが来るからそれに沿って真咲がまた折り返し電話をするの」
さらっと呼び捨てられる。ちょっと嬉しい。
なにはともあれ仕事の中身はわかった。実践するのもそう難しくないだろう。
脱ニート!
「ちょっとした疑問なんだけどパソコン使えるのにサービスマニュアルはなんで手書きなの?」
このぐらいならパソコンで作ったほうが早いと思うんだけど。
「所長が作ったからよー。所長パソコンまったくだめだから。使い魔に出来て本人に出来ないはずないんだけどね」
笑いながら答える蘭鋳。笑った顔がまた可愛い。
それにしても聞きなれない単語だが使い魔とはなんだろう。
「蘭鋳、その使い魔ってなに?」
「術師が行うまでもない仕事の代行をする生き物の総称って言えばいいのかしら?魔女と黒猫みたいな」
黒猫と蘭鋳じゃレベルが違いすぎる気がしないでもないのだがそういうことなのかと納得する。
ってことはつまり?
「蘭鋳は人間じゃない?」
「違うわよ。年齢も何千歳とかって話になるだろうしあなた達人間とはそもそもの部分から違うわー」
人間じゃないなら法的にひっかかることもない!
ビバ使い魔!
「何を喜んでいるかは知らないけどあとはお茶の淹れ方とか香台の管理とか細々した仕事もあるからそっちいくわよ」
お茶の淹れ方ぐらいは一応知っている。これは習わずとも出来た。
毎日決まった時間にお香を焚くらしくお香の種類やら香台の手入れの仕方やらを教わった。
蓮見さんは定期的に現れてお茶を要求する以外は奥の部屋に閉じこもって作業しているらしい。
蘭鋳にお茶を淹れてもらい一息ついているところに蓮見さんが現れた。
「あ、蘭鋳、私にもお茶頂戴。どう真咲、上手くやっていけそう?」
蘭鋳がはーいと言って台所に消えていく中そんなことを聞かれた。
「業務そのものはそこまで複雑じゃないのでなんとかやっていけると思います」
「それはよかったわ。あと、何かわからないことや困ったことがあったら蘭鋳か私に訊くのよ」
絶対にそうなる、と言われたような気分だ。
蘭鋳がお茶を持って現れる。
実に平和だ、って、え?
「今日まったく電話かかってきてませんよね?このペースなんですか?」
「今日は日曜日、これだからニートは……」
蘭鋳が苦笑いしながら言う。
毎日日曜日だった僕には確かに曜日感覚がないのかもしれない。
「日曜は電話応対しない日なのよ。バイトは出てきても来なくてもどっちでも構わないわ。仕事そのものはあるわけだし。うふふ」
僕が出てくることを予想しているかのような……
「あぁ事務以外にもたまに仕事与えることになるけどいいわよね?そんな大したことじゃないけれど」
否応ないと思う。
だがあとになって後悔することになる。事務以外の仕事がそんなに辛いものだったなんて。
結局その日はレクチャーだけで終わり家路についた。今はまだ普通のバイトのようだった。