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Strange Black  作者: 月夜烏
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第20話 誘拐犯罪(中)

 とりあえずずっとナイフを向けられているわけではないようだ。

 銃と比べてひどく暴力的に見えるナイフをずっと向けられて平静を保っていられる自信がない。

 誘拐された時点で平静など吹き飛んでいるのだがそれはそれ。

 車に乗せられ何処に向かうのかと思えば今や馴染みの深くなった鎮守の森だった。

 誘拐と言えば誘拐された側はさっさと殺されるか監禁されるイメージがあったので監禁されない=殺される、という図式が頭に浮かんだ。


「おい、飲むか?」


 何故か誘拐犯が缶コーヒーをくれた。

 それでようやく気づいたのだがどこも縛られていないし最初の脅し以外刃物も向けられていない。

 何が目的なのかと考えるが僕に用事があるとは思えないし営利誘拐とも思えない。

 つまりは研究所絡みのことなんだろう、と思うと少し気が楽になった。

 蓮見さんと蘭鋳ならなんとかしてくれる――そんな気がする。


「今からお前をダシに蓮見千波矢を呼び出す。余計なことは喋るな。いいな?」


 簡潔明瞭に目的を明かしてくれた。推測は間違っていなかったようだ。

 とりあえず声を出していいのかわからなかったので2度頷く。


「それでいい。大人しくしていろ」


 僕の行動は正解だったらしい。

 それにしてもこの人達は蓮見さんに何の用なんだろうか。

 今から呼び出すと言っても蓮見さんは不在のはずなんだが。


「蓮見千波矢はいるか?」


 すでに研究所の方へ電話をかけているらしく僕は聞き耳を立てることにした。

 今電話に出ているのは蘭鋳だろう。


「不在か。なら伝言を頼む。お前のところの坊主は預かった、殺されたくなければ結界を解く準備をして鎮守の森、南から入って2kmの地点まで4時間以内に1人で来い。以上だ」


 蘭鋳の驚きの声がここまで聞こえてくる。

 この人達は例の孔とやらを狙っているのか。

 蓮見さんはああ見えて携帯を持っているからすぐに伝わるだろう。

 蓮見さんが来るまでは安全と考えていいんだろうか?

 伝えることを伝えたらすぐに電話を切っていた。

 

「聞こえていただろう?蓮見千波矢が来るまでは安全を保証してやる。だが妙な真似をすれば殺す」


 殺す、この一言が脅しではないことが伝わってきた。

 異能を使ってどこかで逃げられないものかと考えていたが下手な行動はまさに自分の首を絞める結果になりそうだ。

 この誘拐犯達は僕が逃げることをあまり警戒していないように見えるのはいつでも殺せるという自信からきている。

 蓮見さんが現れれば何かチャンスが生まれるかもしれない。

 その時まで今は我慢だ。

 蓮見さんが来ることを疑ってもいないが時間に遅れたらやっぱり僕は殺されるだろう。 あの時は感じなかった死の恐怖が僕を苛む。


 そして車は鎮守の森の入口まで来ていた。


「降りろ。ここからは歩きだ」


 言われて素直に降りる。

 あたりを見回すと思った以上に誘拐犯の数は多かった。

 数えてみると計14名。

 これはどう足掻いても逃げるのは無理そうだった。

 僕を中心として鎮守の森を歩いていく。

 確か2kmの地点と言っていたからまだまだ目的地は先だ。

 そこが結界ぎりぎりの地点なのだろうか?

 誘拐犯達は無駄口を叩くことなく、むしろ緊張さえ感じられる様子で歩いていた。

 蓮見さんを敵に回す、ということがどういうことなのか僕にはわからないがこの様子だととても重いことなのだろう。

 やがて先頭を歩いていた男が足を止めた。どうやらここが目的地らしい。

 異能に目覚めた所為なのかうっすら結界との境界線がわかる。

 ここで透化して結界の向こうに逃げたらどうだろうか?

 もし透化した状態でも何かされることがあればやっぱり殺される、ここは自重しよう。 そのまま特に何もせずぼーっと時間が過ぎ去るのを待った。

 2時間程経過したぐらいだろうか、遠くの方から、ざっざっ、と聞き覚えのある音が響いてくる。これは蜘蛛の足音じゃないだろうか。


「全員戦闘態勢をとれ」


 僕にナイフを向けた男が主犯格らしく全員に命令する。

 14人の男たちそれぞれが刀だの銃だの物騒なものを取り出す。

 主犯格の男は再び僕の喉にナイフを押し当てた。

 足音が近くなりついに蓮見さんの姿が見えた。蜘蛛からは降りているが蜘蛛は追従している。


「あら、意外に多いわね。これは困ったわ。うふふ」


 何も困ってなさそうな様子で集団の真ん中へやってくる。


「この通り人質の命は預かっている。結界を解除してもらおうか」


「結界を解除したらやっぱり殺すのでしょう?それじゃやる気でないわねえ」


「大人しく解除すれば危害は加えない」


「結界解いてもいいけれど時間かかるわよ?」


「どのくらいだ?」


「3時間は欲しいわね」


 蓮見さんはいつものペースだが視線は僕に来ている。何か指示されるならもうすぐだろう。


「その前に可哀想な人質と会話してもいいかしら?うふふ」


「…………いいだろう。手早くしろ」


 そして完全にこちらに顔を向ける蓮見さん。

 ゆっくりと腕を上げ結界の方向に指差し、


「真咲、自殺なさい」


 自殺、つまり僕の異能を使えということだ!

 指差した方向、結界の中に透化して逃げろと受け取った!

 僕は即座に透化し結界に向かって走る。


「貴様っ……!」


 発砲されたが透化しているので問題なし!

 すぐに結界内に飛び込んだ。


「うふふ。これで人質はいなくなったわね」


「直接お前を脅すまでだ。命が惜しかったら結界を解け!」


「蘭鋳、殲滅」


 短い言葉で命令を下すと戦闘が始まった。

 いや、戦闘とは呼べない代物だったのだが。

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