第1話 勤労意欲
それから3日、悩みに悩み抜いて結局話だけでも聞こうとお札に書かれた住所を尋ねることにした。
死ぬ気は多少失せたのだが高校にも行っていなければ働いてもいない、こんな状態では何も進まないと思ったからだ。
言い方は悪いが正直怪しいバイトの募集だと思う。
一体なにをさせられるのか想像もつかない。
それでも尋ねていこうというのだから僕も相当な変わり者だ。あの女性には負けるが。
この街は駅を境に南北で分かれている。
特に区があったりするわけではないのだが皆分かれているという認識だ。
僕の家は北側の住宅街の中にある。
お札に書かれた住所も北側だが北側の奥にある高級住宅街のようだ。
その中でも一室何億円という噂のあるマンションのようだった。
フォートレス神依26階4号室。
ついにその一室の前まで来てしまった。
妙な看板がぶら下がっていて『蓮見超心理学技術研究所』と書かれている。
表札の代わりなのか他にはなにもない。
ここまで来て緊張してきた、上手く口が回るだろうか。
意を決してインターホンを鳴らす。
『どちら様でしょーかー?』
あの女性ではないもっと幼い感じの声が聞こえてくる。
名乗った覚えはないけれど名乗るのが筋というものだろう。
「あ、あの、僕は荒城真咲と申しまして、先日バイトの勧誘を受けたものです!」
多少かんだがきっちり言えた。
インターホンは繋がりっぱなしのまま向こうから声が聞こえてくる。
『所長ー。前に言ってたニートの人来ましたよー。どうしますー?』
ニートではないと言いたいが言えない。ニートだから。せめて予備校にでも通うべきだったのかもしれない。
『お待たせしましたー。すぐ開けますねー』
ガチャリと音がしてドアが開く。
出迎えてくれたのは見たところ12~3歳ぐらいで金髪ツインテールの可愛い子だった!
ストライク!だが法的にはアウト!
それでも僕の中の主審はストライクと叫んでいる!
少し、落ち着こう。今しなければならないのは挨拶だ。
「あ、荒城です。よろしくお願いします」
「はいー。お話は伺ってますー。とりあえず中へどうぞー」
可愛い声に案内されて中へと入っていく。
リビングに通されたのだがある一点を除いて不可思議なところはない。
その一点が大事なのだが何故部屋の隅にトーテムポールがあるのだろう。
心なしかこちらを見ているような気がして気持ち悪い。
「あー。アレ気になりますか。所長の趣味なので我慢してくださいねー」
所長とはあの女性のことだろうか。
趣味って……。
ソファーに座りトーテムポールと僕というタイトルで作文を考えていたところに彼女は現れた。
「久しぶり、でもないわね。バイトやる気になったみたいでよかったわ。うふふ」
ご機嫌な感じで彼女は笑う。
今日は黒を基調に金で絵の描かれている着物を着ている。
髪は腰まで伸ばし前髪はぱっつんで美人な彼女にとてもよく似合っている。
かなり不躾にじろじろと見たがさっぱり年齢が予想つかない。
ちなみに身長はさっきの金髪の子が150cmないぐらいで彼女は160cmぐらいだろう。ちなみに僕は170cmぐらいだ。
「ちょっと考え事はあとにしておでこ触らせなさい」
唐突に手が伸びてくる。
抵抗もできないままおでこを触られる。少しひんやりしていて気持ちいい。
その状態が20分ぐらい続いただろうか。
「とりあえず話聞きに来た、ね。貴方にやってもらうのは事務仕事よ」
おでこを触って何が分かったのかそんなことを言う。
しかし事務仕事なら何の心配もない。これはやってみるのもありかもしれない。
「時給は1500円、出勤は出来るだけでいいわ。かなり高待遇だと思うけどどうかしら?」
何の不満もない。これは飛びついてもいい話だろう。
「働かせて頂きます!よろしくお願いします!」
さっきの可愛い子もいるし薔薇色のバイトかもしれない。
「よろしくね。私は蓮見千波矢、ここの所長をやっているわ。好きに呼びなさい」
そう言われ握手を交わす。蓮見さん、か所長、あたりだろうか。
「それでこっちの金髪が私の使い魔兼助手の蘭鋳よ。仲良くしてね。うふふ」
蘭鋳がぺこりと頭を下げる。
「蘭鋳だ。一応先輩になるし年上だから敬うんだぞー。」
年……上……?
困り果てて蓮見さんを見ると少し嬉しそうに言った。
「間違いなく蘭鋳のほうが年上ね。ちなみに蘭鋳はこういう字を書くから」
メモ用紙の裏に『蘭鋳』と書かれる。
「金魚……?」
思ったことを素直に言ってしまった。
「アタシを金魚っていうなー!生意気なメガネめー!今日からお前のあだ名はメガネだ!」
不用意な一言であだ名がメガネになってしまった。
印象は悪くなってしまったかもしれないがまだ挽回のチャンスはある、頑張ろう!
美女に美少女、勤労意欲の湧く職場だった。