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世界革命 the World Revolution  作者: 東海 慶
第一章《死者と生者》
8/8

あんちゃん登場

 彼は空から突然、現れた。

 ばさぼさに伸びた長髪を気にも止めていなのか、前髪の間から眼が俺を見つめる。

 変わり果ててはいるが、その顔立ちには見覚えがあった。


「あんちゃん……?」

「先輩と呼べと言ってたろうが」


 ぼやいて、彼は一メートルは優に越す自身の獲物を放り投げる。

 地面と接触したそれは、しかし吸い込まれるようにして地面に消えた。


 神谷(かみや)勇真(ゆうま)


 彼は近所に住む俺の二つ上の幼馴染。

 小学校の頃は近所のガキ大将のような存在で、中学時代には俺と信之に剣道を教えてくれた先輩であった。


 なんでここにいるのか。

 そんなことも気になったが、おそらくあんちゃんのことだ。

 面白そうとかそういう理由だろう。


 半分だけ開いたような目は、片膝をついて刀で支えている俺を見る。


「ずっと見てたが、なんだあのヘボい戦い方は」

「ヘボいっていうなよ!

 ……つーか、ずっと見てたのなら早く助けろよ」

「へいへい」


 飄々(ひょうひょう)とした態度は今でも変わらない。

 あんちゃんが高校に入ってからまともに会っていなかったが、この様子だと全然変わっていないようだ。


「とりあえずついてこいよ、俺の隠れ家に案内してやる」


 そう言って笑った姿は、やはり以前のあんちゃんのままだった。



‐‐‐



「んで、なんであんなところにいたんだ?」


 一体、この人はどういう生活をしているのだろう。


 森の中に切り開かれた土地に立つ小さな小屋。

 門番なのか、幻獣と思われる狼のようなものを三匹飼い馴らし、外に遊ばせていた。


 森に近づいてはいけない。

 もはやこの人には常識など通用しないのだろう。


 俺は余計なことを考えるのはやめて、大和と甲斐とあった出来事を洗いざらい全て話した。

 多少愚痴も入ってたと思う。

 そのせいか、話し終わった時には少しすっきりした気分だった。

 静かに聞いてくれたあんちゃんは、しばらくだんまりとしていた。

 そうして、ゆっくりと口を開く。


「マジやべぇwwwお前、フラれてんじゃんwwww

 つーか、好きな子の前で親友の色恋沙汰バカにするとか、終わってるwwww」


 これ見よがしに机をばんばん叩いて大笑いするあんちゃんに、俺は手元にあった球を投げつける。


「うわ、馬鹿っ」


 投げつけた球は衝撃と共に煙を発し、小屋の中は煙に(あふ)れた。

 慌てて窓を開けたあんちゃんの判断のおかげで、どうやら俺たちは一命を取り留めたようだ。


「ばっかやろう!

 中には爆発するやつもあるんだぞ。

 そういうことは、俺以外にしろ!」

「止めるなら責任もって自分以外のも止めろよ」


 なんて自己中心的な人なんだろう。


 あんちゃんはまだ(けむ)い室内に干してあった肉を気にした様子もなく口に(くわ)える。

 おい、大丈夫なのか、それ……?


「まあ、あれだよな。

 初恋は失敗するもんだっていうしな。

 世の中、恋すらできねぇ奴らもいるんだからww気にすんなwww」

「それってあんちゃんのことか?」

「ばっ、ばか野郎!

 俺ほどになれば嫁ぐらい何人もいるわ」

「……画面から出てこない嫁ですか?」

「てめぇ、今二次元を馬鹿にしただろ!? 

 男たちの理想から生まれた天使たちを馬鹿にしただろう!!」


 どうやらアニメ好きは中学の時から直っていないようだ。

 未だに部屋にはタペストリーとかあるのだろう。

 今となっては調べようもないが。


 久しぶりにあんちゃんとバカな話をしていたら、なんだか気が晴れてきた。

 そうだよな、フラれても人生が終わるわけじゃない。

 俺は何を自暴自棄になっていたのか。

 甲斐の実力だって、別に焦って追いかけなくてもいいんだ。

 なにも今すぐ強くならなきゃいけないわけでもないんだから。


「なに悟った顔をしてんだよ」

「あんちゃん、俺まさに武士の境地に達したよ……」

「トーシローが何言ってんだ、バカ野郎」


 弟子とも言うべき存在になんて口を聞くのかね、この男は。

 ……そうだ、弟子と言えば信之のことなにか知ってないかな。


「実は俺、この世界に人探しに来たんだけど」

「……お前、いつゲート潜ったんだ?」


 あんちゃんは笑っていた口を閉じ、テーブルに肘をついて尋ねる。

 人探しに行くということは、人が行方不明になったと知った後の話だと気づいたのだろう。


「ゲ、ゲートが開いた……次の日」

「お前、馬鹿か?」


 先ほどまでの小ばかにした態度ではない、真面目な口調。

 その口から告げられた、馬鹿の烙印(らくいん)


「ゲートを(くぐ)ったこともそうだが、森に入ったこともそうだ。

 危険と分かっていて、なぜやる?

 それがどれだけ危険だか分かっていて、それでも(なお)やるっていう覚悟があるならいいさ。

 でもお前、違うだろ?

 なめてるよな?」


 その通りだった。

 悔しいが、その通りだった。

 アギフさんに助けられなかったら今頃牢屋の中か、(ある)いは飢え死にしていただろう。

 あんちゃんに助けられなければ、間違いなく死んでいた。

 死ぬ覚悟なんて、ないくせに。


「いいか、忘れんなよ。

 お前に救いたい奴がいるように、お前を心配する人だっているんだ。

 お前の身体はお前のものだが、だからって危険に晒していいもんじゃねぇだろ」

「……そうだね」


 そうだよな。

 仮に俺が死んだりしたら、父さんや母さん、それに湊を傷つけてしまう。

 あいつのことだから、あの時俺を行かせた自分を恨むかもしれない。

 それに、信之だって……。


「それにお前が死んだら、二度と湊ちゃんに会いに行けなくなるだろうが」

「おい、こらロリコンっ!

 俺の反省を返しやがれ!

 つーか、人の妹に(よこし)まな感情抱いてんじゃねぇよ!」



「で、誰を探しにこっち来たんだよ?

 できるだけ協力してやるから、言ってみ」


 その後、俺はロリコンじゃないから始まった「中学生はロリなのか?」の議論が一段落ついたところで、いつの間にいれたのかお茶を飲みながら、あんちゃんは俺に説明を促す。


「えっと、まずあんちゃんも知ってる信之なんだけど」

「なにお前?w 男のために命はってんの?ww

 ホモォwww」

「ちげぇよ!

 てか、その耳に残る発音むかつくんだけど!」


 人が大事な話してるのに、ちゃかしやがって……!

 まじで、世界でも屈指のウザさを誇ってやがる。


「というか、あいつなら知ってるぞ。

 今は中国に行ってる」

「は……?」


 イマナンテイイマシタ、コノヒト?


「だから中国。チャイナ。

 世界の状況を調査するために、同盟から派遣されてんだよアイツ」

「世界の調査って……。だって、あいつただの高校生じゃんか!?」

「あっちではな。

 あいつも確かお前と一緒で職業が武士だったけど、実際の武士ならもう成人してる年齢だぜ?

 それにノブは強いからな。どっかの誰かさんと違って、プププ」

(あお)ってんのか、おら!」


 にしても、生きてるなら安心だ。

 そうだよな、あいつはそう簡単にやられるタマじゃない。

 信之の安全を確認したら、なんだか肩の荷が軽くなったような感じだ。

 あとは湊の友達だけだ。


「あと、湊の友達なんだけど」

「湊ちゃんの?

 じゃあ、十三か十四か。名前は?」

「確か……あやめって言ってた」

「は? 苗字は?

 苗字! 苗字!」

「あ、あはは……」


 やべぇ、聞いてなかった……。


「ったく、使えねぇなあ……。

 まあいい、同盟が保護してる日本人の中にいないか連絡取っといてやるから」


 そう言って、手紙を書き始めたあんちゃん。

 あれ、ていうか……。


「あんちゃんって、同盟に入ってるの?」

「あ? まあ、入ってるっちゃ、入ってるな」

「なんだよ、それ。

 派遣社員みたいに仮契約かなにかか?」

「切られねぇよ!? 俺は切られねぇよ!?」


 なぜそこまで切られることに怯えるのか……。

 ま、森に住んでるぐらい強いんだから、必要とはされてそうだけどさ。



 その後、あんちゃんは羽ペン片手に俺に質問をしてきた。


「お前、宿は同盟が提供してるやつか?」

「うん」

「偽名とか使ってないか?」

「使ってねぇよ!」


 なんで偽名を使ったか疑われなくちゃなんねぇんだ!


「了解了解。じゃあ、頼むなピー太郎」


 あんちゃんは先ほどから書いていたメモを黄色いヒヨコのような鳥の足に縛り付ける。


「ピー」


 そいつは小さく鳴き、開いた窓から飛び立っていった。

 おお!


「伝書鳩みたいな感じだね!」

「平たく言えばな」


 大きく屈伸してから立ち上がったあんちゃんは、なぜか俺の襟首をつかむ。


「なに……?」

「あ? 修行に決まってんだろ。

 お前、何しに森にきたんだ」


 おっしゃる通りです……。



 引きずられる形で外に出た俺は、仕方なしに立ち上がる。

 あんちゃんは地面を軽く踏みつける。

 すると、何もない空間から彼の右腕に木刀が現れた。


「おお!」


 これが魔法なのか!?

 俺は訳もわからずに拍手する。

 いや、分からないから凄いと思ったわけだが。


「ほらよ」

「うわっと」


 その木刀を投げ渡され、俺は危うくもどうにかキャッチする。

 そして、それを構えてあんちゃんに向く。

 しかし俺の行動を見たあんちゃんは大きなため息をつき、小さな子供を諭すような態度で俺に説明した。


「いいか? お前はまだ戦い方を知らないクズだ。ウジムシだ。

 そんな奴がいきなり実戦か? 恥を知れ、ウジムシ」


 馬鹿にされて大いに恥ずかしいよ。


「さて、森の戦いを見る限りお前は『一刀流』だ。

 一刀流は知ってるか?」

「坂本竜馬の北辰一刀流なら」

「まあ、それもそうだが。

 お前の一刀流は初代、つまり開祖である伊藤一刀斎の技がほとんどだ」

「伊藤一刀斎? 聞いたことあるかも」


 なるほど。とりあえずはその一刀斎の剣を学べばいいのか。

 どうやら俺の推測は当たったようで、あんちゃんは一刀流の戦い方を教えてくれた。


「一刀流の剣技は『切落とし』、つまり相手の刃を()ける事なく、相打ち覚悟で向かっていき、相手を斬り落とすことを目的としている。

 剣道くずれのお前にはぴったりだな」

「さり気なく馬鹿にするんじゃねえ」


 俺のツッコミを華麗にスルーして、あんちゃんはさらに呼び出した木刀を一振りする。


「いいか? ある程度、実戦はしたと思うから分かっていると思うが、剣術は実戦ではない。そのまま通用するものじゃない。

 ましてや、剣道はスポーツ。型にはまりすぎた動きは、実戦では足を引っ張ることもあるだろう。

 しかしお前はウジムシだ。ウジムシに最初から型にはまらない動きは無理だ。

 だからまずお前は、新しい動き、つまり一刀流の戦い方を学べ。

 より実践向きの剣を、アーツを通して身体に染み込ませろ」


 あんちゃんの長々とした指示に俺は、


「うえ、めんどくさ」

「信之はやったぞ?」

「妙剣っ! 絶妙剣! 真剣!」


 素直に従った。


 しかし、あんちゃんの練習はそんなに甘いものではない。


「あと、アーツを発動するときに名前を叫ぶな。

 剣技にしろ、魔法にしろ、何をしようとしているのか相手にばれてしまうだろ。

 名前を叫ぶ奴はゴミクズだ! ミジンコだ!」


 ウジムシやミジンコになんの恨みがあるというのだ!


「なにも考えずに名前だけを連想するな。

 頭の中ではその技を生んでどうなるのかを考えろ。

 剣術ってのは、心の読み合いだ。

 孫子も言っているだろう、『彼を知らず己を知らぬ者は百戦全敗也』。

 相手を知らないならいざ知らず、自分を知らない奴が勝てるほど剣の道は甘くはないぞ!」


 俺が黙々とアーツを繰り返す近くで、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるあんちゃん。

 中学時代を知らない俺ならば聞き流していただろうが、あんちゃんは言ったことができていないと容赦なく手を出してくる。

 俺は極限まで集中して、この作業を繰り返さなければならなかった。

 いつになったら解放されるのやら……。


 中学時代より厳しくなったしごきは、周りが何も見えなくなるまで続いた。

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