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窓に映る瞳

作者: とりとり
掲載日:2025/12/24

今日は暗いな。

クリスマスなのに、天気悪い。


朝、和葉はカーテンを開けると、夕方のような薄暗さに少し戸惑った。


「まあ、予定は何もないけどね」


それでも、イベントの日ってなんとなく良い天気の方が嬉しい気がする。

のそのそと、いつもと変わらず仕事へ行く準備を始めた。

空が暗いと思うからか、動きが鈍い。


「行ってきまーす」


赤いマフラーを巻いて、誰もいない部屋へ声をかけて鍵を閉める。

どんよりとした空を見上げながら、駅へ向かった。


電車に乗る人たちは、いつも通りたくさんいる。

朝だからか、イベント感は全くない。


帰りは、楽しそうな人がいっぱいいるんだろうなあ。

ぎゅうぎゅうの満員電車に乗りながら、ぼんやり窓の外を見ていた。

トンネルを潜った瞬間、窓に自分の姿が映った。

少し離れた所に立っている青年と、バチリと目が合う。

その顔は整っていて、存在感があった。


あ、やば。


いかんいかん。ちょっと長く見てしまった。

すぐに我に返って目を逸らす。


イケメンさんだったなあ。朝から良いものを見た。

ちょっと気分が上がって、足取り軽く電車を降りた。


その時、ジッと見つめる瞳には気付かなかった。


「おはよーございまーす」

「おはようございます」


パタパタと、開店の準備をどこの店員も始めていた。

和葉も制服に着替え終わると、すぐに売り場へ向かって掃除を始める。

クリスマス用のお菓子セットが足りないかチェックもして、品出しをする。

レジ担当の先輩は、チャリチャリとお金を数えて入れていく。


お客さんの知らない、開店前の少し非日常な雰囲気。

開店まであと五分。


「今日は忙しいだろうから、休憩できる時はすぐ出ようね」

「はーい」


先輩と笑い合って、カウンターに並んだ。

開店の音楽が鳴った。


色んなお客様が訪れる。

会社へのお土産。子供へのプレゼント。好きな人へのお礼。


みんな、少しはにかんだ笑顔で受け取って去って行った。

クリスマスってやっぱり特別って感じでいいよね。

忙しくて疲れてくるけど、良いお客さんに出会うと心が温かくなる。


「すみません。これください」

「はい。ありがとうございます」


可愛い袋に入ったクッキーの詰め合わせを指差したのは、どこかで見た気がする、黒いコートを着たスーツの男の人だった。

手際良く紙袋に入れて、商品を渡す。


「あの、俺のことを覚えてないですか?」

「え?」


首を傾げて、キョトンと彼を見つめてしまう。

……どこかで会った?どこか、どこか。


記憶を辿るが、薄ら何かが引っ掛かるのに掴めない。

男性の顔を見る。整った顔立ち。真剣な瞳。


「…すみません。どこかでお会いしましたか?」


私の返事を聞くと、彼の瞳が閉じられた。


……ああ…またか


気がつくと、俺は電車に乗っている。

周りに気付かれないように辺りを見た。

老若男女、多くの人が乗っている満員電車。


いた。


今回の彼女は、赤いマフラーをしていた。

自分はいつも同じ格好なのに、周りは同じ人間なのに、違う服装だ。


何故、自分だけ変化がないのかわからなかった。


窓の外をジッと見ていると、トンネルに入る。

パッと電車内が窓ガラスに映り出す。

すると彼女と目が合った。

俺に気付いてくれるのは彼女だけ。


いつも、この瞬間は彼女が何か知っているんじゃないかと、希望を持ってしまう。


少しの間、見つめ合うと彼女はフイと目を逸らす。

………今回も、ダメなのか?


彼女は何でもないように電車を降りて、仕事場へ向かう。


毎回違う場所。

だが、いつもどこかの店員になっていた。

毎回、客を装って彼女に話しかける。


「あの、俺のことを覚えてないですか?」

「…すみません。どこかでお会いしましたか?」


どんなに言い方を変えても、彼女の返事は全く同じだった。その言葉が終わりの合図。


何度も何度も……。


電車の中。窓に映る君。

目が合った瞬間、僕はすぐに目を閉じた。



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