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大切に育てた子供達は大陸を滅ぼしかねない存在でした 〜最強の魔族が支えるスローライフ〜  作者: 達磨 紺紺


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9/13

決意の朝に

「う゛うぅ……最悪だ………」


 頭痛と倦怠感に支配され、俺は二日酔いを自覚した。けど、幸か不幸か、この体は酒に溺れても記憶は飛ばないタイプらしい。


 昨日の醜態もしっかりと記憶の中に残ってるし、何ならそれ自体も頭痛の種ですらある。


(……あいつらにも、謝んないとな)


 子供に見せるには、あまりにも情けない姿を晒した。正直、あれで俺が怒られなかったのは、あいつらが優しすぎるのか、呆れ果ててしまったかの二択だ。どちらにしても、保護者としてあるまじき問題であることに変わりはない。


 頭を抑え、覚束ない足取りで階段を下ってリビングに入る。まだ早朝で、子供達は全員寝ている時間だ。だが、テーブルを囲むように七つある椅子のうち、奥の一つが埋まっていた。


 そこにいたやつと目が合い、俺の思考が一瞬止まる。準備できていなかった心臓が跳ね、何を言おうかと考えていると、


「おはよう、ユーゴ。今日は少し早めだね」


「んっ、ああ……いや、ちょっとな」


 いつも通り、何気ない会話を始めるアルフの様子に面食らってしまう。何も言われないのは、それはそれで不安な気持ちになる。


 けど、昨日の件はなあなあにしていい話じゃない。街でのこともあるし、今のうちに全部清算しよう。


「………あ、あのさ、アルフ。昨日は悪かった。おれっ、これからはもっと――」


「そのままでいい」


 けど、アルフは俺が何を言おうとしてたのか分かっていたように言葉を遮り、俺を真っ直ぐ見つめながらそう言った。

 漆黒の瞳に、俺の意思が吸い込まれるかのように惹きつけられる。心を全て見透かされているかのような居心地の悪さを感じるのに、俺はそのまま金縛りにでもあったかのように動けなかった。


「君は、そのままでいい。お金なんかなくても、僕らは君が君らしくいてくれることの方が大切だ。何せ、僕らのような魔族に優しくできるのは、君くらいだろうからね」


 目を細め、手元のカップに目を落とすアルフは、過去を懐かしむように笑う。けど、その過去は、決してそんな顔で振り返れるものではないはずだ。


 それに、アルフが言った『魔族』という言葉からは、強い自虐を感じた。


「………魔族だってことは、別に――」


「ユーゴ。君も分かってるだろ? 少なくとも、この世界でそれは間違いなく欠陥だ」


「…………」


 何も、言えなくなった。


 分かってる。それのせいで俺の幼馴染は、あの村で迫害を受けたんだ。それを見てきた俺が、魔族であることは悪いことじゃないだなんて、心の底からは思えない。



 けど、それでも



「そんなの、お前らのせいじゃないだろ!」


 これは、紛れもない本心だ。


 何も、何一つ、こいつらは悪くない。ただ生まれてきただけで迫害されることが、正しいわけがない。

 怒りに震える拳を握り締め、それしかできない自信の無力に感情が上乗せされる。こんなことを俺が吠えたところで、世界は何も変わらないのだから。


 申し訳なくて、下を向いて俯く俺に、しかしアルフの声は優しかった。


「そうだね。その欠陥を、君はないものとして扱ってくれた。君にとっては何気ないことなんだろうけど、それで僕らは十分救われてるよ」


 そんな、怒りを胸に抱いた俺を見て、アルフは笑う。


 優しく俺を見つめる瞳の中に、何故か先ほどまで感じていた居心地の悪さはなく、ヒートアップした俺の頭を冷静に戻してくれた。


「アルフ………う゛っぷ」


 そこで、俺は体内からの不快感が一気に喉を上ってくるのを感じ、咄嗟に口元を抑える。何というタイミングだと自分の体を呪いたくなるが、突発的な吐き気は既に俺の喉を鳴らしてしまった。今更取り繕っても遅い。


「二日酔い? あんな飲み方するからだよ。まあ、たまに羽目を外すのはいいと思うけど、ほどほどにね」


 だが、アルフは気にした素振りもなく、俺の身体を気遣う言葉を囁きながら俺の背中をさすってくれる。出来すぎたその対応に涙が出そうだ。


「ううっ、………すまん」


「いいって。あ、それと、今日は僕らの朝食はいらないよ。みんなで少し散歩に行くことにしたから」


「さんぽ?」


 アルフ達は、たまに皆んなで山に歩きに行くことがある。それはそこまで問題ではないのだが、山は色々な動物もいるし、危険が全くないわけではない。

 だが、以前俺も同行しようとしたら断られてしまい、それ以降もその散歩とやらに俺は連れていってもらえていない。俺が企画するピクニックは全員が参加してくれるのだから、何が悪いのかは分からないが。


「まぁ、いいけど………気をつけていけよ?」


「その状態の君に言われるのは釈然としないけど、分かったよ。じゃあ、いってきます」


 そう言って、俺の背中から手を離したアルフが、リビングを出ていく。それを見届けてから、俺はリビングのソファーに倒れ込み、体の内側に湧き上がる不快感との戦いを始めた。








                 ********




「………さて」


 リビングを出たアルフレットは、その足で玄関に向かい、外に出る。そこには既にアルフレット以外の子供達が集まっており、最後に集合したアルフレットに五つの視線が向けられた。


「待たせて悪かったね。みんな、準備はできてる?」


「あったりまえじゃん! さっさと片付けちゃおうよ。早く帰って、今日の分の家事やんないといけないんだから」


「さっさとってのは賛成だが、焦って殺すんじゃねーぞ? 人間ってのは脆いからよ」


「一番殺しそうな図体で何を言っておる。説得力がないぞ?」


「ふん。人間共め、まだ妾の恐ろしさが理解できんとは、今こそ『深淵のソフィア軍団』が本当の恐怖を教えてやろう」


「………まさかとは思うが、そのおかしな名前の集団に我は入っているのか?」


 緊張感の欠片もないその様子に、アルフレットは自然と頬を緩める。


「うん。じゃあ、行こうか」


 頼もしい限りの仲間の存在を視界に収めながら、アルフレットはそう宣言した。


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