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大切に育てた子供達は大陸を滅ぼしかねない存在でした 〜最強の魔族が支えるスローライフ〜  作者: 達磨 紺紺


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8/13

罪悪感

「何? その質問」


 アルフの視線に観念して、漏れ出た俺の本音は、確かに要領を得ないものだった。


 自覚はあるけど、酔いと無力感から、あまり頭を回す余裕がない。


「今日、キージャでさ……」


 だから俺は、少しずつ、時間をかけて、その日の出来事を話し始めた。



 商店でのこと、大道芸でのこと、スカウトのこと、その街で子供が着ていた服。

 一つ一つを、まとまらない言葉で話す自分は、きっとアルフから見れば子供のように見えるかもしれない。



「……そっか。そんな事が」


 俺が話し終えるまで、アルフは口を挟むことなく聞いてくれた。その姿が、昔のこいつと被る。

 出会って間もない頃、まだ感情を表に出さずに――いや、感情を持てずにいた時だ。今でこそ喜怒哀楽の分かる程度にはなったと思うが、その頃は一方的に俺が喋って、アルフが聞き役になることが多かった。


 その時、滅多に話さないアルフに言われた言葉が、今になって俺の心を抉った。


「お前が昔、言った通りだったよ」


「?」


「俺には、何の力もない。お前らの親代わりになんて、なれる奴じゃなかったんだよ」


「〜〜〜〜ッッ!! ――っ、」


 アルフの方から、息が詰まったような音が聞こえる。

 きっと今のアルフは、そんなこと言わない。それはきっと、俺に気を使っているからだ。本当に、優しい子に育ってくれた。

 そんなアルフの優しさを踏み躙るような自身の言葉が、情けないことこの上ない。それを理解してるくせに、俺の口からは無意味な自嘲ばかりが垂れ流された。


「偉そうに色々言ってきたけど、俺は弱くて、特技なくて、金も稼げなくて……売れる薬草だって、殆どお前らが見つけてくれるから生活できてる」


 重い心持ちの中、何一つまともに出来ない劣等感が襲う。死んでしまいたくなるような羞恥心を隠すように、眼に腕を乗っけて視界を塞いだ。


 心の何処かで、舞い上がってた自分がいた。俺が、この六人を育て上げたんだって、そう思ってた。

 今日、自分の無能を思い知るまでは、そう思ってたんだ。


 育てるだけで、満足してしまっていた。


 本当なら、好きな物を食べて、好きな服を着て、好きな場所に行きたい年頃の子供に、その全てを我慢させてる。全部、俺の力不足で。


「っっ、気にするようなことじゃないよ。僕らがここまで生きてこれたのは、君のおかげじゃないか。だから――」


「おれさぁ、言い返せなかったんだよ」


 止まらなかった。抱えていたものが、堰を切ったように溢れる。ゴードンに言われた言葉に、俺は――


『自覚もなかったのですか? 子供達の可能性を潰しているという自覚すら』


「そんなことねえって、言い返せなかったんだ。………自信持って、俺が育てたんだって言えなかった………迷ったんだ。俺は本当に、お前らをちゃんと育てられてんのかなって………考えるべきだった。もっと………皆だって、思うところがあったはずなのに」



 周りを見て、劣等感を感じていなかったか?



 もっといい生活がしたいと、思ったことはないか?



 バカなことを考えてると分かってる。あいつらに何かを言われたわけじゃない。



 けど、多分俺は、それに甘えてた。



「お前らを拾ったのが……俺じゃなかったら………きっと……」


 きっと、もっと上手くやれていたんだろう。


 自分の身の程を、ようやく理解した気がする。分かってたつもりだったけど、子供を育てる覚悟を持ってた最初の頃より、今は妥協できるところを見つけて、何も言われない事に甘えて、自分にできる努力すら怠ってきた。


 そのツケを、よりにもよって今、この家の全員が払ってる。自分の怠惰に嫌悪感が滲み出る。

 声が震えるのを自覚するが、それを抑える術がない。あまつさえ、情けなさに拍車をかけるのを分かっていながら、酒に頼って罪悪感から逃げようとする始末。


「っ、ユーゴ。君は――」


「ごめん」


 言ってはいけないと、言うべきではないと、頭ではわかっている。


 けど、罪悪感が、俺を押し潰そうとしてくる。


 どうしても、言わずにはいられなかった。


「俺が親代わりで………ごめんな」


 決定的なその言葉を吐き出したら、少しは心が軽くなるかとも思った。


 けど、そんなことはまるでなくて、黒くて重い何かが全身に広がる。


 指の一本すら動かすのが億劫に感じてしまうほどの脱力感と、本気で消えてしまいたいほどの自己嫌悪。


「………少し、一人にさせてくれ」


 アルフの反応は見えない。ずっと視界は塞いだままで、真っ暗な世界であることだけが今の俺の救いだった。


 今は何も、考えたくなかった。







                 ********




「……………」


 ユーゴからの、おそらく初めてであろう拒絶の言葉を聞いた後、アルフレットはしばらく呆然とした様子でその場に佇んでいた。


 足に根がついたのかと思うような硬直と、今すぐこの場から逃げたいという相反する事象に戸惑いながらも、これ以上の拒絶に対する臆病風がその背中を押す。


 ゆっくりと足を動かし、部屋の外へ出ると、その周りには部屋から見えないように他の全員が揃っていた。


「……盗み聞きかい? あまりいい趣味とは言えないね」


「そう言うな。全員、冷やかすつもりで来たわけではない。それに、貴様は気付いておっただろう」


 シーナに言われた通り、アルフレットは部屋の外にいる存在に気付いていた。だが、それがユーゴを心配してのことだということも理解している。だから、ユーゴには伝えなかった。


 全員に聞かれていたと知ったら、流石に本音は聞けないだろうと思ってのことだが、今回は裏目に出たかもしれない。


 あの日の自身の言葉を、まだユーゴが引きずっていることを、アルフレットは知らなかった。


 知りたく、なかった。


「そう気を落とすな」


 罪悪感に押しつぶされそうな自身の心を読んだように、シーナがアルフレットを慰める。


「……僕を責めないの? 今なら、何を言われても受け入れるよ」


 それを意外に思ったアルフレットは、力無い声でシーナに問いかけた。


 ユーゴを苦しめた、過去の不用意な発言を悔いるアルフレット。そんな彼に対し、ユーゴを慕うこの場の全員が、責める気配を見せない。


「………そんな気にはなれんよ。ユーゴに出会う前の儂等は、皆似たようなものじゃ」


 そして、過去を悔やむアルフレットと、似たような顔をしたシーナがそう告げる。その場に落ちた沈黙は、その言葉に対する全員の賛同を意味していた。


「……ユーゴの話、どう思った?」


「どうもこうもねーだろ。立場が変わっただけだ。助け合うのが家族だってあいつは言うが、……俺は、あいつに助けられたことしか思い出せねえよ」


「そうだな。挙句、親代わりになれる奴じゃない? 我がその場にいたら、その人間を八つ裂きにしてたぞ」


「何も出来ない無力感を、あやつも少しは感じればいいんじゃ」


「それでようやく、私達と対等だね」


 それぞれが好き勝手に発言し、ユーゴへの愚痴とも取れる言葉を並べる。だが、その音に侮蔑がないことは明白だ。

 胸の内にある気持ちを共有し、つい先程の空気から憑き物が落ちた顔になったのは、ユーゴを案じる自身の方向性に迷いがない証拠だろう。


 一人を除いて。


「……………」


「ソフィア?」


 俯き、普段の喧しさが鳴りを潜めるソフィアに、違和感を感じたアルフが声をかける。



「………ご、ごめんだし。うちがついていながら……こんな……」


「よせ、其方のせいではない。そもそも、そのゴードンという者が言ったことは聞くに耐えん戯言じゃ」


「そーそー、気にするようなことじゃないって」


 シーナが言った慰めの言葉に、リリスも加わる。


 そう、戯言だ。ユーゴが親気取りだなどと言ったその男は、ユーゴの八年を知らない。それでも、断片的な情報だけで理解した気になる愚かしさを、彼等は自覚すらしていないだろう。

 少なくともアルフレットは、大抵の人間がそういった生き物だと理解していた。



 そうでなければ、アルフレットはこんなにも――――



「――ソフィア」


「うん。来てる」


 その時、アルフレットとソフィアの雰囲気が変わり、それを察した他の四人も一瞬で気を引き締めた。


「マジかよ、早ぇな。前からそんなに時間経ってねえだろ」


「だから生温いと言っただろう。できるだけ傷付けないなどと甘いことを言うからだ。………いっそ、今度こそ見せしめに――」


「ハク」


 苛烈なことを言い始めたハクリエルを、リリスが咎めるように呼ぶ。感情的だった瞳は次第に理性を取り戻し、自身を落ち着けるように一度瞳を閉じた。


「………すまん。今のは、冷静ではなかった」


「気持ちは分かるよ。けど、ここに住んでるうちは、そーゆうのやめよって話したじゃん」


 普段あまり説く側に回ることのないリリスが、激情を覗かせたハクリエルに理解を示す。だが、その後に話したことが、リリスにとって、この孤児院にとって譲れない一線だ。

 それを確認したアルフレットは満足そうに笑ってから、一度眼を閉じ、遠方に気を向ける。


「まだ距離があるけど、明日にはナラル平原に着くんじゃないかな。数は………二十……いや、二十二万前後だと思う」


「二十二!? また随分と大所帯じゃねーか」


 アルフレットが告げた言葉に、ギンがげんなりと息を吐く。心底面倒だと表情で語る辺りがこの男らしいが、その心境を共有するアルフレットにしてみれば余計に気が重くなるだけなのでやめて欲しいものだ。


「まあ、やるしかないじゃろ。この場所を、守るためじゃ」


 シーナの覚悟を決めたその言葉に、その場の全員が同意するのを視界に収めたアルフレットが口を開いた。


「出発は明日の早朝。それまで、みんなしっかり休んでおいてね」


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